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16 下心
「昨日も言ったが、好みの騎士を見つけるとすぐ手を出す」
「でも、あのひとは俺に手を出したいなんて少しも思っていませんよ」
「……上手く隠しているだけだろう」
「俺にはわかるんです」
リュカが言い切ると、サイファートはさもおかしそう笑った。
「ほう。なら、オレがおまえに下心を持っているか、わかるか?」
変なことを訊くひとだと思った。サイファートがリュカに対して下心を持っているのなら、昨日の時点ですでに手を出されている。
「サイファート隊長は、俺に下心なんて持っていません」
リュカが真顔で答えると、サイファートは声を上げて笑った。いつものような作られた笑みではなく、本当におかしくて笑ってしまった、といった様子だった。年齢よりも大人びて見えるサイファートが、いまは幾分幼く見える。
「サイファート隊長?」
あっけにとられながら名前を呼ぶと、サイファートはいつも通りの笑みを浮かべてこちらを見据えた。
「これで、おまえの感覚があてにならないとわかったな」
「え?」
それでは、まるでサイファートがリュカに対して下心を持っているかのようではないか。どう考えても冗談なのに、ひどく動揺してしまった。落ち着きはじめていた心臓の音がまた速くなってくる。
「正直、オレにもあのひとの考えていることはわからん。だから、なにかあればオレに言え。ひとりで片づけようとするな」
リュカにとっては、サイファートもよくわかないひとだ。ハルネスはよくわからないところが怖いと思うのに、サイファートのことは怖いと思わない。
それどころか、このひとがどうして笑っているのか、どうして不機嫌そうなのか、サイファートがなにを思っているのか知りたいと思う。
「オレに言えないことなら、ほかのやつでもいい。トルイユでも、見習いでも……仲のいいやつがいるんだろう」
「え? どうして知っているんですか?」
サイファートにテオドルの話をした記憶はなかった。
「おまえといっしょにいるところを見かけた」
「そうだったんですね」
きっと、模擬戦の行われた訓練場で、リュカとテオドルが話しているのを見かけたのだろう。
「入団前からの知り合いか?」
「はい。テオドルとは幼なじみなんです」
「どうりで、ずいぶんと親しそうに見えた」
「同じ屋敷で育ったので、幼なじみというより兄みたいな感じですね」
「兄……には見えなかったけどな」
「確かに、見た目は似てませんけど」
「そういうことを言ってるんじゃない」
では、どういうことなのか。尋ねようとしたが、リュカの返事で機嫌を損ねてしまったらしく、サイファートはむすっとした顔でそっぽを向いてしまった。
「とにかく、ハルネスとはふたりきりになるな」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「話は終わりだ、さっさと食え」
そう言われて、自分が食事にほとんど手をつけていなかったことにようやく気づいた。
「あ、すみません。急いで食べます」
「だれが急いで食えと言った。待たれても落ち着かんから、ゆっくり食え」
サイファートはまだ食前酒を飲んでいて、つまむ程度にしか食べていない。早とちりしてしまったことを詫びると、サイファートはどうしてかにやりと笑みを浮かべた。
「おまえ、本当はそれだけだと足りないんじゃないか? 昨日は物足りなさそうな顔をしていたよな」
「……俺、そんな顔してましたか?」
「ああ、していたな」
自分では思ったことを顔に出しているつもりはなかったのだが、あっさりと肯定されてしまった。
細い見た目に反して、リュカは食事量が多い。魔力を回復するには食事や睡眠が必要とされているので、その関係なのだろう。
だからといって、家でも娼館でも満腹になるまで食べさせてもらえるわけではなかった。客が娼館で食事をするとき、いっしょに食事をさせてもらえるのがありがたかった。
「毎日、向かいでそんな顔をされてもかなわんからな。おかしな遠慮なんかせず、追加をもらってこい」
「いえ、でも、俺は見習いですから」
「だが、オレの側仕えだ」
「……まだ、訓練一日目ですし」
「一日目だろうが三年目だろうが、おまえはオレの側仕えだろ。だいたい、その程度のことで見習いを咎めるような狭量な隊長などいない」
「では……あとで、もらってきます」
「はじめから、素直にそうしておけばいいんだよ」
言い方こそやや乱暴ではあるが、サイファートはリュカを気遣ってくれている。ハルネスの件だって、リュカを心配してくれたのだ。
サイファートの側仕えになれて、よかった。いまはそう思う。いつか、サイファートにもリュカを側仕えにしてよかったと思ってもらえるようになりたい。
側仕えの仕事も騎士の訓練もはじめたばかりで、ろくにサイファートの役に立っていないし、ろくに剣も振れない。いまはまだ騎士団を辞めるわけにはいかない。
ハルネスの思惑がどんなことであったとしても、リュカは騎士団を辞めたくなかった。
