ふくしゅうはじめました

mitokami

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prologue

002

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 留守電を無視、又は連絡が遅れてしまい…、施設から会社の方に電話を掛けられる事をおそれ…、そもそも、施設の人から[連絡が欲しい]と留守番電話が入っていたので…、[彼]は久し振りに[彼]にとって古巣である児童養護施設じどうようごしせつに電話を掛ける……。
憂鬱ゆううつな気分で画面に触れ、なぞり、選んだ携帯電話スマホに記憶された情報にて、画面に映し出される相手への呼び出し表示。数回のコールで電話に出たのは、予想を反し、児童養護施設[子供達の家]出身で、カウンセラーの資格を取って職員として戻って来た女性の声だった。

 一気に[彼]の気分は軽く成る。
うれしさあまって「愛羽マナハネエさん、御久し振りです」と[彼]が名乗りもせずに挨拶あいさつすると、彼女は[彼]の声も覚えていてくれて「道方ミチカタ君?!」と[彼]の名を呼んでくれた。
[彼]こと、道方ミチカタの表情に思わず笑みが浮かぶ、養護施設を出て以来、久し振りのゆるみきった笑顔だ。

 そう、母親からの虐待ぎゃくたいが原因で入所した道方ミチカタにとって愛羽マナハさんは、姉と言うより、本物の母親以上に母親の様な存在で、初恋の相手でもある。声を覚えていてくれて、名を呼んでくれただけで、よろこびも一入ひとしお
会話に出したくも無い嫌な話題も、すんなり受け入れる事が出来たのは、ひとえ愛羽マナハさんと言う存在の御陰おかげだろう。

 そして、愛羽マナハさんの言葉を通し、児童養護施設からもたらされたのは、会った記憶も無い相手、見ず知らずの母親の兄から来た連絡事項と言う名の決定事項。
道方ミチカタの母親は…、通夜や葬儀そうぎをせず、火葬かそうし収骨する…直葬ちょくそうと成る……。との事と、道方ミチカタの母親が死ぬ前まで住んでいた家にて「相続の話しをするから来い」と言う話だった。

 愛羽マナハさんは、幼き日の道方ミチカタを引き取る素振り所か、道方ミチカタへの援助えんじょすら拒否きょひしてきた道方ミチカタの母方の親族に対して怒り心頭。
気遣きづかいやいたわりの言葉は勿論もちろん、相手の都合も確認せず、日程を勝手に決めて、その連絡を伝言で済ますだなんて」と道方ミチカタの代わりにいきどおってくれている。
道方ミチカタ愛羽マナハさんが、そう思ってくれるだけで良かった。

 未婚みこんの為に非嫡出子ひちゃくしゅつし。父親不明の認知にんちされていない子を持つ母子家庭だったがために、唯一ゆいいつの親であった母親。
ひど虐待ぎゃくたいの末に引き離され、[帰して欲しい]と言う要望ようぼうが無かった為に引き離されてから会う事の無かった母親の死。

 かつて…、温もりが欲しくて抱き締めて欲しいと望み、求めては拒絶きょぜつされ…、暴力を振るわれ、何が悪いのかも理解できず「ごめんなさい」「ゆるして」と繰り返しあやまり続け…、何度も何度でも「おいていかないで」と追い掛け…、決別の日「何時いつか迎えに来てくれる」と信じ、願った……。痛くても苦しくて悲しくても母親を求めた子供の頃とは違う。今と成っては、如何どうでも良い。と、その時の道方ミチカタには思えたのである。

 そんな気持ちだとは思いもしないであろう。母親を求めていた頃の道方ミチカタを知る愛羽マナハさんは、気が進まなくても話を聞きに行く事を推奨すいしょうし…、即断即決そくだんそっけつけ、キッチリ調べ…、「借金も相続財産に成るから」と、借金が有る様子なら、借金の金額と相続税を足した額が、預貯金や残された現物財産に近そうなら、相続権を放棄ほうきする方が安全である等の相続に関する予備知識を与えてくれた。
借金を相続させ、赤字を回避し、骨のずいまで、しゃぶりに来る暴力団ヤクザたぐいや、金融きんゆうヤクザ(指定暴力団とは別の組織)は、何時いつ、どの時代も、何所どこから接近して来るかが分らないので、注意が必要なのだそうだ。
令和と成った現代でも、任侠にんきょうドラマ的なアレやコレが、現実にある所にはあると言う。
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