ある暗殺用に育てられた筈の花が畑違いな場所で…

mitokami

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 とあるその日、外見が子供の私に優しく接してくれた人が存在した。今回の仕事での同僚で、暗殺者と言う職業の人だ。
私はその人に施設で作られらた暗殺道具としての境遇を同情され、菓子をいっぱい買って貰って何も考えず素直に喜び、この先に待ち構える事柄も知らないで浮かれていた。私は買って貰った施設の皆に配れる程の御菓子を御土産として抱き締め、この先見る事の叶わない皆の喜ぶ顔を思い浮かべ、馬鹿みたいに喜び勇んで施設へと戻るのだ。

 これもまた、私が繰り返し夢で見る悪夢の一つである。

 険しい山道の移動中にだけ特別に支給して貰える澱粉質が白く粉吹く干し芋は、仕事をする場所へ向かう移動中の移動食だけど、施設の皆も好きだから食べるのを必要最低限で我慢して持ち帰るのが何時ものパターン。
とあるその日も行きの移動中、歩き乍ら周囲を警戒し周囲に気付かれない様に気を付け、貰った干し芋を全部食べてしまわずに空腹を我慢して残し、帰りの分も必要最低限しか食べずに残して持ち帰る心積もりにしていたのだけど、とあるその日は、早々に気付かれ注意を受けた。まぁ、若しかしたら、今までも気付かれてはいても、見逃されて来ただけの可能性が無きにしも非ず。
最初で最後のとあるその日は「何が故に移動食を支給されているのか?を考えろ」と注意され「食べ残すのならば、これからは食べきる分しか支給しないぞ」と言われてしまったのだ。

 正直、夢乍らに、私は体を大きく震わす程にビビッた。毎回、ホント夢乍らにも、今持っている分も取り上げられてしまうのではなかろうか?と不安に成ってしまうのは、何故なのだろうか?涙目に成ってプルプル震え、現実に存在した過去も夢でも、必死に取られまいと干し芋を握り締める私。
夢で再生される過去は相変わらず「取り上げねぇから、貰った分は全部食っちまえ」と言われて終わるだけなのに、夢でも過去でも、施設に残して来た子等に申し訳ない気持ちに成り乍ら、モッタイナイと思い乍らも、正直、前世で食べた干し芋より不味い、美味しいとは到底言えない筈の味も風味も薄い粘土みたいな触感の干し芋を鼻を啜り上げ泣き乍ら齧り、今世の食べ物の中では甘くて美味しいと認識して夢でも過去でも食べるのだ。

 過去でも夢でも子供である私のペースに合わせて貰える山間部の移動。昔の出来事の夢の中でも無駄に辛い山道を歩く夢。だけど、嬉しかった事、幸せに感じた事も一緒に夢へ出て来る夢。

 目的地近くでの御飯や任務中の食事には毒が入っていないし、怪しまれない為に毒を持ち歩かず、摂取もしなくて良い時期の夢。
然も過去の現実でも夢でも、私には現金は勿論、金目の物は持たせて貰えない代わりに、その時期は普通に普通の食事が提供される契約。時々、意地の悪いヤツも存在して嫌がらせをしてくる事もあるけど「仕返しされる覚悟はある?」と言って強気でいたら、何時の間にか居なく成ってた。

 そして、この夢では、現実で最初で最後の出来事。御土産用に御菓子を買って貰える夢なのだ。私は夢の中で、コレが夢である事を忘れて何時も、自分で買う物を選べる訳でも買って貰える物が御高い物でもないのに本気で喜んでしまうのだ。

 買って貰えたのは確か、店舗では無く、屋台で売られているB級品の中でも質の悪い物を寄せ集めた在庫処分品。
籠売りのカットして干した果物の端の方や変色してしまっているドライフルーツ。ドライフルーツと同じ条件の砂糖漬け。クッキーとビスケット、クラッカー等の割れた焼き菓子やその屑を纏めて入れた破材で作られた組木の木箱。作るのに失敗した薬用の小瓶の中にキラキラ光を反射させる飴の小さな欠片を詰めた物。
当事の私は逃亡防止の為に御金を持たせては貰えなかったから、そんな物でも十分に嬉しくて、御土産を買ってくれた人へ、重めに恩義を感じていた。それにその人は、私の事をしっかり考え、子供だった当時の私が自分用の旅の荷物と一緒に持って帰れるだけの御土産を買い与えてくれていた。当時の私も夢の中での私も買って貰えるだけで凄く驚き、配慮に泣いてしまう程に喜ぶ。
その時、御礼を言ったらニヤリと笑い「良い子だ」と言って貰えた事、頭を撫でて貰えた事を今でも鮮明に覚えている。

