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アカリの修業

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俺達はドラゴン族の里に向かって順調に歩いている。

問題があるとすれば・・・



「アキラ!!もう歩けない足痛い、お腹減った」



この駄々をこねるわがまま娘の存在である。

アカリは旅を初めて2時間くらいはきちんと歩いてたが、すぐに根をあげてこのありさまだ。



「ねえねえ、お腹減った」



「ちっ。いいだろう今日はこの辺で野営してやる・・」



「やった!!」



「だが!!!」



俺は喜んでいるアカリに指を突き付けて宣言する。

ポカーンと俺の指先をながめて馬鹿丸出しのコイツにこの旅の過酷さを教えてやる。



「お前が今日の晩飯となる獲物をつかまえろ」



そういって俺はホグリットを出発する前に買ったダガ―と弓矢、それにロープをアカリに渡す。



「はあ!!??無理だよやったことないもん」



「安心しろ。今日から少しずつ教えてやる、俺とザムドでな」



「がはははは。楽しくなるな小娘!!」



アカリは信じられないと叫び、ぶつぶつと一人ごとを呟き現実逃避する。





「サイテー!!こんな美少女にそんなことさせるなんて・・ならせめて魔法がいい!!」



アカリは俺に魔法を教えてくれとせがんでくるが、残念ながら俺は魔法を使えない。

ザムドの方をみると、俺に任せろと自分の胸をたたいてアピールする。



「よし、なら俺にまかせろ!!小娘にピッタリの魔法を教えてやる」



「本当!?さすがザムドさん!!!」



おしえるといってもそんな簡単に出来るものではないのに、アカリは直ぐにでも魔法が使えるとおもってるようで大はしゃぎだ。馬鹿な奴。俺だってつかえないんだ。そんなすぐできてたまるか。



「よし、まずは風魔法だ。この魔法は投擲する石や矢に風の魔力を込めて貫通威力や命中精度を格段にあげる魔法だ。みていろ・・・」



「うん!」



そしてザムドは実演を始める。

地面に落ちている手頃な石を一つ拾い、詠唱を始める・



「空を駆ける風の精霊よ我に力を、貫け!風魔法・風来貫!」



すると石を中心に風が発生する。

その石をザムドが100メートル程先にある木に向かって投げる。

最初はあらぬ方向に飛んで行ったが、ぐんぐんカーブして木に直撃する。しかも石は木を貫通してしまった。



「どうだ!これを弓矢に付与すればイノシシの一匹や二匹くらい余裕だろ!」



アカリは魔法という可能性に目を輝かせて両手をあげてはしゃぐ。

ザムドのことを師匠と呼び早く教えてとせがむ。



俺は二人が魔法を練習してるあいだ野営の準備をすることにした。

まずはテントをはる。テントはホグリットの商店街でかったマジックアイテムの一つだ。

大きな布を広げて、その下に魔力の込められた魔石を置くと布が魔石に対して磁石のS極とN極のように反発して飛び上がる。それを飛ばされないように地面にしっかりと固定するだけで完成だ。自動的に簡易的なテントへと早変わり。



あとはたき火の準備と近くの川から水をくんでくる。

それらの準備が終わるころにアカリが俺の元に駆けつけてきた。



「ねー!アキラ!!!私の魔法見て!!」



「もうできたのか?」





アカリが完璧よと胸をはっていいはる。

・・・どうせ詠唱を唱えると少し風が集まる程度だろ。

俺はそんなのでは褒めないぞ。もうアカリを甘やかさないと決めたからな。



「いいだろう。やってみろよ」



「見てなさいよ!!!」



アカリは弓に矢をつがえて構える。



「空を駆ける風の精霊よ我に力を。貫け!風魔法・風来貫」



すると大量の風がアカリのまわりに集まりピュンという音と共に矢が飛んでいきカーブしながら150メートル先の木に刺さり貫通した。



「・・・・・」



「どう!?どうどうどうなのよ!!」



俺も使えない魔法を一時間足らずでマスターしただと!?

何故だ!魔法ってそんな簡単なものなのか!!!

