雨宿りキューピッド

芙月みひろ

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2.公園

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 ランニングは俺の毎朝の日課だ。
 高校生の頃は部活をやっていたから、わざわざ早起きしてまで運動しようとは思わなかった。
 しかしこの春に大学生になって、運動系のサークルに入ろうと思ったが、お遊び程度のものが多く、また、ガチなサークルは、俺にはちょっとハードルが高かった。そんなわけで体がなまってしまうと思い、早朝のランニングを始めたのだ。高校生の時の朝練に嬉々として参加していたくらいだから、もともと早起きは苦ではない。
 その日も俺はいつものように軽い準備運動をした後、家から公園へ向かって走り出した。五月中旬、顔や首筋を撫でる風が気持ちいい。
 公園に入って行くと、すでに数人、走ったり、散歩したりしている人たちがいた。そのほとんどが、この短期間に顔見知りとなった人たちだ。俺くらいの年の人から祖父母くらいの年の人まで、年齢層は幅広い。

「おはようございます!」

 俺は走る速度をほんの少し緩めながら、知り合いの面々に挨拶を投げかける。

「おはよう!今日はいつもより少し遅いんじゃないの?」
「ちょっとだけ寝坊しちゃったんですよ。あはは!」

 そんな感じで道々挨拶を交わしながら、広い公園の外周をぐるりと走って行く。その途中、犬の散歩をする女の子の後ろ姿に行き会った。
 犬の散歩をする人たちも多く、たいていは覚えているが、彼女もその犬も初めて見たような気がした。
 俺は彼女と一匹を追い抜きざまに、極力驚かせないように気をつけながら、挨拶をする。

「おはよう!いい天気ですね!」

 彼女の肩が一瞬ビクッと震えたような気がしたが、俺の姿を見てふっと表情を緩めた。

「おはようございます」

 控えめな彼女の笑顔を好ましいと思いながら、俺も笑顔を返す。
 そのまま先に進む俺の背後で、茶色の毛並みの犬が俺を見て「ワン!」と吠えた。ちらと振り返った先で、犬は俺の方を見ながらフリフリと勢いよく尻尾を振っていた。
 女の子と犬には、その次の日からも毎日のように公園で見かけるようになった。
 その日も公園に向かって走って行くと、今朝は入り口付近に彼女の姿が見えた。犬のリードを引っ張っている。犬がべたりと道に張り付いて、動かなくなったようだ。ひどく困惑している様子が見て取れる。
 助け舟を出そうと彼女に声をかけようとしたが、それよりも早く犬が俺に気がついた。耳がぴくりと動き、俺の方に目を向けたかと思うと、それまで動かなかったのは何だったのかと思うほど素早くさっと立ち上がり、ぶんぶんと尻尾を振り始めた。その様子は俺を認めて喜んでいるように見えた。

 喜んでいるのは犬だけか――。

 複雑な気分で苦笑し、俺は大股歩きで彼女に近づいていった。
 彼女は俺にはまだ気づいていない。不思議そうな声が聞こえる。

「いったい、どうしたっていうのかしら。……あ!」

 ようやく俺に気がついて、彼女は慌てたように、しかし、にっこりと笑った。

「おはようございます」
「おはようございます。この子、さっき散歩拒否してましたね」
「見ましたか……」

 彼女は苦笑を浮かべる。

「そうなんです。急に動かなくなっちゃって。それなのに、今度はいきなり立ち上がったりして……」

 俺はしゃがみこみ、犬の背を撫でながら言う。

「まさか俺が近くまで来てるのに気づいて、待ってたのか?」

 俺の言葉を理解した訳ではないだろうがよ、ますます嬉しそうにしっぽを振る。それから、俺のTシャツの袖を咥えて引っ張った。

「だめよ!離しなさい!」

 驚いて犬を叱る彼女を見上げ、俺は笑った。

「大丈夫ですよ。痛いわけじゃないし。……なんだ、お前、もしかして俺のこと、散歩に誘ってんのか?」

 すると犬はシャツから口を離した。ててて、と数歩行ったところで足を止めて、俺をじいっと見る。

「あはは。来いって言ってるのかな。もしお邪魔じゃなかったらですけど、俺も一緒に散歩いいですか?」
「え、でも、ランニングとか、時間は?」

 彼女の顔にどぎまぎした表情が浮かぶ。

「全然問題ないですよ」

 犬は早く行こうとでも言うように、「ワンワン!」と吠える。

「催促しているみたいだ。行きましょうか」
「じゃあ、お願いします。すみません」

 彼女はいつもの控えめな笑顔を見せた。
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