純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ

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1.最悪の合コン

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 週末の居酒屋はがやがやと賑やかだった。
 私は今、飲み会という名の合コンに来ている。友人の曳地かおりから、どうしてもと懇願されて断り切れなかったのだ。ちなみに彼女がセッティングしたこの場は、少し前の合コンで気に入った男性とまた会いたいがためのものらしく、主役はあくまでかおりとその男性だ。
 二人に加えて私ともう一人の男性がこの飲み会のメンバーだったが、傍から見ればダブルデートに見えなくもない。しかし、そんなに簡単に心惹かれる相手に巡り合えるわけがないと思っているから、私はこの飲み会になんの期待もしていない。
 かおりはお目当ての彼、前田信也と、すでに下の名前で呼び合っており、親しげな様子だ。
 この飲み会は本当に必要なものだったのかと内心で苦笑しながら、真正面に座る前田の友人である男性にそっと目をやった。
 彼との初対面を思い出す。待ち合せていた店の前に現れた彼を見た瞬間、私は威圧感を覚えた。
 そう感じてしまうほど彼は背が高く、がっしりとした体躯をしていた。その上に乗っているのは女性受けしそうな精悍な顔だったが、表情は固く、にこりともしなかった。
 その時の私は、彼が無表情である理由を、会ったばかりだからだと思っていた。
 しかし店に入り、ドリンクや料理が並んだ後の自己紹介の時になっても、彼の愛想のない態度は変わらなかった。彼は淡々とした口調で「高原」と名乗ったきり、口をつぐんでしまった。苦手なタイプだった。
 かおりの目も気持ちも初めから前田に集中していたから、私の会話の相手は必然的に高原となった。そして今も、真正面に座る彼は無表情のままグラスを傾けている。
 かおりと前田の様子をうかがえば、私がこの場にいる必要などまったくなさそうだ。しかし店に入ってからは、まだ三十分ほどしかたっていない。帰ると言い出すのはさすがにまだ早いだろうと思いとどまり、そして仕方がないと諦める。
 もとよりこの飲み会は、私にとっては出会いの場でもなんでもない。わざわざ来たことだし、付き合いだと割り切って、一次会だけはなんとかやり過ごすことにしようと考える。その上で、彼の無表情に負けないよう意識して声のトーンを上げて、私は笑顔で高原に話しかけた。

「今日はお休みだったんですか?」

 そう訊ねてみたのは彼がラフな格好をしていたからだ。初対面同士、会話の取っ掛かりとしては悪くなかったと思う。どんなに彼が無愛想な人であっても、「休みだった」とか「実は休日出勤で」とか、何かしらの言葉を普通に返してくれるものと思っていた。
 それなのに、高原は眉間にしわを寄せて唇の端を歪め、鼻先でふっと冷たく笑いながらこう言ったのだ。

「その質問、何か意味ある?」
「えっ……」

 予想外の返答に困惑し、笑顔が固まった。しかしその動揺を無理やりに作った笑顔の下に隠す。助けを求めてかおりを見たが、すぐに諦めた。彼女は前田とのお喋りに夢中だ。邪魔するのも野暮かと心の中で苦笑し、気を取り直す。にこやかな笑顔を保つよう注意しながら、私は高原との会話に再挑戦した。

「ラフな格好をされているから、今日はお休みだったのかと思ったもので。それとも、休日出勤とかですか?」

 高原は相変わらず愛想の欠けらのない顔つきのまま、小さくため息を吐き出した。
 その様子にカチンときた。普段から私はできるだけ他人のいい面を見るように心がけているつもりだが、そんな心がけなど一瞬で吹き飛んでしまった。
 彼は壁に寄りかかって頬杖をつき、私を見た。

「今日は何してたか、とか本当に興味があって訊いてるわけ?」
「えっ、いや、その……」

 私は口ごもった。興味も何もこういう所から話が膨らんでいくはずで、会話のきっかけになればと思った上での質問だ。それをそんなふうに追及してくるとは、なんて面倒な人だろう。話しかけるのをやめようかと気持ちが萎える。
 助けを求めて、高原の友人であるはずの前田に目をやった。しかし彼はかおりとのお喋りに夢中で、私の視線に気づいた様子はない。自分で対処しなければいけないようだ。いったいなんの苦行なのかと思いながら、高原との会話に再び挑んだ。

