雨宿りキューピッド

芙月みひろ

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1.迷い犬

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 先生の用事を手伝って、学校を出る頃には夕方になっていた。
 昇降口に出た途端、がっかりする。
 帰り際、教室の窓から外を見た時、嫌な予感がしたのだ。濃い灰色の厚い雲が空を覆っていて、これは来るなと思っていたが、やっぱりだ。ザーザーと雨が降っていた。雷も鳴っている。
 天気予報は晴れのはずだったが、昨今はゲリラ豪雨とやらが多くなっている。そういうことなのだろうと思いながら、俺は傘立てから自分の傘を取って外に出た。制服のズボンの裾や靴が濡れるのは避けられないなと苦々しく思いながら、帰路につく。
 自宅前に着いて、おやっと思った。玄関前にカーポートがあるのだが、支柱の足下に何かがいた。そろそろと近づいて行き、目を見開く。
 犬が雨宿りしていた。足を揃えてちょこんと座っている。見れば全身濡れそぼっていた。
 俺は傘を閉じてカーポートの中に入り、犬からやや距離を取ってしゃがみこんだ。言葉が通じるわけはないと分かっていても、話しかけずにはいられない。

「お前の飼い主さんは?」

 犬はきょとんとした目つきで俺を見て、くぅんと悲しそうに唸った。

「迷い犬かな……」

 大人しそうな犬だ。首輪をしているから、飼い犬であることは間違いない。小さなプレートのようなものがぶら下がっている。もしかしたら、そこに連絡先が書かれているかもしれない。すぐにも確かめたいところだが、まずは濡れた体を拭いてやった方がよさそうだ。
 俺は急いで家の中に入り、風呂場から適当にタオルを二、三本持ち出してきた。この間にも飼い主が現れて、犬を連れて行くかもしれない。いや、そうだといいのだが、と思いながら外に出る。
 しかし、犬はまだそこにいた。
 心細そうにも見えるその背中に、俺は声をかけた。

「今拭いてやるからな。その後、お前の首輪、見せてくれな」

 俺は犬を驚かせないように、穏やかな声で話しかけながら近づく。
 始めは警戒心が見えないでもなかった。しかし、自分に危害を与えるような存在ではないと分かったのか、犬はのろのろと腰を上げて、俺の方に自分から近寄って来た。

「よしよし。今、綺麗にしてやるからな」

 俺はタオルを広げて、そうっと犬の体を拭いてやった。
 ひと通り拭き終えるまで、犬はじっとしていた。
 頭を撫でられるのを嫌う子もいるらしいから、あえて背を撫でる。しかし犬は甘えるようにくぅんと鳴き、俺の脚に頭をこすりつけてきた。

「お前、人懐こいなぁ」

 嬉しくなって、俺は犬の頭を撫でた。

「ところで、お前の首輪、ちょっと見せてくれよ」

 言いながら首輪に手を伸ばした時、誰かを探す必死な声が、雨の音に混じって聞こえてきた。

「サスケ!サスケ~!どこに行ったんだ!」

 その声に、犬がすっくと立ちあがった。「ワンワン!」と吠えて、道路に飛び出そうとする。
 それを俺は慌てて止めた。

「ちょっと待て。危ないだろ」

 俺は犬をひょいと抱き上げて、声が聞こえた方に向かって言った。

「すいません!サスケって、もしかしてこの子ですか!」

 俺の声が届いたらしい。水たまりに足が入るのも構わずに、声の主が駆け寄ってきた。

「サスケ!」

 やはり飼い主だったようだ。サスケと呼ばれた犬は、早くそっちに行きたいと言わんばかりに、俺の腕の中でもがく。
 俺は急いで犬を地面に下ろした。
 犬はちぎれんばかりにしっぽを振っている。
 それを見て、男性は安堵の声をもらした。

「良かった……。あなたが見つけて下さったんですか。本当に、ありがとうございました!」
「いえ、見つけたわけじゃなくて。この子、ここで雨宿りしてて。あの、あなたもいったんここにどうぞ」

 俺は彼をカーポートの屋根の下に促した。

「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとだけ」

 彼は傘を閉じて地面に置く。それからしゃがみこんで犬の頭を撫でていたが、すぐ近くに放ったままだったタオルに目を留めた。

「もしかして、こいつのこと、綺麗にしてくださったんですか」
「えぇ、まぁ。だいぶびしょ濡れだったので」
「何から何までありがとうございました」

 明らかに自分よりも年上の男性だ。その人に深々と頭を下げられて、照れる。

「いえいえ。あの、サスケって言うんですか、この子」
「あ、はい」

 俺は彼の隣にしゃがみこみ、サスケの頭を撫でた。

「良かったな。家に帰れるぞ。今度は迷子になったらだめだからな」

 分かったとでも言うように、サスケは大きくしっぽを振った。
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