・・・そうだ、コイツがあまりにも馬鹿なので忘れてたが、コイツの父親は勇者召還の儀式ができるほど優秀なエリート魔法使いだった。

コイツにもその血が流れているのだろう。



アカリがはやく褒めなさいよと俺にすりすり近寄ってくる。

たしかにすごいがここでほめたらつけあがるのは目に見えている。



「ふん。ちゃんと晩飯の獲物をとってから誇ることだな。いざという時に緊張して役立たずなんてこともあるからな」



「なに言っちゃってんのアキラちゃん。この絶対的美少女かつ天才魔法使いの私に嫉妬してるの?ふふふ」



相変わらずむかつく野郎だ。実はアカリのいう通り魔法ってやつにちょっと憧れている。

だからだろう。俺はちょっと図星を言われてかちんときた。



「そんなに自信がある天才のアカリ様なら、もし獲物をとれなかったら今晩飯抜きでもいいよな?天才なんだし」



「あ、あったりまえよ!!楽勝よ!でももし私が獲物をとれたらアキラにはちょこっとしか食べさせてあげないから」



アカリは若干弱腰な口調で俺の挑戦を受け入れる。

それにしても、俺が負けてもちょこっと食べさせてくれるんだな・・・

やっぱり変なところでいい奴だよなコイツ。



「・・・・・いいだろう。ならいまから獲物をとりにいこう」



「ふん、いいわ私の実力を思い知らせてあげる」



バチバチと俺とアカリの視線がぶつかる。

ザムドは陽気そうに俺達の様子をみてわらっていた。





俺とアカリはいま森の中にきている。

そして遠目には一匹の巨大なイノシシが動かずにじっとしていた。

俺達は木陰に隠れて息をひそめている。

奴等は気配探知能力が地球の動物達より段違いで鋭い。おそらく地球よりもこの世界の方がモンスターなど天敵の数が多いためだろう。



「おい、ここから狙えるか?」



俺は小声でアカリに確認する。アカリは少し身をのりだして獲物の位置を確認するが首を横に振ってこたえる。



「ちょっと遠すぎるかも、もっと近づかないと」



「ならもう少し接近する。いいか、ゆっくりだぞ。気付かれたら逃げられる」



「わかってるわよ。まかせてちょうだい」



俺達は木々の合間を抜けて進む。たまに小枝などを踏み抜いてパキと音がなってしまう。

アカリは緊張しているのかじわっと額に汗が流れている。

そしてある程度近づいた所で、イノシシと俺達の間に比較的遮蔽物がない最高のポジションをみつけた。



「ここならいけるわ!いくわよ!!」



アカリは静かに魔法の詠唱を始める。

風が集まり周りの落ち葉がヒラヒラ舞ってしまう。

これ以上騒がしくなったら気付かれてしまいそうだ。はやく仕留めないと。



「アカリ早くしろ」



「分かってるって・・・よしいける」



アカリは狙いがさだまったのか少し余裕をみせてわらう。

自信があるのだろう。もしここで仕留めることができたら少し悔しいが褒めなければならないだろう。



仕留める前から妙に癇に障るドヤ顔で決めているアカリがついに、静かに矢を指先から離す。





・・・・だがしかし、事件はこの時起きた。

だれが想像していただろうか。

遠目にイノシシを確認して慎重に、音もたてずにここまできたっていうのに・・・

矢を離す瞬間、アカリは複式呼吸をマスターしたかのような大きく通る声で決め台詞をはいてしまった。



「うがてぇぇーーーーー!!!!!!!!私の聖なる矢よ!!!!!!!!!」



「・・・・・・・」



は?こいつ馬鹿じゃね?いままで努力は?

隠密に行動してきた意味がいま、全て泡と消えた。

当然のようにアカリの掛け声でこちらに気付いたイノシシは、弓矢が到達する直前で横っ飛びで避けた。

そしてこちらに敵意をむき出しにして、前足で地面を擦り威嚇してくる。



この瞬間、狩る側と狩られる側の立場が逆転した。



「お、おいアカリ!まだ間に合う矢をかまえろ!!!」



「う、うん!ってこっちはしってきた!!!」



イノシシが猛烈なスピードで突進してきた!

しかも俺達の間に遮蔽物は殆どないときた。ひたすらにまっすぐ迫ってくる。



「なにしてるはやくしろ!!!」



「わかってるって!!!いっけえぇええええええ!!!!!!!!私の聖なる弓矢ぁぁぁぁ!!!」



アカリはまた矢を放つ。その矢はイノシシに一直線上に飛んでいき、狙いは申し分ない。

そのまま矢は飛んでいきついに突き刺ささった!



そう、地面に・・・・・・



かなしきかな、アカリは焦るあまり魔法を使うのを忘れて普通に弓を引いてしまった。

そして当然の如く、非力なアカリには威力も飛距離も足りず、ぽてっと矢はすぐそこに落ちてしまった。





「・・・・・・アカリ、お前との旅はここまでのようだ。楽しかったぞ」



俺は颯爽と身をひるがえしアカリを置き去りにして全速力で逃げる。



「ちょっとまってよ!!!!!!!助けてよ!!!!!!!!おいてかないでーーーー!!!」



悲痛な叫び声を俺は無視した。

アカリにはこの世がどれだけ厳しい世界か、もし生き残って帰ってきたら詳しく教えてやろう。

生きろアカリ!!俺は野営地でお前を待っている!!!!!!!