 その後の未来で…、私を殺す為の追手と成ったその人を…私が私の手で殺す事に成るのだけど…、それはまた別の…現実と繰り返す悪夢の御話……。

 私は初めて御土産を買って貰った夢を見る度にそれを思い出しては、2段階で何とも言えない気持ちに成る。一番見たくない悪夢であり、数少ない子供の頃の幸せの思い出だ。
何時も見る度に、幸せの思い出とセットに成った悪夢が付いて来なければ良いのにって思うが、幸せな場面だけを夢で見て終わったためしは一度も無く、存在しない。悪夢は悪夢でしかない。夢の始まりが幸せであれば幸せである程に、落差が悪夢に感じる悪夢感を増量し、私の心に重く圧し掛かり、夢から覚めても悪夢を引き摺ってしまう事と成る。

 作業としてサラッと終わる仕事の夢。密かに帰りの方が幾分、足取りが少し重めかも?な夢。その理由は、帰ったら美味しいとは言えない毒の摂取が再開される為。私は幾度と無く、茸類の美味しいアミノ酸系の毒へと変更してくれないかなぁ~って思ってた気がする。悪夢を見ながらそう思う。

 想像しなくても分かる御土産を渡した時の施設の皆の喜ぶ顔と、所属する施設から与えられるホントは嫌な義務。この2つを天秤に掛け、逃げ出したくなる気持ちを押さえて進む何時もの帰路の終板。
とあるその日は何故か、施設に戻る為に絶対に通らなければならない2つで1セット跳ね橋が2つとも降りっぱなしに成っていた。過去に見たあの頃までは、今までに無かった事だった。過去の現実では嫌な予感、夢では見たくないを思い鼓動が速く成る。

 立ち枯れた木々から舞い落ちるカッサカサの木の葉。枯れ萎びた草木。白い粉を吹き、突然に風化が始まった建物。拒否権の無い夢。
夢を見ている私が拒絶しても、夢の中の私が荷物をその場に残し、呼び止められても無視して問答無用で走り出す。行かなきゃ見なくて済むのに走って行ってしまう。
そして、息を切らせ辿り着いた施設の主要な場所には誰も居なかった。過去の現実では不安を募らせ、夢では恐怖し夢から覚める事を願う。

 無駄に広い玄関ホールは勿論、皆で御飯を食べる食堂や調理室、図書室や雨の日に皆で集まって遊ぶ多目的ホールにも誰もおらず、2階に与えられたそれぞれの私室にも誰も居なかった。多目的ホールから裏庭に出ても、皆が集まる事の多い動物小屋に行っても、誰も居ない。何時もより静かで動物達は眠っていた。
私の足は開け放たれた地下への入口へと向かってしまう。そう、嫌でも向かってしまうのだ。

 夢乍らに、不安感から足取りが遅くなる。過去の現実でもそうだった気がする。何時も置いてある筈の場所にランタンが無いので、ゆっくりゆっくり、一歩づつ一歩づつ慎重に地下へと降りて行く、途中から皆の愛称を呼び乍ら、居るか?居ないか?の返答を求め呼び掛け乍ら階段を下りて行くが、勿論返答は無い。過去の現実での事を知っている筈なのに、夢でも返事を待っていた。期待してしまっていた。

 気付けば暗闇の中、壁伝いで最下層に辿り着き、独房から漏れる灯火を見付け、真直ぐ一直線にスピードを上げ走り出す。もう既に結果を知っているのに、夢の中の私を私は止める事が出来ない。思い通りに成らない悪夢。

 そして、そうして、私は後悔する。過去の現実でも…、夢でも…、あの時の事を後悔し続ける……。

 あの時「毒を消して、呪いも解呪してやろうか?」と申し出があった。あの時、それを断って、その理由を質問された。あの時に、一般論で適当に誤魔化さなければ良かった。と思う。
面倒臭がらず。残酷で悪趣味で親切な暗殺者が教えてくれた【呪いが消えれば、呪いの対価が支払われた状態に戻る】と言う【呪いの力で、見目が綺麗に育つ呪い】の特徴をちゃんと話して説明しておけば良かった。と強く凄く後悔する。

 私は、ランプの灯りがまだ残っている事を頼みの綱に、解呪されてからそれ程長時間経過していないと思い。一人一人の愛称を呼び、誰か一人でも残っていないか?と泣き乍ら…、歎き乍ら呼吸をしている者を求め…、冷たくなった亡骸に絶望し乍ら…諦め悪く震える手で脈を確かめ…、頭や肩、腕、背中を撫で…謝罪して回り…、干乾びた亡骸に囲まれている絶望に打ち拉がれた元勇者の胸倉を掴んで「何で」「如何して」と泣き崩れ…た時点で叩き起こされた……。
そう、その元勇者、前世ではと言う名前だった。現在【ユーゴ】と名乗っている同居人に起こされ、夢から覚めたのである。

 彼は言う…「ずっと魘されていたから」と……。って「おい!ずっと私が魘されてたのを見てたのかよ」と私が言うと、ユーゴは悪びれる様子も無く「睡眠の妨害は良くないかと思って様子を見てた」と言いやがった。私は彼に幾度と無く、魘されてたら直ぐに遠慮無く起こしてくれと頼んでいた筈だ。早い段階で起こしてくれていたら、悪夢を見なくて済むってのに腹立たしい。もう、ホント如何してくれようか?

 取り敢えず、今から彼に八つ当たりする事は確定事項と成っている。
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