25 / 35
25 願い
さぞ機嫌が悪いのだろうと思っていたが、翌朝のアレックスはいつも通りの態度だった。リュカのほうは、アレックスの顔を見ているだけで昨夜のあれやこれやを思い出してしまい、まったく落ち着かないというのに。
食堂で朝食を摂ってから詰所へ向かうアレックスを見送り、特別寮の前で待っていたテオドルと落ち合った。
ひと気のない場所へ移動したあと、昨日あったできごとを打ち明けると、テオドルはしばらくのあいだ固まって黙り込んでいた。いつも落ち着いている彼が動揺した様子を見せるのはめずらしかったが、当事者であるリュカでさえいまだに夢の中にいるような気分なのだから無理もない。
「アレックス隊長に抱いてもらえたら、そのときは第二王子殿下に話をしにいくよ。きっと、アレックス隊長の役に立たない俺は騎士団を追い出されてしまうと思うけど。……それまでお父様への報告は待ってほしいんだ」
「……でも、そのままサイファートから魔力を供給されていれば、おまえはここにいられるんじゃないのか? 第二王子の望みだと知れば、旦那様も承諾するだろ」
確かにリュカの行為はウィルフリッドの望みに沿ったことだが、父に対価を求められて彼が応じるとは思えない。第二王子に直接取り入るのが無理だとわかったら、父は公爵家のサイファートを標的とするだろう。
「俺がいやなんだ。お父様の思惑にアレックス隊長を巻き込みたくない。迷惑をかけたくないんだ。……それに、アレックス隊長に男娼として抱かれるのはいやだ」
「おまえ……」
「アレックス隊長のことが好きなんだ。これが叶わない想いだってわかってる。終わったら、ちゃんとお父様の命令にも従う。男娼としてたくさん稼ぐ代わりに、メアリーを自由にしてもらえるようお願いするつもりだ。だから、もう少しだけ待ってほしい。……迷惑かけて、ごめん」
こちらを見据えるテオドルの顔は、怒りで真っ赤に染まっている。リュカの選択は、きっとテオドルを怒らせるだろうと思っていた。
「ふざけるなよ。そんなこと、迷惑なんて思ってねえよ。おまえは、俺がただ旦那様の命令通りに動いてるだけだと思ってたのか?」
「ううん、思ってないよ。いつも、お父様の目を盗んで助けてくれてる。でも……テオドルはもっと騎士団にいたかったよね。俺の都合で振り回してごめん」
テオドルが、騎士の訓練や側仕えの仕事とまじめに向き合っていることを知っている。幼いころから騎士にあこがれていたのを知っている。
「俺はうれしいんだよ。ずっと旦那様の命令通りになんでも従ってたおまえが、はじめて自分の望みを口にした。はじめて俺に願いを言ってくれた」
「テオドル……」
「そんなの、叶えてやるに決まってるだろ。俺も、俺のできることをやってやるよ」
「うん。ありがとう。でも、無理しないでね」
テオドルはきっと父を説得するつもりなのだろう。あの父がそう簡単に意思を曲げるとは思えなかったが、その気持ちがうれしい。
もしテオドルが望むなら、騎士団に残してもらえるようウィルフリッドに頼んでみようと思った。
食堂で朝食を摂ってから詰所へ向かうアレックスを見送り、特別寮の前で待っていたテオドルと落ち合った。
ひと気のない場所へ移動したあと、昨日あったできごとを打ち明けると、テオドルはしばらくのあいだ固まって黙り込んでいた。いつも落ち着いている彼が動揺した様子を見せるのはめずらしかったが、当事者であるリュカでさえいまだに夢の中にいるような気分なのだから無理もない。
「アレックス隊長に抱いてもらえたら、そのときは第二王子殿下に話をしにいくよ。きっと、アレックス隊長の役に立たない俺は騎士団を追い出されてしまうと思うけど。……それまでお父様への報告は待ってほしいんだ」
「……でも、そのままサイファートから魔力を供給されていれば、おまえはここにいられるんじゃないのか? 第二王子の望みだと知れば、旦那様も承諾するだろ」
確かにリュカの行為はウィルフリッドの望みに沿ったことだが、父に対価を求められて彼が応じるとは思えない。第二王子に直接取り入るのが無理だとわかったら、父は公爵家のサイファートを標的とするだろう。
「俺がいやなんだ。お父様の思惑にアレックス隊長を巻き込みたくない。迷惑をかけたくないんだ。……それに、アレックス隊長に男娼として抱かれるのはいやだ」
「おまえ……」
「アレックス隊長のことが好きなんだ。これが叶わない想いだってわかってる。終わったら、ちゃんとお父様の命令にも従う。男娼としてたくさん稼ぐ代わりに、メアリーを自由にしてもらえるようお願いするつもりだ。だから、もう少しだけ待ってほしい。……迷惑かけて、ごめん」
こちらを見据えるテオドルの顔は、怒りで真っ赤に染まっている。リュカの選択は、きっとテオドルを怒らせるだろうと思っていた。
「ふざけるなよ。そんなこと、迷惑なんて思ってねえよ。おまえは、俺がただ旦那様の命令通りに動いてるだけだと思ってたのか?」
「ううん、思ってないよ。いつも、お父様の目を盗んで助けてくれてる。でも……テオドルはもっと騎士団にいたかったよね。俺の都合で振り回してごめん」
テオドルが、騎士の訓練や側仕えの仕事とまじめに向き合っていることを知っている。幼いころから騎士にあこがれていたのを知っている。
「俺はうれしいんだよ。ずっと旦那様の命令通りになんでも従ってたおまえが、はじめて自分の望みを口にした。はじめて俺に願いを言ってくれた」
「テオドル……」
「そんなの、叶えてやるに決まってるだろ。俺も、俺のできることをやってやるよ」
「うん。ありがとう。でも、無理しないでね」
テオドルはきっと父を説得するつもりなのだろう。あの父がそう簡単に意思を曲げるとは思えなかったが、その気持ちがうれしい。
もしテオドルが望むなら、騎士団に残してもらえるようウィルフリッドに頼んでみようと思った。
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません
カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」
ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。
(これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!)
妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。
スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。
スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。
もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます?
十万文字程度。
3/7 完結しました!
※主人公:マイペース美人受け
※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。
たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。