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 ぶっちゃけ、喉元過ぎれば熱さ忘れる。
夏です。暑いです。学校指定で着なきゃ駄目な制服が着心地もデザイン的にも無駄に暑苦しいです。真っ赤な髪のヴォルカン王子は、見た目も性格も暑苦しいく、魔法属性も無駄に熱いです。
そんな暑苦しいヴォルカン王子に近づきたくなさ過ぎて、索敵スキルをフル活用。近付いて来たら退避するのを通常運転にしていたら、色々とすっかり、ド忘れてしまいました。

 夏休みも終盤に差し掛かったある日の事です。
道端に落ちている生きてるか死んでいるか分からない蝉に怯え、心をすり減らし[死に掛けの蝉怖い病][蝉のセミファイナル恐怖症]で心を病み、夏特有の気温の高さで言動が「×ねば良いのに」「×んだら良いのに」と、ついつい破滅的な感じに成ってしまう季節。

 夏休みが終わる前に話を付けておこうとしたらしく、ヴォルカン王子とグラースが、とっても遠いのに東の辺境伯騎士団の療養地の方までやって来ました。
そして「ガルディア譲!アンジュがファレーズ先輩と話しているのを見て嫉妬し、意地悪をしたそうだな?」と、ヴォルカンが森へ踏み入り湖畔で叫びます。

 そんな中、私は興味の赴く儘に集めた研究者仲間達と手に手を取り作り上げた作品[大きく柔らかい素材の浮き輪]に身を任せ水の上にプカプカ浮いて、数年前に思い出して、これまた研究者仲間達と試作を繰り返し完成させたセパレートタイプのフィットネス水着の出来栄えと着心地を確かめながら大木の陰でゆったりのんびり水泳を楽しんでおりました。
一人では無く3人で!勿論、私と同様に彼等も水着着用。ファレーズが「コリーヌ(ファレーズの従妹)用にも作ってやってくれ」と言ったり、チュテレールの方が「デザイン的にハシタナイとか言って、コリーヌ(チュテレールにとっての婚約者)は着ないんじゃないか?」とか話しながら、大きな浮き輪に乗ってゆったりのぉ~んびり水の上に浮いていたのです。

「ん~?誰か来たっぽ?」
「そうだな…、誰か来ているな……」
「オマエ等…、気たっぽ、でも…、来てるな、でもねぇ~だろ…、名指しされてんぞ……」
「えぇ~…、気の所為って事で、酒飲んでバーベキューしてる(休暇中の同じ騎士団員)メンバーに任せる事にする」
「そうだな…、今、休暇で忙しいし…、彼等に任せよう……」
「おいおい(休暇で忙しいって忙しいって言えるのか?これ?)、on・offの切り替えがはっきりしているのは良いが、無責任が過ぎるだろ」
「んじゃ、チュ~さんに任せる!」
「任せんなって、ほら、また同じ事を叫んでるぞ」
確かにヴォルカンは、全く同じ事を叫んでいるみたいだった。

 ここで残念な御話。
「…所で…、ファ~さん、チュ~さん……、あん人等、誰やっけ?」
この時の私、王子の事を存在からして、ホントすっかり完全に忘れていました。
「ディア~…、忘れたら駄目じゃないか!自国の王子だぞ…、所で、俺と会話してたらしいアンジュって誰だ?俺の記憶に、そんな名前の人物はいないのだが……」
って、ファレーズ、オマエも同じ穴の狢じゃねぇ~ですかw
「ファーさん…自分の話なのに覚えてないのかよ…、俺の記憶にも薄いが…、アンジュって言えば…確か…、多分、もしかしたら王子の浮気相手じゃなかったか?それに対して何でディアが嫉妬するのか意味が分からないが…誤解だろ?ディア、さっさと誤解を解いて来いよ……」とチュテレールは言います。が、あんなイキモノの誤解を解くのは簡単な事ではないでしょう。
「え?無駄くね?思い込みの激しいヤツの誤解を解くんって無理じゃね?」
「「で、その心は?」」
「普通に面倒臭い」
私の言葉に2人は笑ってくれました。