「でも、あのひとは俺に手を出したいなんて少しも思っていませんよ」
「……上手く隠しているだけだろう」
「俺にはわかるんです」
リュカが言い切ると、サイファートはさもおかしそう笑った。
「ほう。なら、オレがおまえに下心を持っているか、わかるか?」
変なことを訊くひとだと思った。サイファートがリュカに対して下心を持っているのなら、昨日の時点ですでに手を出されている。
「サイファート隊長は、俺に下心なんて持っていません」
リュカが真顔で答えると、サイファートは声を上げて笑った。いつものような作られた笑みではなく、本当におかしくて笑ってしまった、といった様子だった。年齢よりも大人びて見えるサイファートが、いまは幾分幼く見える。
「サイファート隊長?」
あっけにとられながら名前を呼ぶと、サイファートはいつも通りの笑みを浮かべてこちらを見据えた。
「これで、おまえの感覚があてにならないとわかったな」
「え?」
それでは、まるでサイファートがリュカに対して下心を持っているかのようではないか。どう考えても冗談なのに、ひどく動揺してしまった。落ち着きはじめていた心臓の音がまた速くなってくる。
「正直、オレにもあのひとの考えていることはわからん。だから、なにかあればオレに言え。ひとりで片づけようとするな」
リュカにとっては、サイファートもよくわかないひとだ。ハルネスはよくわからないところが怖いと思うのに、サイファートのことは怖いと思わない。
それどころか、このひとがどうして笑っているのか、どうして不機嫌そうなのか、サイファートがなにを思っているのか知りたいと思う。
「オレに言えないことなら、ほかのやつでもいい。トルイユでも、見習いでも……仲のいいやつがいるんだろう」
「え? どうして知っているんですか?」
サイファートにテオドルの話をした記憶はなかった。
「おまえといっしょにいるところを見かけた」
「そうだったんですね」
きっと、模擬戦の行われた訓練場で、リュカとテオドルが話しているのを見かけたのだろう。
「入団前からの知り合いか?」
「はい。テオドルとは幼なじみなんです」
「どうりで、ずいぶんと親しそうに見えた」
「同じ屋敷で育ったので、幼なじみというより兄みたいな感じですね」
「兄……には見えなかったけどな」
「確かに、見た目は似てませんけど」
「そういうことを言ってるんじゃない」
では、どういうことなのか。尋ねようとしたが、リュカの返事で機嫌を損ねてしまったらしく、サイファートはむすっとした顔でそっぽを向いてしまった。
「とにかく、ハルネスとはふたりきりになるな」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
「話は終わりだ、さっさと食え」
そう言われて、自分が食事にほとんど手をつけていなかったことにようやく気づいた。
「あ、すみません。急いで食べます」
「だれが急いで食えと言った。待たれても落ち着かんから、ゆっくり食え」
サイファートはまだ食前酒を飲んでいて、つまむ程度にしか食べていない。早とちりしてしまったことを詫びると、サイファートはどうしてかにやりと笑みを浮かべた。
「おまえ、本当はそれだけだと足りないんじゃないか? 昨日は物足りなさそうな顔をしていたよな」
「……俺、そんな顔してましたか?」
「ああ、していたな」
自分では思ったことを顔に出しているつもりはなかったのだが、あっさりと肯定されてしまった。
細い見た目に反して、リュカは食事量が多い。魔力を回復するには食事や睡眠が必要とされているので、その関係なのだろう。
だからといって、家でも娼館でも満腹になるまで食べさせてもらえるわけではなかった。客が娼館で食事をするとき、いっしょに食事をさせてもらえるのがありがたかった。
「毎日、向かいでそんな顔をされてもかなわんからな。おかしな遠慮なんかせず、追加をもらってこい」
「いえ、でも、俺は見習いですから」
「だが、オレの側仕えだ」
「……まだ、訓練一日目ですし」
「一日目だろうが三年目だろうが、おまえはオレの側仕えだろ。だいたい、その程度のことで見習いを咎めるような狭量な隊長などいない」
「では……あとで、もらってきます」
「はじめから、素直にそうしておけばいいんだよ」
言い方こそやや乱暴ではあるが、サイファートはリュカを気遣ってくれている。ハルネスの件だって、リュカを心配してくれたのだ。
サイファートの側仕えになれて、よかった。いまはそう思う。いつか、サイファートにもリュカを側仕えにしてよかったと思ってもらえるようになりたい。
側仕えの仕事も騎士の訓練もはじめたばかりで、ろくにサイファートの役に立っていないし、ろくに剣も振れない。いまはまだ騎士団を辞めるわけにはいかない。
ハルネスの思惑がどんなことであったとしても、リュカは騎士団を辞めたくなかった。
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