ある暗殺用に育てられた筈の花が畑違いな場所で…

mitokami

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 オイルランプの油が尽き果て、漆黒の闇と成った地下空間。私が一人泣いて罵って暴言も吐いて、嘆き疲れて眠った後、私と元勇者は別の施設の職員に保護されたらしい。
私が育った施設の方は、子供等に掛けた呪いが施設全体に広がっていたらしく、誰かが魔封じを外して自由にした元勇者の解呪の魔法の所為で、施設を囲う堀までの場所に存在するモノを須らくにしてしまったそうだ。

 元勇者の所為で仲良かった同じ施設の皆を亡くしてしまった頃の当時の私は、暫くずっと不機嫌に無口で、罪悪感に苛まれて私に付き纏う元勇者に世話を焼かれながら、誰とも慣れ合う事無く、新たな場所に馴染まずにいた。
勿論、新たな場所と言っても、前と同じ暗殺用の道具として育てられる子供を育てる施設には違いが無い。違うのは、前に居た場所が人里離れた人目の無い田舎で自由で健康的(?)な環境だった事だろう。
今居る施設は都会に存在し、スラム街の中に存在する為に危険で外に出る事も出来ず。大きな薄暗い部屋に皆が閉じ込められ、部屋の端っこで身を寄せ合っている状態。呪いの御蔭で不健康そうには見えないが、実質不健康な環境で育ち、皆が皆、表情に明るさが無い。御蔭で私は今まで恵まれた環境で育ってきたのだろう。と、今更に思う。

 この場で新参者の私は、私を必要とする暗殺系の依頼が無いからか?暇で、魔封じの魔道具を付けられ手錠を掛けられた元勇者と共に、その光景を見渡せる窓際の方に陣取っていた。と、言うか、私が無抵抗だった為に元勇者に寄って、そうさせられていた。と言えないくもない。

 そんな事もあり、現実を逃避して寝て寝て寝て寝て、悪夢に苛まれても意地でも寝て過ごして、ある晴れた日に私は思い立つ。元勇者の気質が、本当に本物の勇者なら賭けてみるか?と、少なくとも、勇者と呼ばれ、時期のある人間である事は間違いないし、私に対して罪悪感を持っている所も捨てるのは惜しい人材でもあるのだ。

 そう、人間は、本物の正義でなくても、自分の正義に酔いしれ自分の正義を貫く場合。例えそれが間違った正義でも、それを免罪符、言い訳にして、全力で行動できるモノである。(これは、ネットで誹謗中傷を一人で何百何千書き込むヤツや、聖戦と名付ければ人殺しも正義に成ってしまうテロリスト的な人等の心理でもあったりする。)そして、今世の私が躊躇も無く人を殺せる原理でもある。

 そうだ、思い立ったが吉日。元勇者を使って、やっちゃう?破壊工作デストロイ

 今度の場所では、施設の子等とのしがらみは無い。私に取って、どうにかして守りたい者でも助けたい者でも無い。今の施設の子等は、接点の無い、ただそこに居るだけの存在である。施設の子等に取っても、私と元勇者の存在はだろう。
寧ろ、元勇者がしている手錠と元勇者が私の世話を甲斐甲斐しくしている所為で元勇者諸共もろとも私も厄介者扱いだ。時に、飽きもしないで嫌がらせを仕掛けて来てくれるので、元勇者の私への過保護っぷりがヤバく成って来ている。最近では、私が縋れば無条件で受け入れてくれる程に過保護だ。但し、悪夢で魘されている時に起こさず手を握ってたり、抱き締めてくれてたりするだけなのが腹立たしい。

 そうこう色々あって、結果的に、如何足掻いても、この場所への未練も殺したり置き去りにしたりして後悔する相手も、助けたい者も助けるべき者も存在していない。足枷と成るモノの存在が無いのである。

 私は、この世界で習得した暗殺業に関係する魔法と技術で、元勇者の腕に装着されている魔力を封じる術具と手錠をパッパッと開錠し、元勇者に願う。
暗殺業関連で身に着けた演技力を総動員し、儚げに見える事を意識して目に涙を滲ませ「私を連れて逃げて下さい」って、(心の中だけで→)はっず!マジ恥ずかしい!!何処の悲劇のヒロインの台詞だよ!これ!!と叫びたい心境。
なのだけど、次の瞬間、元勇者は迷う事も無く私の願いに答えてくれた。思ってた以上過ぎる結果でだ。

 彼は耳を塞ぎたく成る様な轟音と共に周囲の壁半分程と、真上に存在した天井を全部吹き飛ばし、来た時からずっと曇っていた窓の外に見える曇り空を快晴の青空へと変えてくれた。あれ?今更だけど、ここって、何階建ての何階だったのだろうか?元勇者が、何か、すげぇ~やべぇ~事をやらかしたような気がしないでもないが、今更な御話だ。気の所為。と言う事にしておこう。と思ったが、その周囲の光景は魔王でも降臨したかの如くに殆どが瓦礫の山と化していた。

 そして、私は元勇者の腕の中、御姫様抱っこで空高く飛んで、私の知らない何処かへと運ばれたのであった。つか、勇者って空を飛べるのな、知らんかったわ。

 まぁ、そのよぉ~な事もあって、逃げ出して、追手を殺して逃げて逃げて、逃げ延びて、追手が掛からなく成った頃、元勇者【後藤雄太】は苗字と名前から漢字一文字づつを取って前後を入れ替え【ゆう】=【ユーゴ】と名乗り始める。