それから俺は木々を飛び越えザムドのいる野営地まで帰ってきた。



「ん、アカリはどうしたのだ?」



「あいつは・・・もう」



この過酷な世界で旅をすれば死とは常に隣合わせだ。

ザムドも無言の内に察する。



「そうか・・・・・まあくよくよしてもしょうがないぞ!ちょうどお前たちが狩りをしてる頃、俺も空を飛んでる鳥を捕まえてな!まるまる太って美味そうなんだ。食うとしよう!ガハハハッはッはは!!!」



「ほう、それは楽しみだ!あいつ分も食べて生きよう」



俺は火をおこしザムドがとった鳥を捌きを捌く。

たっぷりと柔らかい肉が沢山ついている。

落ちている枝で串を造り、肉を差して焼き鳥にする。

火にあぶるとジュウ、ジュウと油が滴り食欲をそそる。



「よし、食おうじゃないか!」



「うむ、アカリの冥福を祈り、頂くとしよう!ガハハハ」



「だれがしぬか------!!!!!]



俺が焼き鳥を口に入れると突然後ろからアカリが現れ俺の頭を殴った。その拍子で焼き鳥の串が頬の内側から外側に貫通してしまう。



「痛てぇぇえ!!!!!」



こいつ狂ってやがる!!焼き鳥を食べてる人を後ろから殴るとかマナー違反とかのレベルじゃない。

もはや罪だよ?人の子とは思えん!!!



「なにしやがるんだ!!!!ザムド、回復させてくれ・・」



はいよ、とザムドが簡単な回復術を俺にかけてくれる。

これで中々回復術の名手だ。以前セーラに切られた腕も自分で回復させて復活させている。

頬に空いた穴もあっという間に元通り!



「なんで二人とも普通に食事してるのよ!!!」



「いやー、俺はアキラの口ぶりからてっきり死んだかとな!」



「死んでない!!!ザムドなんかもう師匠ってよんであげないんだから!!!」



そういってアカリは俺の正面にきて仁王立ちする。



「アキラ・・・なんでおいてにいげちゃったのよ!!」



俺はアカリなどきにしないで手に持った焼き鳥を頬張る。

うまい!

アカリも食べたそうに焼き鳥を見ている。



「・・・・・・絶対的美少女かつ天才魔法使いのアカリ様なら不可能はないと思ってね。実際そんなこと言ってたし」



アカリは返す言葉が咄嗟にでないのか、悔しそうな顔をしている。



「それに俺の気持ちがわかるか?時間をかけて獲物を見つけて、いざ仕留めるって時にアホみたいな決めゼリフのせいで全てパアになった気持ちが・・約束どおり今日は晩飯抜きだ!!!」



その言葉を聞きアカリはまるで明日この世界が崩壊するとでも言われたように驚く。



「うそでしょ!?」



「約束は約束だ。文句あるか?」



「・・・・・わかったよ。悪かったわ、ごめんなさい・・」



アカリは俺がちょっと怒ると、しゅんとなって俯く。

飯ぬきがよほどショックなのか、無言で俺の隣にペッタリとくっついて座り、指先でいじいじと地面に渦巻きを書いている。



俺はアカリを無視して焼き鳥を食べようとするが・・・く、食いづらい・・・

やばいなんかこんなバカなのにちょっと可哀想にみえてきた・・これが美女補正ってやつか・・

なんか負けた気がするが仕方ない。



「まあ、これからは旅の途中ですぐ弱音を吐かずに諦めないで頑張ると約束するなら食べてもいいぞ!」



アカリはばっと顔をあげてホントに?約束するわ!と俺に縋りついて喜び、涙を流して焼き鳥を勢いよく頬張る。

俺やザムドの倍くらいの量をペロリと平らげてしまう。



そして食べ終わったとたん、もう眠いといって駄々をこね始めた。

さっきの弱音は吐かないという約束はどこにいったのか。



でも今日は初日で、沢山あるいたうえに魔法まで使ったのだ。

おおめに見てやるとするか。



「そうだなそろそろ寝るとするか」



するとザムドは立ちあがりバサーと自慢のハネをひろげる。



「アキラよ、俺はテントではねない。見晴らしの良い高い所で寝るのが好きでな、いつもそうしている。出発の時間になったら笛を吹いてよんでくれ」



「分かった。じゃまた朝にな」



おう!といってザムドは飛び立っていった。

高いところが好きとか園児かあいつ?

まあ個人のすきだからどうでもいいが・・



「ほらアカリねるぞ」



「うん」



そして俺とアカリはテントに入り同じ毛布にくるまって、くっついて寝るのだった。



まだまだドラゴン族の里は遠い。

着くころにはアカリもすこしは逞しくなっていることだろう。

楽しみだ。
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