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雨音
しおりを挟む僕と後輩は貸しスタジオで、ニューチューブに流す新曲作りに頭を悩ましていた。
僕と後輩は世界を見ていた。
どちらが早く夢を実現出来るか、
会う毎に夢を語りあった。
今日は、後輩から頼まれて、手伝いに来た。
貸しスタジオは2時間しか取れなかったらしい。
適当に手伝っても良かったが、僕は先輩面をしたく、一緒に悩んでしまった。
「この、フレーズの後、効果音に雨音いいんじゃないか」と僕が言うと、
「えっえ、良いですか、雨音、先輩のラッキーアイテムですよね、良いんですか」と、喜んだ。
一瞬、僕は、言わなきゃよかったと思ったが、言ってしまった。
「英語の歌詞と、雨音って合うよな」
もっと余計な事を言ってしまった。
「ありがとうございます、先輩がよく使う音じゃなく、180度違うのを入れます」
180度違うって、何だと思ったが、
「好きなの入れたら良いよ」と、僕は返事をした。
なかなかやり初めないので聞いたら、
「実は、効果音の入れ方わからないんで、教えてください」と、言ってきた。
「えっ、そうなんだ、じゃ今回はやめよう、何回か練習した方が良い、音の幅とか深さとか、一番良いの探すの時間がかかるから、ここ2時間だろ」
暫く後輩は無言になった。
ボソボソと遠慮がちに、
「雨音の効果音、先輩にお願いしても良いんですか」
僕は、悩んだ、僕が入れると半分は僕の曲だ、
「僕と作曲連名になるよ、良いの」
「大丈夫です」と、
今までに見た事もない後輩の笑顔だった。
一瞬、目が眩しくなった。
笑顔を見た途端、単純な僕は、(良し最高のを入れてやるから)と、心で返事をした。
笑顔に後押しされた僕は、僕の中で想像出来る最高の効果音を入れた。
他の部分が掠れるくらいの出来だった。
いつもの先輩面がまた出てしまった。
後輩は出来上がった新曲をニューチューブに発表した。
後輩のその新曲が凄い事になった。
有名なイギリスの詩人が、雨音、英語で検索したら後輩のニューチューブが出て、
その詩人が雨音の効果音が素晴らしいと、宣伝してくれた。
世界的ヒットになった、雨音がトレンド入りした。
連名のはずが僕の名前はなかった。
後輩は僕との連絡を断った。
世界的スターの後輩と無名の僕。
これも人生だ。調子の良い後輩が、調子良く僕の心まで持っていった。
残念、悔しい、さまざまの心の感情が僕を疲弊させた。
ああいう調子が良い人間が寄ってきたのも、僕が引き寄せたと思って忘れる事にした。
世界を夢見た、夢破れたわけではないが、後輩と同じところには居たくない。
僕は、日本語の歌詞でラッキーアイテムの雨音を効果音にニューチューブにいつも通り出していた。
世界的ヒットの雨音と出し方が似ていると、徐々に評判になり、僕と後輩の関係が公になった。
僕は、
(僕が入れてあげた、
僕しか入れられない特殊な方法だ)と、
会見を開いた。
会見を開いても世間は収まらなかった。
後輩が雲隠れしていたからだ。
雲隠れなら良いが。
後輩がニューチューブに発表して3年後の事だった。
3年前貸スタジオで会ったのが最後、その後連絡を断たれた。
あの笑顔、忘れられない。
僕は外を眺めた。
今日は雨だ、雨音が悲しく聞こえた。
悪かったと、一言言ってくれたら、
僕は全部、雨で流した。
終。
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