続きは甘く優しいキスで

芙月みひろ

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19.週明けて-1

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 久しぶりに穏やかな気持ちで、二日に渡る週末の休みを過ごした。
 一日目は梨都子たちとの約束通り、清水の運転で隣県まで行き、買い物とちょっとした観光を楽しんだ。梨都子たちから「お邪魔だったかしら」などとからかわれてしまうくらい、私は拓真と一緒の外出が嬉しくて少々はしゃぎ気味だった。
 二日目は拓真と一緒にのんびりと起き、二人してのんびりと朝食を済ませた。その後もやはり、のんびりと過ごす。午後になってから近くのスーパーへ出かけ、買い込んできた食材を使って二人で料理をした。早めの夕食をゆっくりと取った後にはソファに並んで座り、大画面のテレビで映画を見た。
 眠る時は同じベッドに入ったが、この休みの夜、私たちが再び肌を重ねることはなかった。
 私は抱かれても構わないと思っていたが、拓真はキスしかしなかった。それを物足りなく思っていることがつい顔に出てしまう。
 私の顔を見て彼は苦笑した。

 毎晩のように抱いてしまったら、君のことしか考えられなくなりそうだから――。

 もちろん本当は今だって抱きたいんだと言いながら、彼は大切なものに触れるような優しさで、私の頬に、瞼に、唇に、いくつものキスを落とした。
 そこから伝わる拓真の想いを噛みしめながら、私は彼の傍で穏やかな眠りについたのだった。
 週明けの朝は、拓真が起きるより先にベッドを抜け出して、朝食を用意する。
 彼は遅れて起きてきたが、キッチンに立つ私に気づいて嬉しそうな顔をした。

「おはよう」
「もうすぐできるよ」
「ありがとう。顔、洗ってくる」
「うん」

 彼となら他愛のない会話も嬉しくて、つい顔がにやけてしまう。
 身支度を整え終えて、拓真がリビングに戻ってきた。朝食の準備が整ったテーブルにつく。どきどきしながら見守る私の前で、彼は満足そうな顔をしてそれらをお腹に納めた。

「美味しかったよ。ありがとう」

 にこにこして言った後、彼は急に表情を改めた。真剣な顔をしている。

「まさか会社で何かされることはないと思うけど、くれぐれも気を付けるように。もちろん、俺もできるだけ目を離さないようにするけど、絶対に一人にはならないでほしい」
「絶対に、っていうのは難しいわ……」
「それはもちろん分かってるけど……。それでも、極力注意してほしい」
「分かったわ。気を付ける」

 固い声で答える私の手を彼はぎゅっと握る。

「できるだけ早く手を打つから」

 私は黙って頷いた。出張から戻ったその足で向かったリッコでも、確か拓真はそれらしいことを言っていた。その時にはすでに彼の頭の中にはその「手」があったようだが、私に内容をまだ明らかにしないのは、現時点で不明確な話だからだろうか。

「とにかく、碧が今やるべきなのは、気を付けること一択。分かった?」
「分かってます。そうだ。拓真君、早めに出るって言ってなかった?そろそろ時間じゃない?」
「後片づけしてから出るよ」
「そんなの私がやるわ。だから、どうぞ。出かける準備して?」
「うぅん、それじゃあ、お願いしようかな。申し訳ない」
「これくらいのこと、どうってことないよ」
「ありがとう。じゃあ、また会社で。そうだ、スペアキー、ちゃんと持ってるね?」
「もちろん」
「それじゃあ、先に出るよ」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってくる。って、行く先は同じだけどね」

 拓真は笑って言いながらリビングを出た。
 玄関まで着いて行き彼を見送った後、キッチンに戻って後片付けに取り掛かった。手早く済ませ、出勤の準備をする。週末に買いそろえた洋服を身に着け、拓真より遅れることおよそ三十分、私は彼の部屋を出た。
 会社に近づくにつれて不安が大きくなっていく。もしも太田と出くわしたら会社まで走ろうと思いながら早足で歩いた。
 しかしその心配は無用だったようだ。私は無事に職場に到着した。ロッカールームに荷物を置き、簡単に身だしなみを整えてから管理部に向かった。
 総務課にはすでに斉藤の姿があった。しかし、私より先に出たはずの拓真の姿はない。
 離席中だろうかと不思議に思いながら、私は斉藤に挨拶した。
 席に着き、仕事に必要なものを引き出しから取り出し始める。一揃い準備できた時、拓真が現れた。
 斉藤とはまだ顔を合わせていなかったのか、彼と朝の挨拶を交わしている。
 何気なく二人の様子を眺めていたところ、拓真に声をかけられた。

「笹本さん、おはようございます」
「は、はい。おはようございます」

 動揺した私に対して、拓真は落ち着いていた。いつもと変わらぬ同僚としての顔と態度を崩さず、微笑んでいる。
 彼の役者ぶりに感心しているところに、大槻がやって来た。その後ろには田中がいる。二人ともすでに出勤していたようだ。

「おはよう」

 その場にいた私たち三人は立ち上がり、それぞれに挨拶する。

「おはようございます」
「おはよう。今週もよろしく」

 大槻はにこやかに応えてから、私と拓真を交互に見た。

「笹本さん、北川さん、先週は出張お疲れ様。支社長からお礼の電話があったことを伝えておきたくてね。笹本さんの指導が分かりやすくて良かったって、教えてもらった職員たちみんな、口を揃えて言っていたそうだよ。北川さんも支社長に同行して、色々と勉強になったんじゃないかな」
「はい、とても有意義な時間でした。ありがとうございました」

 拓真はかしこまった様子で答え、それから紙袋を大槻に見せた。

「こちらの菓子を笹本さんと選んで買ってきました。管理部の皆さんで、と思いまして」

 大槻の目が丸くなる。

「仕事で行ったんだから、気を遣わないで良かったのに。でもせっかくだから、有り難くいただきましょうか。笹本さん、後で管理部のみんなに分けてもらえるかな?」
「はい、分かりました」

 私が頷いたのを見て、大槻は自分の席へと戻って行った。
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