世界を救った勇者のパーティーに所属していたシーフです…

mitokami

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 盗って得た荷物も重いが、僕の足取りも重かった。後宮に入れられた上位貴族以外の者達の末路が、想像以上に重たいモノだったからかもしれない。本心を言えば、魔法使いには資料を見せず。安否を確認させもせず。城の外へ連れて戻った方か良いのではないか?と思うくらい、魔法使いが求めているであろう者の安否は絶望的なモノだったのだ。

 序に立ち寄った後宮が見下ろせる場所でさえ、現在進行形の殴る蹴るだけじゃない陰湿な暴行事件の現場でしかなかった。気位の高そうな女が取り撒きを引き連れ、多勢に無勢で1人の格下らしき人物を虐げているっぽい雰囲気に見えた。女しかいない場所での女の熾烈な覇権戦いって怖い、怖過ぎて僕は、女性不信に成りそうだ。と思った。
因みに…、遠いし…忍び込んでいると言う事情があるし…そもそも僕は平民だし…で…、助けにも行ってあげられなかった御嬢さん…に一言…、君の冥福を願っています…と…言うのは置いておいて……。

 この様な事を魔法使いに教えたら[穏便に国王を交換するだけ]では済まないのではなかろうか?魔王かの如くに、この国の王侯貴族纏めて滅ぼし兼ねない。そんな気がしてならない。
悪人だけで、この国が構成されている訳では無い事を如何やって魔法使いに伝えようか?と考える程に、僕は思い悩んでしまっていた。

 警備で巡回している王宮の兵士達を幾度かやり過ごし、魔法使いを眠らせた場所に戻ると、僕が魔道具を使って強制的に眠らせていたのだけど、魔法使いは何も知らずに気持ち良さそうに眠っている。誰にも見付からず無事で良かったのだけど、少し腹立たしく感じてしまった。理不尽だと自分でも思うが、魔法使いには、僕が思い悩んだ分だけ僕をねぎらって欲しい。でも、魔法使いに対して、そんな事は言えないので、[上の扉を開けようとする]と、木片が崩れ大きな音が鳴る細工を施し、自らも仮眠を取る事にする。

 この夜、後宮では何かしら事件が起きたりしていたかもしれないけど、静かな夜だった。

 翌朝、僕は魔法使いに使った魔道具の使用がバレない様に魔物除けの結界を発動させ、魔法使いに対して使用していた魔道具を仕舞い込む。魔物除けとは言え、気配を消してくれる魔道具の使用は、言い訳をすれば、魔法使いに違和感を感じさせるモノでは無いだろう。と僕は信じている。当の魔法使いの方は…、まだ眠っていたのだけど……。
それだけ魔力酔いの症状が重く、魔法使いが色々と消耗していた。と言う事だろう。半強制的にでも、眠らせておいて良かった。この後、昼過ぎまで魔法使いが目覚めなかったので、その時も同じ事を思った。眠らせて正解だったね。

 そんな訳で、魔法使いが目を覚ましたのは、僕が厨房から拝借して来た果物で昼食を済ませ、持ち出した資料、僕等が魔王討伐の旅へ旅立った日から、この国に戻るまでの間に、後宮に入った平民の事が掛かれた書類を読破した後の事だった。

 目覚めた魔法使いは思った通り、手始めに「私は、どのくらい眠っていた?」と僕に聞いて来る。地下1階とは言え、太陽の日の光が届かない地下空間。魔法使いに今の時間帯を知る術は無い。「僕より長く眠っていた事は確かだよ?」と答えとけば良いだろう。

 僕の答えに不満そうながら魔法使いは暫し黙り込み「それは?」と僕が手にしている紙の束を気にする。ここはまず、果物を差し出し「食事と水分補給を先に済ませなよ」と言っておこう。時間の先延ばしに成るだけだけど、寝起きに[悲しい現実]は辛すぎる気がするから、これは気遣いだと魔法使いには思って貰いたい。

 僕から手軽に食べられる果物が入った籠と水筒を受け取った魔法使いは、何か言いた気だったけれども、僕が思った通りに[木苺]を最初に口にしてくれた。それは魔法使いが旅の間もドライフルーツにして持ち歩き、頻繁に口にしていた物だ。きっと好物なのだろう。[木苺それ]に一服盛っておいて良かった。
因みに、木苺に散布したのは、精神を穏やかにするリラックス効果と眠気を誘う薬だ。気付かずに食べてくれた上に未だ顔色の戻らない魔法使いに対して効果覿面で僕は助かる。

「眠いなら、もう一回仮眠を取れば?」と言う僕の言葉に魔法使いは素直に従ってくれた。但し、次に魔法使いが目を覚ますのは深夜と決まっている。魔道具を再度使用して調節させて貰うのだ。後で魔法使いは怒るかもしれないが、僕の発言で勘違いし1日程度感覚がズレても、日付を確認するまでは、自分が丸1日眠っていた事には気付かないだろう。
そして、思った通りに気付いていない魔法使いは、体調の不良には変わりが無いみたいだが、少し顔色が戻り、残留した薬の効果で落ち着いている様子だった。今度は何も盛らずに御茶を提供する事にしよう。

 ここでやっと、昨晩、僕が盗って来た資料を手渡す事にした。
魔法使いは最初の方、眉間に皺を寄せて書類を見ていたが…、途中から蒼褪め、ポロポロと涙を零し…、声を殺して泣いて泣いて泣いて…大きな溜息を吐いて……。「ちょっと見晴らしの良い場所まで行って、後宮燃やして来るわ」と立ち上がり出掛けかけようとする。勿論、僕は魔法使いを羽交い絞めにして止めた。

「ちょっと待て!後宮には今現在進行形でイジメや虐待の被害にまで遭ってる被害者も住んでるんだぞ!一緒に燃やしたら駄目だからな!」
「今、被害者でも、それまで他の被害者を助けようとしなかったり、脅されたとしても一緒にヤッてたら同罪!」
「それ、暴論だから!それに…、あ、そうだ!罪の軽い者と重い罪を犯した者の苦しみが一緒では駄目だろ?重い罪を犯した者は…、そう、その分だけ生き地獄を味合わせるべきじゃないかな?取り敢えず…、そうだ!その序盤は法律に任せて罪を裁いて貰って選別して、金や権力で減刑を目論んだ奴等を個別に燃やしてしまうのは如何だろう?そう言うヤツって主犯ぽいだろ?」って、今思い付きで適当な事を言い過ぎたかもしれない。けど、だけど、後宮にて無差別殺人事件を起こそうとしていた魔法使いの行動を止めた事で、僕を許してやって欲しい。

 魔法使いは「…うん…そうだね……」と、僕の提案に納得した上で「確かにその通りだ」と、可愛らしい穏やかな笑顔を僕に見せたのだが「後宮は誰一人として逃げられない様に全て氷漬けにして、先に国王を処罰してしまわなきゃだ♪」と言いやがった。それ、後宮で何人かは凍死するのではなかろうか?
この時の魔法使いの表情は…、笑顔なのに瞳がヤベェ…、瞳孔開ききっててマジで冗談抜き…怖かった……。これ以上、僕には何もできず。ドウシヨウモナイのではなかろうか?

 無宗教派な僕は、神様を本気で信じている訳では無いけれど、今、本気で、何かしらの神的なモノに願う。僕にはもう、止めてやれそうに無いので…、誰か僕の代わりに魔法使いコイツを止めてくれ!と……。
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