 私の方の偽名は、親切にも(?)ユーゴが勝手に決めてくれた。と、記しておこう。

「イレブン…イィーレ…から…、いね…にすると…、そのままが過ぎるか…前世での名前は?」
「覚えてない」
「前世で好きだったモノや言葉は?」
「覚えてない」
「ん~じゃあ、稲からこめ?読み方を変えてまい?おにぎり、おむすび、味噌汁、漬物」
「それ、私の名前にするつもりか?(最後の方のは勘弁して欲しい)」
「…(和食が)恋しぃ……」
「は?小石?唐突の石ころ扱い?」
「ん?あぁ~…そうだな…、じゃぁ…コイシにしよう……」
「じゃあって何なのさ」

 …と言う訳で…、私の名前は【コイシ】にされる事と成る……。今は、それを後悔していない事も無い。一時的に使う名前だと思って適当に受け入れた名前を死ぬまで使い続ける事に成るとは思わなかったのであった。
 
 …と言う事での現在…、私の名前は【コイシ】だ……。
毒にも薬にも成らない没落貴族から、ユーゴが庭師として仕事を貰い。王都近郊の御屋敷の庭園や温室で、ユーゴと一緒に私も販売用の観葉植物を育てる仕事をしていたりする。
何の因果か、【毒花どくばな】である私の体内に貯蔵されている毒が、害虫駆除に役立っているのだ。世の中何処で何が役立つか分からない。

 然も、灯台下暗しと言うヤツなのか?何なのか?勇者時代のユーゴの銅像が観光名所に成っている王都近郊の御屋敷で働いているのにユーゴの正体がバレていない。前髪命のイケメンを意識した髪型からスポーツ刈りにしただけで気付かれない摩訶不思議現象。これって聖なる勇者が持っている精霊の加護ってヤツの御蔭なのだろうか?

 因みに私の方は黒髪黒目が目立ち過ぎるので、最近は耳たぶに穴を開けて認識阻害の魔道具であるピアスを装備。顔立ちの印象が薄く、肌が寄り白く、髪と瞳も白んで見える感じに成っているらしい。水鏡越しに見ても自分では良く解らないので何とも言えないが、

 このまま、追手に気付かれなければ良いのにって、最近は凄く思う。短くは無いけど長くも無い期間過ごした、私の今世の、先が短いのでと思った。
ユーゴはそれを知っててか?知らずにか?気付いていて、か、私が距離を置こうとしても離れずついて回り、時々、不安気に私の手を取り、時に私を抱き締めて放してくれないくれない事もある。こんな子供染みた事をするユーゴを一人残して逝きたくは無いけど、急激な老いが少しづつ私を蝕み始めていた。そろそろ、呪いが解けてしまうのだろう。綺麗に育った対価の支払いが開始されている事を実感する。

 そんな中、冗談の積りか?ユーゴが頬を指で示し「御礼にキスしてくれてもいいんだよ?」と言って来た。折角だし、何時最期の時が来るか分からないし、私自身が猛毒を有するが故、安全な場所を選び、ユーゴの頬へ触れるだけのキスをしてみた。するとユーゴは驚いていたけど喜んでもくれた。

 それを切っ掛けに私は気付く、何時の間にか、私はユーゴに対して十分過ぎる情が移ってしまっていたらしい。ここでやっと、今更乍らだけど、セブ兄さんの気持ちが理解できてしまった。

 自分の大切な相手に求められたとしても、毒があるから自分を相手へ与える事が出来ない。と言う意味を私は今に成って理解する。それ以前の事でも、気を付けていないと自分の大切な相手を自分が有する毒で殺してしまう可能性がある事にホント今更に恐怖して、私を受け入れてくれたユーゴの腕から逃げる事を選択するしかなかった。

 セブ兄さんの気持ちを痛い程に痛感する今、私の毒で死なせてしまいそうで怖いし、相手と距離を取るのは辛い、私が距離を取った事で不安気な相手の反応を目にすると胸が痛いし、これで関係が崩れてしまったらって思ったら如何して良いか分からなくなってしまう。

 今まで毒を保有したまま普通に慣れ合う事が平気だったのに、今は自分の保有する毒が相手を殺してしまう可能性が存在するだけで怖い。
これが、恋の成せる業とか言うヤツなのかもしれない。

 だから、自分から逃げておいて、私の目からは次々と涙が零れ落ちるのだろう。なのに、それすら毒物だから触れないで欲しくて「近付かないで」と言う事しかできなかった。
私の体液凡てが有毒物質である事をユーゴが知らなければ、直ぐに関係は壊れてしまっていた事だろう。ユーゴは理解して毛布で私を包み「こうすれば大丈夫」と言って抱き締めてくれた。

 ユーゴの御蔭で、理解し無条件で受け入れて貰える。と言う事がどれだけ幸せな事なのか?を私は知る事が出来た。私に言い聞かせるように繰り返されるユーゴからの「大丈夫」と言う言葉が私の心を救ってくれた。この頃には悪夢を見て汗だくで飛び起きる事も無く成り、心穏やかに過ごす事が出来るように成っていた。

 この後に残されていた私の時間は少なかったけど、ユーゴに申し訳ないくらい、私だけが幸せだったのではなかろうか?暗殺用に育てられた筈の毒花である私は、畑違いな花を栽培する場所で最後の眠りにつけて本当に幸せだったと思う。自分の死後の…ユーゴの事がとても気掛かりだったけれど…、私の最後の最期まで、ユーゴは優しく微笑んで私に付き添い私を看取ってくれた……。

・・・end・・・

 ユーゴは死んだ私を花畑を綺麗に見渡せる場所で土に返してくれた。のだけど「さてと、滅ぼすか……」って?んん?気の所為かな?本当の最後の最後に不穏な台詞が聞こえて来た様な気がしなくもなくもない?

 この後消えてしまう私には知る事が出来ない範囲の御話である。
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