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今思えば、何故、あの場に居座ってしまったのだろうか?
何の解決策にも成らないけど、あの場から美鈴を連れ出してしまえば…、有った事は消せなくても、もう少し、ほんの少しだけでも心乱されず…見て見ぬ振りも出来ただろうに……。
シャワーの音が止み、風呂場の扉の開いた音がした。足音と衣擦れの音。甘えた様な囁きと、甘い吐息。絡み合う様な濡れた音に背筋が凍る。僕は続きを強請るナオさんの声と、それに徹さんが答え、発せられる音に対して居たたまれず「もう止めてくれ!」と声を荒げていた。
誰も居ない。と、誰も聞いていない。と、思い込んでいたであろうナオさんと徹さんは、嘸や驚いた事であろう。一方で美鈴は、僕の向かいの席で優雅にハーブティーを飲み「御茶飲んで落ち着きいや」と硝子のマグカップの中で花開いたハーブティーに目を落とし、静かに物思いに耽っている。何故、美鈴はこんなに落ち着いていられるのだろうか?
脱衣所兼、洗面所を仕切るカーテンが僕の斜め後ろで大きく揺れ、引き口籠もる低い声の悲鳴が上がった。
慌てた様子で腰にタオルを巻き…、何が違うのか?本当に意味不明だけど…、徹さんは裸のまま「美鈴!違うんだ。こんな筈では無かったんだ」「御願いだから待って欲しい」「話を聞いて欲しい」と繰り返す……。って、何を?何を待って何が変わると言うのだろうか?混乱しつつも浮気を正当化しようとする様な男の言い分は意味が分らない。
そして、僕が振り返るとナオさんの方はカーテンの後ろで、何時もの白い肌を更に白くし、涙目に成って震える手を口元に押し当て、次の瞬間、洗面台に顔を埋めるのが見えた。
美鈴は今まで僕達の前では発した事の無かった様な冷たい声と口調で「服着れば?」と言い。徹さんを避け、その場を離れ、ナオさんの服を取りに行き「きっと私じゃ駄目やねん、ナァ~様に何も言わず渡して上げて」と僕にナオさんの着替えを託した。
僕は若干、少し嫌々受け取り、カーテンの向こうで体を何度も痙攣させ嘔吐するナオさんを目にする。すると、このまま放置したら死んでしまうのでは無かろうか?と心配に成り、一瞬100年の恋が冷めたと思っていた僕の気持ちから、ナオさんに対して心配する気持ちが湧き上がる。
そこで美鈴がカーテン越しにナオさんに対して「ナァ~様を一等好きなんは、変わらん。私は長女やから無くすん慣れとおし、それに私が普段、普通に求めてんは、私を巻き込まないラブ&エロスや、ナァ~様に捧げられたんは、ナァ~様のモンでええんよw」と言い。どうやってか?美鈴はナオさんの何かを救った御様子だ。
こうして暫くして、ナオさんは回復し、着替えて頬を染め、俯いて僕と美鈴の前に姿を現す。それまでに徹さんは「浮気は駄目絶対」「私が崇拝するナァ~様に手を出したんやから責任取りや」と美鈴の温度も気持ちも無い塩対応に心を折られ黙り込んでいた。
美鈴は、泣きそうに目を充血させたナオさんの額に唇を押し当て「ナァ~様は私のオシや、だから、何があってもナァ~様の事だけは嫌いになったりしいひんよ」と微笑み。自分の彼氏にも、やっと微笑み掛け「恋人関係は解消やw私、今な、トーさんよりナァ~様の事のが好きで大事や思うの、ナァ~様を大事にしいてくれるんなら、許したげる」と言って、動揺する徹さんから伸ばされた手を羽虫を払い除けるかの様に拒絶し「ナァ~様w今日は帰るけど、明日か明後日にでも原稿と御茶しに来るから」と言って近所にある自宅へと帰って行った。
僕はその場に残されたくなくて美鈴を追い掛け、男の慟哭を遠くに聞きながら美鈴と少しだけ話をする。
美鈴は困った様な表情で微笑み、僕を受け入れ「妹弟を持つ長女だから諦めるん慣れてるし、ナァ~様は恩人で、今の私があるのはナァ~様の御陰やから、ナァ~様の心を救う為に、諦めるんは平気やの」と微笑んで、言える範囲で僕の求める答えを与えてくれた。
あんな事があった後も徹さんは雨が降る度にナオさんのアトリエを訪れる。美鈴の勧めで、僕も美鈴と一緒にナオさんのアトリエへと月に数回通っている。
美鈴が外した指輪はアトリエに配置された本棚に飾られたデッサン用の小さな球体関節人形の首に掛けられ、美鈴に見向きもされず。周囲は美鈴と徹さんの破局の正しい原因を知らないまま「美鈴は面倒臭がり屋で日和見な娘だから」と、美鈴に振られた徹さんの事だけを気遣う様子を見掛ける。
僕は、その事に憤りを感じながら、僕と美鈴の恩人で、やっぱり如何しても好きな気持ちを消し切れないナオさんの為に口を閉ざし続けるのだった。
何の解決策にも成らないけど、あの場から美鈴を連れ出してしまえば…、有った事は消せなくても、もう少し、ほんの少しだけでも心乱されず…見て見ぬ振りも出来ただろうに……。
シャワーの音が止み、風呂場の扉の開いた音がした。足音と衣擦れの音。甘えた様な囁きと、甘い吐息。絡み合う様な濡れた音に背筋が凍る。僕は続きを強請るナオさんの声と、それに徹さんが答え、発せられる音に対して居たたまれず「もう止めてくれ!」と声を荒げていた。
誰も居ない。と、誰も聞いていない。と、思い込んでいたであろうナオさんと徹さんは、嘸や驚いた事であろう。一方で美鈴は、僕の向かいの席で優雅にハーブティーを飲み「御茶飲んで落ち着きいや」と硝子のマグカップの中で花開いたハーブティーに目を落とし、静かに物思いに耽っている。何故、美鈴はこんなに落ち着いていられるのだろうか?
