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ドラゴン族の里

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「空を駆ける風の精霊よ、我に力を!貫け!風魔法・風来貫!」



「グウォオオオオオオォ!!!!」



心臓に矢が突き刺さり熊に似た大型のモンスターが悲鳴をあげて倒れる。



矢を放ったアカリは喜々として腰につけているダガ―で解体を始める。

時折口笛を吹きながら、焼き肉にシチュー、カッラアッゲーと謎の歌も歌う。



俺はその光景を後ろから感慨深い気持ちで眺めていた。

ドラゴン族の里を目指して旅立ちもう2週間がたつ。

ザムドがいうには目的地にはもうすぐ着くそうだ。



アカリは旅の最初こそ軟弱な奴だったが日に日に逞しくなっていく。

今では自分の腕をモンスターの血で真っ赤に染めながら内臓をを取り除き、食料の確保に努めている。

しかも作業の最中に笑って今晩の献立を考えられるくらいにまで成長してしまった。



たしかに、俺はアカリの根性を叩 き直し、強い人間になるように臨んだ。

だが、まさか二週間程度で猟奇的な狩人へと変貌すると誰が想像ついただろうか。



凶暴なチンパンジーに言語と武器の扱い方を教えてしまったような心持ちだ。

だが振り返ってはいけない。

人間とはなにかを失い、新しい物を得て前へ進むのだから。



「アッキラーーー!!モンスター一匹仕留めたけど、まだ足りないよねー?私また一匹狩ってくる!!」



猟奇的なアカリちゃんは真っ赤に染まった手を振りながら俺におかしなことを言ってくる。

そんなにでかいモンスターを仕留めてまだ足りないと?

アカリよ・・・お前こそがモンスターだといつ気付く?



「い、いや。今日はそれで充分足りるだろう。肉をもってザムドの所に戻ろう」



「えーー、まいっか!最近食べ過ぎてるし、ダイエットしなきゃだしね!」



そういってアカリは切り取った大量の肉を肩からぶら下げてニコっと笑う。

こいつ、気力の使い方も少し覚えて、身体能力もそこあげしている。

肉を担ぐとお腹へったー!と腰の革袋から自分で作ったジャーキーを取り出し食べ始める。

アカリさん、それは一体なんの肉だい?

俺が不思議そうに見ているとアカリがアキラも食べるー?と一つ差し出してきた。



「・・・それはなんの肉だ?」



「え?・・・んーー、忘れちゃった!でも美味しいよ!」



硬そうな肉をバリバリかみ砕き、美味そうに咀嚼する。



・・・邪神よ。お前の未来のライバルが俺の目の前にいるかもしれない。

とんでもない化け物だ。末恐ろしい。





俺達はザムドの所にもどる。



「ザムド遅くなったな!!」



「ザムドただいまー!!今日はおっきい熊みたいなのをとったよ!!!」



「おお、流石だな!早くも弓の名手だな小娘!!!



