純愛以上、溺愛以上〜無愛想から始まった社長令息の豹変愛は彼女を甘く包み込む~

芙月みひろ

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11.意外な一面

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 まさかマルヨシの社長たちと会食することになるとは思っていなかった。しかし今日は落ち着いた雰囲気のワンピースで勤務していた。どんな店に行くのかは分からないが、これなら問題ないだろう。
 私は帰り支度を手短に済ませてロビーに降りていった。壁にもたれて立つ高原の姿が目に入る。本当は認めたくなどないが、彼は見た目「だけ」はすこぶるいい。その立ち姿につい見惚れそうになったが、気を取り直して彼の方へと足を向ける。

「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いや、大丈夫だ」

 彼は体を起こし、くだけた口調で言った。

「とりあえず、外に出よう。車で来ているから、それで移動しよう」
「え……」

 私は躊躇した。愛想のない彼と一緒に車に乗るだなんて、息がつまりそうだ。
 そんな私を見て高原が肩をすくめる。

「タクシーだとか、運転手付きの車にでも乗って来たと思った?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「行くぞ」

 彼は短く言って自動ドアに向かって歩き出した。
 ここは大人しく従う他ないようだ。社長をお待たせするわけにはいかないと、私は諦めて彼の後を追って外に出た。
 高原の車は来客用スペースに止めてあった。白のSUV車。こういう車種が好みなのかとなんとなく納得する。
 彼は車の助手席のドアを開けて私を促した。

「どうぞ」
「え?」

 思わず動きが止まる。私は表情の薄い高原の顔をまじまじと見た。

「何か?」
「い、いえ、別に。ありがとうございます。失礼します」

 高原は私が車に乗り込んだのを確かめて、ドアを丁寧に閉めた。
 高原の紳士的な態度に内心密かに驚く。それは初対面の時にはまったく想像できなかった意外な一面だった。
 運転席に乗り込んだ高原は私に顔を向けた。

「シートベルト、よろしく」
「は、はい」

 シートベルトをうまく引き出せずに手間取っていると、爽やかな香りが鼻先をふわりとくすぐった。はっとして顔をあげたそこに高原の横顔があって、不覚にも鼓動が跳ね上がった。私に代わってシートベルトを掛けてくれただけだと分かっていたが、一度動き出した鼓動はなかなか鎮まらない。

「これでいい。……ん、どうした?」
「い、いえ、なんでもありません。お手数をおかけしてしまい……」

 動揺する私を高原は怪訝な顔で見ていたが、何事かに思い当たったのか、にやりと笑った。

「今、何か勘違いしただろ?」
「な、何ですか、勘違いって」

 慌てる私を彼はますます面白そうに見る。

「例えば……。キスされるとか思ったりしたよな?」
「な、何を言ってるのよ!そ、そんなこと、あるわけないでしょ。からかうのはやめて!」
「っ、あははっ!」

 高原は体をシートの背に預け、声を上げて笑った。
 それはたぶんマルヨシで会って以来初めて見る、至って普通のごく自然な笑顔だった。こんな笑い方もできるのかと驚く。
 彼は笑顔の余韻を残した顔で言った。

「やっとこの前みたいな感じになったな」

 高原の言う「この前みたい」とは、カラオケ店での私の態度のことだろう。私は覚えていないふりをした。

「な、何かしら、この前って」

 高原は私を横目で見て、笑いをにじませた声でつぶやく。

「からかうのはこれくらいにして、行くか」

 私はむっとしたまま窓の外に目を向けた。無表情だったり、急に笑顔になってみせたりと、高原の変化にいちいち反応してしまう自分を悔しく思う。
 彼は運転に集中し、私は黙ったまま流れる外の景色を眺めていた。おかげで車の中は静かなものだった。
 会社を出発してから数十分後、私もよく知るカフェレストランが目の前に見えてきた。
 彼は車の鼻先をその建物の方へ向けた。
 私は戸惑った。てっきりもっと敷居の高そうな店に連れて行かれるのだと思っていたのだ。

「ここですか……?」

 高原は駐車場に車を止めてエンジンを切り、からかうような笑みを口元に刻んだ。

「シートベルト、外してやろうか?」
「け、結構ですっ!」

 私は強い口調で拒否の言葉を口にし、慌てて金具を外した。この車に乗った時のことが思い出されて頬が熱くなる。
 私の様子を変に思ったはずだが、高原はからかうようなことは何も言わなかった。黙って車を降り、助手席側に回ってドアを開ける。

「どうぞ」
「ありがとうございます……」
「どういたしまして」

 ふと見上げた高原は静かなまなざしを私に向けていた。その視線をうっかり見返してしまい、その途端に胸の奥がざわめき出す。彼に対して気持ちが揺れることなどあり得ないのにと、私は落ち着きをなくした鼓動をなだめるために、胸元を手でぎゅっと押さえつけた。
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