残された世界

幸輝

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「おかえりなさい、部長。
今日のログインボーナスはこちらです。
そして、こちらは10周年間近カウントダウンボーナスです。
また明日も来てくださいね」

 私が安定のセリフを言い、一礼すると、目の前が真っ暗になった。

「お疲れ~、ゆま」

 背中まである金髪を持った、明らかにギャル風な女性が、手をひらひらと振って近寄ってくる。腕についている三本のブレスレットがシャラシャラと鳴った。

「ヒメノ先輩、お疲れ様です」

 ヒメノ先輩は自身のウェーブかかった金髪の毛先をいじりながら私・ゆまに口を開く。

「部長、久々すぎない? 一週間ぶりくらい?」

 私は苦笑いをして、そうですね、と答えた。

「今のパートナーって、セナちゃんだっけ? あたしは今日出番あるのかな~」
「パーティーには組まれてますから、戦闘要請があれば、部長に会えるんじゃないですか? スタメンなだけ、チャンスはありますよ!」

 ヒメノ先輩は半ば諦めているのか、部室である教室の教卓に飛び座った。

「部長、元気そうだった?」
「えぇ、まぁ、普通……?」
「そっか、いや、なんかさー」

 綺麗に装飾されているネイルを蛍光灯にかざしながらヒメノ先輩は続ける。

「10周年目前のログインボーナスつけ始めたら、戻ってくる部長が増えてるらしいんだけど、それゲットしたら即切り多いって他の学校の討伐部員が言ってたから」

 チェックが終わったのか、ネイルを見るのを止めるヒメノ先輩。

「これでセナちゃんがソッコー部室に戻ってきたら、あたしらの部長も同じだけど、元気そうならデイリーミッションくらいはやってくれるよね?」

 はい……、と曖昧な返事しか私には言えなかった。元気かどうか、画面越しだとよくわからないし、何よりもスキップボタンを押されたので、その表情も僅かしか見えなかったのだ。

「デイリーミッションやってくれたら、戦闘要請が入ってきますから、ヒメノ先輩も部長に会えますね!」
「それな~!」

 私とヒメノ先輩が他愛なく笑いあっていると、茶髪を短くかった髪型の小柄な女の子が、扉を強く叩いて入ってくる。あまりの音の大きさに、沈黙する。

「はいはい、ログアウト~」
「セナちゃん……」
「デイリー簡単なのだけ潰して即ログアウト~」
「まじかぁ……あたしらの部長もか……」

 ヒメノ先輩は教室の天井を仰いだ。

「あたしがパートナーの意味、なくない?」

 泣きそうな顔で悔しがっているセナちゃんの頭を私は撫でる。教室には重苦しい空気が流れていた。





【学園討伐部】通称、学討
これがこの教室の前にでかでかと木の看板に書かれて立て掛けてある部の名前で、
そしてこの世界、ソーシャルゲームの名前である。
 ここは20XX年、ソーシャルゲームが多産された時代で、この学討もその一つ。

 この世界が生まれたのは約10年前。と、いうよりも、後3日後には、生まれて10年。
 10年も続いているソーシャルゲームなんてあまりにも少ない。それくらい、たくさんの世界が生まれて、そして廃れてきている時代。
 そんな中、私達の学討は10年も続こうとしている。それって、とってもすごいことだと思いませんか?



 この世界では、プレイヤー、いわゆる、学討のサービスを受けている人のことを【部長】と呼んでますが、
ここでは、この物語を読んでいる読者の皆様を【部長】と呼ばせていただきますね。






 早速ですが、部長!
一緒に3日後の10周年を祝ってくれませんか?
いきなり会って祝えだなんて失礼ですかね、でしたら、私・ゆまと一緒に、この物語を楽しんでください。

 ここだけの話、10周年記念日に、この学討の運営から重大発表があるらしいんです。
 内容は私達部員全員知らされてないんです。
 何を発表されるか、今から楽しみですよね!

 黒髪のポニーテールをゆらし、私は心の底からにっこりと部長に笑って見せる。
 そして暗転するのであった。
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