ザムドはアカリから肉をもらい、料理の準備をはじめる。

俺もザムドを手伝う。

鍋やフライパンなどを取り出して火にかける。



今日は焼き肉にシチュ―。それに唐揚げらしい。

アカリたっての希望だ。当の本人は血まみれな体を洗うべく川にむかった。



「ザムド、ドラゴンの里にはあとどの位だ?飛んで様子をみてきたんだろう?」



「ああ、おそらく明日の昼まえには入り口になっている山の麓につくだろう。そこから先は俺もいったことないから知らんぞ」



ザムドには俺とアカリが狩りをしている間に空をとんで辺りの様子を見てきてもらっていた。

どうやら昼頃についてそこから山を登るらしい。



ドラゴン族の里は山の頂上にある。

その山はいま俺達がいるところからでも大きく見えるほどでかく、かなり標高がありそうだ。

ザムドも一回だけ麓までいったことがあるらしいが、入り口で複数のドラゴンに囲まれて追い返されたらしい。





「まあいけばどうにでもなるだろう」



「まあ、なるようになるか!ガハハハ!」





もしかしたら軽い小競り合い程度はおこるかもしれないから用心だけはしておかないとな。



俺達が話し合いをしているうちにアカリも戻ってきて晩御飯にした。

幸せそうに自分がとった獲物をパクパクと食べておいしい、美味しいと連呼するあかり。

一体小さい体のどこにそんな肉がはいるのか・・・・



食事が終わる頃には外は真っ暗になり、頭上には星がきらめいている。

この世界の夜空は本当に綺麗だ。街灯もないから星がくっきりと夜空に浮かび上がる。



「ではもう遅いから俺は寝るとしよう!アキラ、アカリまた明日だ!」



明日はきっと忙しくなるからだろう。

ザムドはいつもより早い時間だが、寝るために高い所を探しに夜空へ飛び立っていった。



「俺達も今日は早くねよう」



「うん!わかった!」



アカリもお腹いっぱいで眠くなったのか、素直に返事してテントにはいっていく。

俺達はいつものように同じ毛布に包まりねむる。

そうしてアカリは直ぐにすやすやと静かに寝息をたてて、眠ってしまった。



俺は寝ようとするが中々眠れずにいた。

やっぱり少し寝るには早すぎたのかもしれない。



俺は起き上がりテントをでて夜風にあたることにした。

外にでると、たき火が消えずにまだ燻っている。その近くに座り夜空を眺める。

そうしていると何匹かの飛んでいる虫がゆらゆらと揺れる火に寄せられて、飛び込んでいく。

そしてパチパチと燃えて灰になっていく。

俺はアカリからもらった右手に巻いている黒い布をほどく。



そこには邪神につけられた絵が依然として残っている。

魔月花と言われる花の種、クルミのような形をしている。

そして現在、そこには最初の頃にはなかった芽のようなものがひょろっと種からでている。

俺が想像していた以上に進行がはやい。

なぜだろう。

ロマンスの神様の加護はたしかに効いているはずが。

なにかこの加護には特別な条件でもあるのだろうか・・・

例えば愛する人の近くにいないと効果が弱まるとか。

だったらやばいな、ソフィーもアカリも当分会えないしな。

いつも一緒にいるのはファンキーな魔族と猟奇的な馬鹿だけ。

詰んでいるぞ。



こうなればキチンとスラ神様に加護についてきくべきだった。

もう一度あって話を聞きたいけど会う方法もわからないしな。

もしかしたら昔から生きているエンシェントドラゴンならなにかしってるかもしれない。

邪神のこともふくめてそこらへんのことも聞いてみよう。





「ふふふ、また考え事ですか」



もう今では聴き慣れた声が隣から聞こえて俺は溜息をはく。



「はあー、またお前かよ」



俺の隣にはいつの間にか邪神ゾーグが座っていた。

旅を始めてから毎晩のように現れては、不気味な笑みを残していく。

会話をするがいつも意味のないようなことばかり・・

一体何しにいてるんだ?



「つれないですね、私たちはいずれ一つになるのですよ?仲良くしましょう」



「俺はお前なんかにのまれはしないぞ」



「もう自分でもわかってるでしょう?魔月花は着実に成長しているみたいですしね」



俺は右手の絵を邪神の視界から隠す。

そして邪神を無視するようにたき火の火をぼうっと眺める。

コイツと話しをするくらいなら無理してでも眠った方がマシだ。さっさと消火して寝るとしよう。



「目を瞑ったところで問題は逃げないですよ。どうです?私にその体を譲りませんか?」



「・・・・・・・」



「そうですか、残念ですね。言っときますが私が貴方を取り込む頃に協力を申し出ても遅いですからね。・・・・そうだ!いいことを教えてあげましょう。私こんなことが出来るようになったんですよ」



そういってゾーグは右手をあげる。

するとどうしたことだろうか。

俺の右手が自分の意思に反して、邪神の腕と全く同じ動作で勝手に動く。

抵抗しようと力を込めるが腕がプルプルなるだけで言うことを聞かない。



「くっ!!!!何をした!!!?」



俺は邪神を睨みつけるが取り合うつもりはないらしくへらへらと笑っているだけ。



「ちょっとしたいたずらですよ。おやもう効力がきれそうですね」



ゾーグが腕をひゅっと振る。

すると俺の腕にも感覚が戻り自由にうごかせれるようになった。

・・・まさか短時間とはいえ、体の一部が乗っ取られるとは・・これは本格的に対策を考えなければならないぞ!





