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 「世界征服を目論む魔王を討伐する」と言う話で強引に集められ、気の遠く成る程の激戦を繰り返した旅路の末の物語。

 役目を果たし戻って来た王都にて、僕だけ別室に置かれ暫く放置された挙句の果てに、「盗賊シーフは表立って王宮に迎え入れられない」とか言う理由で、僕は荷物持ちポーターと言う急拵きゅうごしらえの役職名を押し付けられ、その報奨金だけを与えられて、[魔王が討伐された]と言う現実から連想される[平和に成った]と言う雰囲気に酔い痴れ、御祭り騒ぎに成っている王都の街中にたった一人で放り出された。

 気付けば勇者様御一行が討伐に利用した荷物は勿論、馬車に乗せたままの僕の私物、王城に入る時に取り上げられた武器や小道具までもを取り上げられ、着の身着のまま、手元には金貨の入った重たい袋のみを持った状態である。
本当は僕の商売道具、愛用品だけでも取り戻したかったけど、城門にて門前払いを受け、取り返す事は出来なかった。

 当然の事乍ら、国王の娘さんと婚約する事に成った勇者と連絡を取る手段を絶たれ、他の3人仲間とも連絡を取る事は許されず。武器無し、私財も無し、現金だけ持たされて放り出され、王都に帰って来て早々、ある意味で僕はドン底に陥れられたのである。正直言って、今持ってる金貨の袋の中身より、売れば(売れれば)もっと金銭的にも価値のある私財が馬車の中にあったので腹立たしくって仕方が無い。ほとぼりが冷めたら王城の宝物庫へ忍び込んで、その代金分は取り戻させて貰う事にしようと思う。

 そう言った訳で、仕方無しに御祝いムードで盛り上がる街中を歩いていると、騎士団の鎧をに身に纏っているだけのガラの悪い男達に後を付けられている事に気が付いた。
[魔王が討伐された]とは言え、この世の中、何処でも治安状況は一緒で悪いまんまである。然も、相手は僕が多額の報奨金を投げ渡された現場に居合わせた騎士達だ。胸糞悪い。今までも似た事例で、同じ様な事をしてきやがったに違い無い。仕方ないから気晴らし序に、僕が直々に御付き合いしてやろうでは無いか!

 僕は彼等の鎧から発せられるガシャン…ガシャン…と言う音に反応しているかの如くに挙動不審を装って…、自分の都合の良い人気ひとけの無い地域へと歩き出す……。
だが、騎士団所属の3人の無法者達はニヤニヤ笑って楽しそう。数の利を生かし僕を裏路地へと誘導した積りに成っているらしい。馬鹿なのかな?目撃者は増えるけど…、騎士なんだから…大通りで僕をスリ扱いして捕らえれば…大木名分掲げて金貨を奪えただろうに…、まぁ、人気ひとけの無い…目撃者が出辛い場所の方が…、僕的に都合が良いから良いんだけどね~……。

 で、その事柄から考察するに多分、彼等は僕が、勇者に雇われていただけの一般的な荷物持ちポーターだ。と、勘違いしていたのだろう。だから、簡単に僕から金貨をせしめられると思っていたのだろう。
だが、しかし、そうは問屋が卸しても、ガチで戦力として戦闘にも参加していた盗賊シーフである僕が許さない。そもそも、勇者様御一行の旅路に参加していた者のレベルを御砂糖よりも甘く見過ぎである。馬鹿にするにも程がある。

 勿論、そんな無法者に対してヤル事は鉄拳制裁!物理攻撃の一択。即時に当身を食らわせ…って、あれ?思ってたよりも簡単に3人共に個別に軽い一撃で気絶させてしまえてしまった。弱過ぎてドン引きだよ。

 でも、まぁ、強敵であろうが軟弱者であろうが、倒したエモノに対してする事は一緒。剥ぎ取りである。序に、どうしようもない程に弱っちい騎士達のこれからの処遇を考える事とする。
後々絡まれるのも面倒臭いし、心を折る為と、迷惑料として身包み剥いで全裸の刑に処すのは当然の事ながら、剥いだ物は如何しようかな?

 量産品とは言え、簡単に足が付く鎧や剣は売り払うには向かない。でも、この場所は丁度良い具合に(自分で誘導して連れて来たんだけど)倉庫街。仕方が無いから鎧や剣は質入れ品の倉庫に放り込む事にしよう。騎士が支給品を質入れとか、一般的にそう言う事が無きにしも非ず。と言う事で、何かあっても処理して貰える事だろう。
衣服や下着も、流石は騎士様、安い物では無い。端切れにしても上等が過ぎるので売らず。染みでも付け、不用品として神殿管理の寄付ボックスへ投入した方が良いと思われる。使い古しの下着であろうと…貧民街では有難がられるのだから……。
量産品ではなさそうな1点物っぽい貴金属も、足が付きやすいので一緒に放り込んでおこうかな?の結果、手元に残るのは騎士が持っていた財布とその中身だけ、なので、これで質の悪い[娼館御用達の薬物混入済みの酒臭いワイン]を購入して、全裸の騎士達の口に注ぎ込み、残りを周囲に撒いて現場が完成。この状態で人を呼べば、酒に酔って身包み剥がれた様子にしか見えないだろう。勿論、僕自身が人を呼ぶ訳では無く、ワインを購入した裏界隈の店に紹介して貰った劇団員に後の事は御任せした。
奴等は役人嫌いの連中だ。面白半分で彼等の立場を悪くしてくれる事だろう。

 そして、この後の僕は安全対策の為…行方を暗ます為に…、勇者と旅立つ前までの義賊仲間であった友人達…僕が勇者と旅立つ事に成った原因であるアイツ等の元を…コッソリ密かに訪ね歩く事にする……。
アイツ等は、僕が勇者に寄って一度パーティーを追い出された時、既に盗賊業から足を洗っており、自分達の保身の為に2度目にも同じ様に謝りながら、僕を国と勇者協会と勇者パーティーに差し出したのだ。だから、貸しは十分な筈だ。折角だから今回、その借りを返して貰う事としよう。

 こうして僕は、元義賊仲間達から「会った事は内緒にしておくから、会った事を内緒にしてくれ」「(家族や恋人、近隣住民にも義賊シーフであった事を知られたくないから)もう二度と会いに来ないでくれ」と言う絶縁の言葉と一緒に、新たに仕事に使う小道具や変装道具を貰い。王都から出て行った・・・・・振りをして・・・・・新生活をスタートさせたのであった。
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