ふくしゅうはじめました

prologue

001

　親の精神疾患せいしんしっかんに寄よる事情、育児放棄いくじほうき、虐待ぎゃくたい。外国籍がいこくせきの親が在留資格ざいりゅうしかくを無くして理由は如何どうあれ、結局は迎えに来る事も無く置き去りにする。近年ではレアケース…、親を亡くしたり、親が行方不明に成ったり等など……。
親元おやもとで養育よういくを受けられない。養やしっても育てても貰もらえない子供が生活の場所。児童養護施設じどうようごしせつ…、所謂いわゆる、海外で言う所の孤児院で…、[彼]は育った……。

　そこで[彼]は、何の蓄たくわえも無く、追い出される時期を迎えてしまっては、[真っ当な人生]が手に入らないと、駄目だめな先輩達を見て学まなんで、友達付き合いで支出する遊興費ゆうきょうひは無駄むだと判断し、高校時代のアルバイトで支度金したくきんを揃そろえ、施設を出される３月末日を迎える前に就職を決めて自みずから施設を出て行き、親の世話になっている者よりも自立し、同じく１８歳で施設を出た誰よりも、思い描く程ほどに憧あこがれを抱いだいていた普通の人生を送っていた。

　そんな[彼]が、２０代前半を謳歌おうかするある日。
障害児の施設出と勘違いされるのも困るけど…、問題児の施設と勘違いされ、差別、不遇を受けるリスクを避ける為に…、児童養護施設に教えていた携帯電話スマホに着信が有り…、留守電が入っていた……。
[彼]は、施設関係者からの連絡が、会社の方に来たりしなかった事に対して胸を撫なで下ろしつつ、質素ながら落ち着ける一人暮らしの我が家にて、携帯電話スマホに入れられた留守番電話の内容に耳を傾ける。

　その電話は…、幼おさなき日に自分を虐待し、殺し掛け…、引き離された後は、[彼]存在する事すら拒絶きょぜつしてくれた存在……。[彼]を産んだ人、[彼]の母親の訃報ふほうだった……。