「私はそろそろお暇します。どうぞ楽しい夜の続きを・・・ふふふ」



そういって目の前のゾーグはきえていった。



俺は自分の腕を確認する。

先程の操られた感覚がまだのこっている。もし、これがいずれ全身を乗っ取られるとおもうと冷汗がとまらない。



何か急に疲れたな。俺ももう寝たほうがよさそうだ。

テントに戻るとアカリが毛布の中から話しかけれくる。



「アキラどうしたの、なにかあった?」



「起きてたのか?」



「なんかさっき目が覚めてちゃって」



「そうか・・・なんにもないよ。早く寝よう」



俺は毛布の中にもぐりこんでアカリを抱きしめる。



「ふふふ、どうしたのアキラちゃん、セーラちゃんに会えなくてさみしいの?」



「ああ、その通りだな、ずっと会えないと不安になる」



ちょっと邪神にあったせいで弱気になってるのかもしれない。

アカリに甘えてしまうとはなさけないな。



「悪かったな。つい抱いてしまったよ」



「いいよ、今日はこのまま寝ようよ」



「・・・・・」



それから俺達は朝がくるまでぐっすり眠った。







・・・・・・・・・・・・・・・・







日が真上にのぼる頃に俺達はドラゴン族の里の入り口についた。

周りの景色はかつてこの山で噴火でもあったのだろうか、植物は極端に少なくて、でこぼこと岩などがゴロゴロと転がっている。

そして登山道となる一本道が山頂へと続いている。



「ここがドラゴンの住む場所か、殺風景だな」



「そうだな!魔王城の方がよっぽど住み心地がよさそうだ!ガハハハ」



「ねえ、ほんとにこんな所にいるの?なんかなにもないしつまんない」



俺達が観察を続けていると頭上を大きな影が4つ通りすぎる。

見上げると赤いドラゴンが4頭隊列組んでとんでいた。

そして、先頭を飛ぶ一番でかいドラゴンが口を開ける。



「ギャアアアアアオオオオオオォ!!!!!!!!」



まるでこの世の覇者のような雄たけび。ビリビリと大気がその声にゆれる。

4頭のドラゴンは俺達の前で着陸する。

真っ赤に光る鱗に頑丈で大きな翼。全てを切り裂く爪と牙。長いしっぽに立派な角。

おとぎ話にでてくるような姿そのままだ。



リーダーらしき先頭を飛んでいたドラゴンが俺たちを睨む。



「人間に魔族とはめずらしいな。なんのようでここまできた」



「ドラゴン族の里に行きたい。案内してくれ」



ドラゴンは俺の言葉を聞くと訝しむように睨みつけてくる。



「我らの住処はドラゴン以外立ち入れない。諦めて帰ることだ」



ドラゴンたちは用は済んだとまた飛び立とうとする。

俺は慌てて引き留める。



「まってくれ、実は会いたい奴がいるんだ、ミランダという緑色のドラゴンで、魔王グランドの紹介できた!」



いまにも飛び立ちそうなドラゴンがピックと動きをとめる。



「魔王の紹介か・・・たしかにアイツは以前この里に訪れたことがある。ミランダも里にいるが・・なにか証拠はあるのか?」



「証拠か・・・なにかあったかな」



俺は自分の荷物の中を探り証拠になりそうな物を探すがなにも見当たらない。

くそ!馬鹿魔王紹介状くらい書けよな・・・



俺が困り果てているとドラゴンがなにかに反応する。



「まて!そのマントどこかで見覚えがあるぞ・・・」



マント?俺は自分が羽織っている漆黒のマントを見る。

これはホグリットであの怪しい商人からかったものだが。



「思い出した!以前魔王グランドがきたときに身に着けていたマントだな!間違いない、そのマントに小さく書かれている紋章はミランダの家紋だ!ドラゴン族の里で作られたマントだ」



はい?これが魔王のマントだと?

確かによく見ると小さな紋章が描かれている。

嵐の中を飛ぶドラゴンの絵に見える紋章。



なんであの商人がこんなもの持っているんだ?いったいどこからしいれてるんだよ!!

しかも、魔王の奴、せっかく作ってもらったマントをなんで手放しているんだ?

もしかして失くしたとか?ありえそうだな・・・・馬鹿だし。



けど、これでなんとか乗り切れそうだ。

やはりあの商人はできる男だ。これからも贔屓にしよう。



「そうだ!これこそが証拠、魔王から譲り受けたマントで、ドラゴン族の者に作ってもらった品だ!これでいいだろう、さあ案内してくれ!」



「むぅ、たしかに本物のようだな。いいだろう、案内しよう」



「ありがとう、たのむ」



俺は礼をいって頭をさげる。

アカリもドラゴン族の里に行けるとはしゃぎ気味だ。



「ドラゴン族の里はこの山の頂上近くにある。そこのドラゴンたちの背中にのれ、つれていく」



「やったーーー!ドラゴンに乗れるなんて物語のお姫さまみたい!アキラ!わたしこの一番大きいのに乗るね!」



「ほう?なら俺もそれにのるとしよう!」



「ガハハハ!どうせなら同じドラゴンに乗るかな!」



俺達は3人は一番でかいドラゴンに飛び乗る。

中々いい景色だ。



「い、いや我じゃなくてそこのドラゴン達だといったのだが」



「イエーイ!!!!みてアキラ鱗つるつるだよ!!!!!」



「・・・・・まあいいだろう、きちんと捕まってろよ!!」



そして俺達はドラゴンにのりドラゴン族の里に向かって飛び立つのだった。
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