ソルティ・ジェラート

芙月みひろ

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 不思議な出来事だった――。


 わたしはまだ手の中にあったコーンをかじりながら、ベンチにもう一度座り直した。通り一帯に飾り付けられたイルミネーションを眺めながら、まるで謎解きのように天使が残していった最後の言葉について考えた。


「そんなの、この時期だし、どこにでもありそうだけど……」


 商店街、デパート、イベント広場、とか?


 考えつく場所がありすぎて、どこに行けば見られるのか、かえって思いつかない。


「とりあえず探してみるか。どうせ予定もないし」


 わたしは立ち上がると、イルミネーションの光の中を、今度はゆっくりとした足取りで歩き始めた。


 それから数十分後。


 わたしはアーケード街から少し逸れた所にある、某有名店の前で足を止めた。


「これなんか、まさにそうじゃない?」


 それは、あの天使が言っていた条件にぴったり当てはまりそうな、大きくて白いクリスマスツリーだった。


「きれい……」


 うっとりと見上げながら、ほおっとため息をついた。


 これまでだったら隣には彼がいたものを――。


 ふと思い出して、ツリーがまとうイルミネーションがにじみそうになった。


 その時わたしに声をかける人がいて、涙が止まる。


 怪訝に思いながら振り向くと、そこには高校時代のクラスメイトが立っていた。


 ***


 仲が良かったその男子は、数年たった今では爽やかな青年に変貌していて、振られたばかりだというのに、わたしはどきっとしてしまった。


「すごい偶然だなぁ」


 彼はにこにこしながら私に近づいてきた。


 つられてわたしも笑顔になりながら、言葉を返す。


「本当だねぇ。もしかして、ここで彼女と待ち合わせ?」


「彼女なんていないよ」


 さらっと言って、彼はあははっと笑った。


「実はこのツリー、うちの会社で用意したやつでさ。見に来たんだ」


「へぇ、そうなんだ。こんなに大きいの、この辺で見たの初めてだよ」


「クリスマスツリーっていったらさ、俺たちが高校生の頃は緑色のやつしかなかったと思わない?」


「ん~、どうだったっけ……」


 十年近く前のことだ。そう言われればそんな気もするが、あんまり覚えていない。


「ところでそっちは?誰かと待ち合わせ?」


 わたしは首を振った。


「うぅん、帰る途中」


 そう答えたら、彼はニカッと笑った。


「じゃあさ。久々に会ったことだし、一杯どう?」


「今から?」


「都合いいなら、だけど」


 わたしは少しだけ考え込んだが、彼の誘いに乗ることにした。このまま家に帰って一人酒に逃げるより、全然いい。


「うん、いいよ」


 わたしの返事に、彼は嬉しそうに笑った。


「どこ行く?」
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