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2章瓶 お酒の力を……

17杯目 上戸な君と下戸な僕

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 大学2回生になり、誕生日を迎え私はお酒が飲める年になった。因みにだけど、お酒は大好き。だが、そんな私には悩みがある。去年、無理矢理飲まされた合コンがきっかけだと思う。それは……

『お酒に酔うことができない』

と言うものだった。私だって本当は、嫌なことなどを酔って忘れたい。だけどどれだけ飲んでも酔うことができない。心の奥底では、酔うことに対して怖いと言う思いがあるのだろうか。酔うことができれば、もっと根暗君にグイグイ行けると思う。そんな事を考えていた私は

「お酒の力さえあれば……」

 と自室で呟く。お酒の力に頼る。って言うのは、いい事なのかはわからない。だってそうでしょ? もしお酒の力に頼って付き合えたとして、その後好きって言える? 言える人もいるんだろう。でも私には無理。

「はぁ……とりあえず飲むかぁ」

 私はそう言って、冷蔵庫からテキーラを取ってくる。何故テキーラなのかは、言わずともわかるだろう。あえて言うなら、酔える事に期待して。ってところだろうか。
 
 テキーラをショットでどれだけ飲んでも酔えないので、最近では大きめのグラスに並々注いで完飲する。それが私の日課だ。友達には引かれるんだけどね……まぁ、いいでしょう。私がどれだけ飲もうが誰にも関係ないしね。

「さて、お次は何にしますかな……と」

 半分程入ったテキーラの瓶を空にした私は、次に飲むお酒を探していた。そんな時だった……

──プルプルプル

 急に電話が鳴る。誰からだろう? そう思い、スマホを見ると『根暗くん』と表示されていた。急に根暗くん好きな人から電話が来たことで、舞い上がったがすぐに落ち着き電話に出る。

「もしもし?」
『も、もしもし』
「どうしたの? 根暗くんから電話って珍しいね」
『そ、その……な、何……してるのかなって……』

 根暗くんが何してるか気になって、電話してくるなんて期待しちゃうよ……そんな事を考えつつ、態度に出さない様に答える。

「私? 今はお酒飲んでるよ~!」
『お酒かぁ。根明さんは、お酒好きなの?』
「うん! でもね……私、どれだけ飲んでも酔えなくて……」
『そう……なんだ……それはやっぱり、

 あの時……多分合コンの事だろう。根暗くんに助けられたあの時の。私は、あの時のことを思い出しながら言う。

「うん。多分そうだね。あの時の根暗くん、とてもかっこよかったな……」
『……そ、そんな事はないですっ! 根明さんが無事だったからよかった』
「でさ、根暗くんはいつまで根明さんって呼ぶの?」
『……えっ? どうしたの急に……』
「急でもないよ……あの時は名前呼んでくれたじゃん……」

 あぁ。酔ってはないはずなのに、どうしてこんなこと言ってるんだろう。急に言われたら根暗くんも困るのに……自分の言ったことに後悔し、冗談だった。と言おうとした時だった……

『……わ、分かりました。で、でも……は、陽華さんも僕のこと……な、名前で呼んでね……?』
「…………えっ!? 今、分かったって言った?」
『……はい。その代わり、名前で呼んでね……』
「……う、うん。…………か、陰雄くん」
『…………』
「…………」

 どう言うこと? なんで急に名前で呼んでくれる気に……え、やばいんだけど。好きな人に名前で呼ばれるようになるなんて……嬉しすぎて心臓はち切れそう……なんて私は心の中で、大はしゃぎした。

 ただ、この後お互いに喋ることができなくなり、電話は終了した。

「……少しは前進したの、かな?」

 と私は、静かになった部屋で、一人呟いた。
 余談だが、この日はこれ以上お酒を飲むことはなかった。

 
◇◇◇


「……どうしよう。ついにお互いに名前で呼ぶようになってしまった……」

 僕は通話終了画面を眺めて呟く。
 これからは、積極的にアプローチをしていくと決めた僕は、初めて特に用もなく彼女に電話をかけた。他愛もない話をしていたはずが、いきなり名前を呼んでと言われたのがきっかけだった。普段の僕なら、うまくかわしただろう。だが、積極的にと決めたのでいい機会だと思い、彼女の案に乗っかった。

 しかし、その後お互いに恥ずかしくなり、そのまま通話は終了した。もう少し話せれば……とも思ったが、少しだけ前に進んだ関係に僕は、自分を褒めてもいいだろう。

 愛理への罪悪感はまだあるものの、明日大学に行くのが楽しみになったりもしている。

 そんな気持ちを抱きながら、僕は久々に深い眠りについた。

 明日、大学であんな事があるとも知らずに……
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