残された世界

幸輝

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10周年

提案その2

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 まだ陽は昇っていない12月の朝5時すぎ。 今日の部長は早くログインをしたのだな、と思った。
 屋上には、とても高いフェンスとその奥に柵があり、表情の分からないあやなは、フェンスに寄りかかった。

「私もスズ先輩からお問い合わせの返信聞いたけど、そりゃサ終になるんだったら、定型文の返事になるよね~」

 サ終、とは、この業界の用語で、サービス終了、という言葉である。

「私さ~、考え直したんだ」
「何を?」
「私達、ソシャゲの住民は、サ終っていう、いつかは死ぬのが確定して生まれてきた存在なんだよな~って」

 あやなは手を組み、前へその手を伸ばす。

「そんな死ぬための世界の中に、のっぺらぼうって言うインパクトのデカイキャラクターを残せて、私はラッキーだったな~って」

 あやなは、うふふ、と笑って続けた。

「学討でバグのっぺらぼういたよね~って、部長がいつか思い出してくれたら、私は嬉しいよ」

 私は何も言葉が出てこなかった。
 屋上には強めの風が吹き抜ける。

「ねぇ、覚えてる? 今だとざらだけど、リリースして一年か二年目の頃、部長が突然、一週間くらいログインしなくなった時のこと」

 あやなは、まだ暗い空を見上げ、思出話を始めた。
 私は、うん、とそれに返す。その時のことは覚えていた。

「スマートフォンの機種変更をして、引き継ぎをどれにしたか分からなくなって、ログインできなくなった時だよね」
「そうそう! その時の!」

 あやなは、目こそないものの顔を私に向ける。

「それの時! 機種変更してログインできなくなった。それって、なんで私達がわかってるのかな?」

 いきなりのあやなの問いに、え?、と私は一拍止まった。かれこれ8年位昔の話で、少し考えてしまった。

「それは……SNS連携をしてたから、部長がSNSにそう書いてたのを私達が見たから……」

 あの時は、部長! このアカウントだよ!、と必死に部長を応援していたっけ。
でなければ私達の世界が電子の波を漂うことになるから。
 部長も四苦八苦していて、SNSに、どーしよー!! ログインできないー!!、と書いていたのを思い出した。
 結果的には、SNS連携をしていたアカウントを思い出して、ログインできたのだけれども、複数アカウントを作成してると大変なのだな、と思ったものです。

「そう、それなんだよ」

 あやなの言いたいことがピント来ず、私の頭の上にはハテナマークが飛ぶ。

「どういう意味?」
「部長のSNS、久々に覗き見しない?」

 今度は驚きで、え!?、と声を出してしまった。

「だってあれは、特別に、ってスズ先輩と先生が見せてくれたのであって、あれっきりしかしてないし……ってか、できないだろうし……」
「今は、サ終しちゃうから、っていう特別な時だと思うんだよね!」

 きっとあやなに表情があったのだとしたら、いたずらを企む子どものような顔をしているに違いない。

「うーん……ダメ元で……二人に聞いてみる?」
「うん!」

 あやなは嬉々として、フェンスから弾みをつけて自立する。
 空はようやく白み始める頃合い。少しだけ、私達二人の心も新しい陽が見えそうであった。
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