「えぇと、高原さんと前田さんは、お友達なんですよね?」

 高原はテーブルの上で腕を組み、体を少しだけ前に出す。

「だったら何?」
「え、あの……」

 心の中は不快感でいっぱいだったが、私は無理やりに堅固な笑顔を貼り付ける。

「普段からよく一緒に飲んだりするんですか?」
「だとしたら?」
「え……」

 顔のあちこちがぴくぴくとひきつり始めた。しかし私はまだ、この場の雰囲気を壊したくないと思っていた。もしかして質問ばかりされているのが気に入らないのだろうかと考える。そこで今度は自分のことを話してみることにした。

「私はかおりと、高校からの友達なんです。最初は互いに合わないと思っていたはずなのに、いつの間にか仲良くなって……」
「へぇ、そう」

 抑揚のない声で相槌を打った後、彼はそのまま黙り込み、グラスに口をつけた。
 その後も私は高原との会話らしい会話を成立させようと試みた。完全に意地となっていた。しかし会話が広がる以前に続かない。すべてばっさりと断ち切られてしまった。
 彼とは初対面のはずだった。何か彼に嫌われるようなことでもしてしまったのだろうかと、この短時間のことを振り返ってみた。しかしまったく覚えがない。
 まさか生理的に嫌われているのかとまで考えてしまう。よもやとは思うが、ここまでことごとく会話を切られ、拒否されていることから考えると、ショックではあるがその可能性も捨てきれない。仮にそうだとすれば、これ以上彼との会話を持とうと努力するのは無駄だ。
 それに、そもそも今日の飲み会は一応合コンという体裁だ。特に大事なしがらみがあるわけではなく、繋がりかけた糸を斬るのはとても簡単なこと。奇跡的な偶然を除いて、今後百パーセントに近い確率で再会する可能性がない相手ならば特に、だ。
 心が完全に折れてしまう前に、高原とコミュケーションを図ろうとするのはやめようと、彼と会話を持つことを断念した。
 その後は、飲む、食べるに徹し、一瞬でも彼の姿が自分の目に映り込まないように、体全体で彼を避け続けた。
 そうやってじりじりと過ぎて行った飲み放題の時間。やっとお開きだとほっとしながらバッグに手を伸ばした私に、かおりが言った。

「佳奈、この後カラオケに行こう」
「とんでもない!」

 せめて一次会だけはと我慢していたが、これ以上このメンバーでどこかに行くのはごめんだ。

「私はもう帰ってもいいでしょ?前田君と二人でどこかに行ったらいいじゃない。このままうまく行きそうな感じだし」

 かおりは小首を傾げる。

「でも、まだ二人きりはちょっと自信がないっていうか……。カラオケは佳奈も好きでしょ?行こうよ。高原さんも行くみたいだしさ」
「えっ!それなら余計に行きたくないんだけど」

 言ってしまってから、私は慌てて高原の方に首を回し、そっと彼の様子を伺う。前田と話している最中だった。高原の耳に、今の私の言葉は聞こえていなかったと思われる。

「そんなこと言わないで、お願い!」

 かおりは拝むように私に向かって両手を合わせる。
 私は苦笑を浮かべて、大きなため息をついた。

「次の店で最後だからね。その後は私、絶対に帰るから」
「ありがと!恩に着る!」

 ぱあっと満面の笑みを浮かべるかおりに、私は脱力しながら小声で付け加えた。

「もし今後このメンバーで飲み会するって言っても、私は絶対に参加しないから」
「えっ、どうして?」

 かおりは心底理由が分からないという顔をした。私と高原がどんな会話をしていたのか知らないのだから、そんな反応も仕方がない。どれだけ不愉快な時間だったのか、後日じっくりと説明してあげよう。

「どうしても」
「ふぅん……?」

 首を傾げていたかおりだったが、前田に呼ばれて立ち上がる。

「とりあえず、行こっか」

 ご機嫌な様子のかおりに腕を取られ、私の口からは小さなため息がこぼれた。
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