脱衣所兼、洗面所を仕切るカーテンが僕の斜め後ろで大きく揺れ、引き口籠もる低い声の悲鳴が上がった。
慌てた様子で腰にタオルを巻き…、何が違うのか?本当に意味不明だけど…、徹さんは裸のまま「美鈴!違うんだ。こんな筈では無かったんだ」「御願いだから待って欲しい」「話を聞いて欲しい」と繰り返す……。って、何を?何を待って何が変わると言うのだろうか?混乱しつつも浮気を正当化しようとする様な男の言い分は意味が分らない。
そして、僕が振り返るとナオさんの方はカーテンの後ろで、何時もの白い肌を更に白くし、涙目に成って震える手を口元に押し当て、次の瞬間、洗面台に顔を埋めるのが見えた。
美鈴は今まで僕達の前では発した事の無かった様な冷たい声と口調で「服着れば?」と言い。徹さんを避け、その場を離れ、ナオさんの服を取りに行き「きっと私じゃ駄目やねん、ナァ~様に何も言わず渡して上げて」と僕にナオさんの着替えを託した。
僕は若干、少し嫌々受け取り、カーテンの向こうで体を何度も痙攣させ嘔吐するナオさんを目にする。すると、このまま放置したら死んでしまうのでは無かろうか?と心配に成り、一瞬100年の恋が冷めたと思っていた僕の気持ちから、ナオさんに対して心配する気持ちが湧き上がる。
そこで美鈴がカーテン越しにナオさんに対して「ナァ~様を一等好きなんは、変わらん。私は長女やから無くすん慣れとおし、それに私が普段、普通に求めてんは、私を巻き込まないラブ&エロスや、ナァ~様に捧げられたんは、ナァ~様のモンでええんよw」と言い。どうやってか?美鈴はナオさんの何かを救った御様子だ。
こうして暫くして、ナオさんは回復し、着替えて頬を染め、俯いて僕と美鈴の前に姿を現す。それまでに徹さんは「浮気は駄目絶対」「私が崇拝するナァ~様に手を出したんやから責任取りや」と美鈴の温度も気持ちも無い塩対応に心を折られ黙り込んでいた。
美鈴は、泣きそうに目を充血させたナオさんの額に唇を押し当て「ナァ~様は私のオシや、だから、何があってもナァ~様の事だけは嫌いになったりしいひんよ」と微笑み。自分の彼氏にも、やっと微笑み掛け「恋人関係は解消やw私、今な、トーさんよりナァ~様の事のが好きで大事や思うの、ナァ~様を大事にしいてくれるんなら、許したげる」と言って、動揺する徹さんから伸ばされた手を羽虫を払い除けるかの様に拒絶し「ナァ~様w今日は帰るけど、明日か明後日にでも原稿と御茶しに来るから」と言って近所にある自宅へと帰って行った。
僕はその場に残されたくなくて美鈴を追い掛け、男の慟哭を遠くに聞きながら美鈴と少しだけ話をする。
美鈴は困った様な表情で微笑み、僕を受け入れ「妹弟を持つ長女だから諦めるん慣れてるし、ナァ~様は恩人で、今の私があるのはナァ~様の御陰やから、ナァ~様の心を救う為に、諦めるんは平気やの」と微笑んで、言える範囲で僕の求める答えを与えてくれた。
あんな事があった後も徹さんは雨が降る度にナオさんのアトリエを訪れる。美鈴の勧めで、僕も美鈴と一緒にナオさんのアトリエへと月に数回通っている。
美鈴が外した指輪はアトリエに配置された本棚に飾られたデッサン用の小さな球体関節人形の首に掛けられ、美鈴に見向きもされず。周囲は美鈴と徹さんの破局の正しい原因を知らないまま「美鈴は面倒臭がり屋で日和見な娘だから」と、美鈴に振られた徹さんの事だけを気遣う様子を見掛ける。
僕は、その事に憤りを感じながら、僕と美鈴の恩人で、やっぱり如何しても好きな気持ちを消し切れないナオさんの為に口を閉ざし続けるのだった。
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