 でも、それとこれとは別の御話だった御様子で「……、今回は名指しされた訳だし、2人は湖に浮いてないで陸に戻って話を聞いてやったらどうだ?」とチュテレール。
そんでもって、ファレーズが「え?俺も?行きたくないな…」と言うので、私も「あぁ~、ファ~さん行かないなら、私も行きたくないよ」と言っておきます。

「んな事言ってないでを行ってあげろよ…、可哀想後々面倒じゃないか?ま、俺は行かないけどねw」
「って、いやいや、そこの3人!湖水浴をそろそろ終了して下さい!!」
あ、あっちから突っ込みが入っちゃった。どうやら、こちらの会話はあちらに聞こえていたらしいです。
ヴォルカンが嬉しそうに「グラース、よく言ってくれた!そこの3人!陸へ戻れ!」と言って来ました。拒否権は無いらしいっぽい。
え?やだなぁ~…暑いしぃ~…、まだ、水から出たくねぇ~ですしぃ~…、あそこには確か、蝉が落ちてる…、蝉がセミファイナルしてるかもしれない……。って理由で私は、再び浮き輪に身を任せて目を閉じます。勿論、現実逃避です。「「寝るなよぉ~」」と、ファレーズとチュテレールが声を掛けて来ますが、暫く無視していたら、本気で寝てしまいました。ホント…、スヤスヤァ~ッとね、寝ちまったよ…、泳ぐと意外と疲れるんよね…素潜りして銛で魚突いて焼いて食べたりして、御腹もいっぱいだったしね……。で、気付けば自分のテイムモンスターのスライム、極レア個体のペリステライトやブルームーンストーンみたくな色合いの、何かと便利で寝心地の良い[シング]に包まれ朝を迎えていました。

 そんな翌日に聞いた御話。私を媒体に異空間から出現し眠った私を何時も通り包み込んだ巨大なスライムのシングに驚き腰を抜かしたヴォルカンと、普段の冷静さを欠き本気で慌てふためいたグラースの姿が見物だったてチュテレールが言ってたんが気に成ります。特にクラスメイトの真面目眼鏡グラースの動揺した表情とか、うろたえた姿とかが普段からツボで、今回も通常運転で弱い癖にヴォルカンを護ろうとしてたらしいし、それを見れんかったんは、ホンマに残念やったわぁ~。ちょっとアイツ等…、CPとして推しやのよね…、最近、彼等はCPとして見られ、無意識腐女子予備軍なファンの娘等も多いし…、見たかったな…、参考資料にしたかったな…半泣きのヴォルカンと、へっぴり腰でもヴォルカンを護ろうと頑張ってたらしいグラース……。と、私の心理的な余談は置いておいて、今日の本題。

 今回、多分だけど、グラースの仕業だと思われる事案発生。今まで会った事無かった気がする御嬢さんが取り巻きを引き連れて襲来。ファレーズの元婚約者で従妹、チュテレールの今の婚約者である[コリーヌ]が子分を引き連れて、東の辺境伯騎士団の療養地へ来ちゃっていました。

 ファレーズ談やけれども、コリーヌは妹的な存在で、内気で気弱で大人しいて聞いてたんやけどなぁ~、ほんもん見たら、ちゃう感じのイキモノやん。キラッキラの茶色の瞳に怒りの炎を灯らせ、深緑色の髪を若干振り乱しぎみに私の前で仁王立ち、水着姿を見て「不埒です!何てハシタナイ格好を…、恥を知りなさい!」とか「ヴォルカン王子とグラース様だけでなく、ファレーズ御兄様や、私の婚約者であるチュテレール様をはべらせて、社交界にも出席しないで遊び惚けてるとか何様のおつもりですか!」とか、なんやアバズレだのなんだのとかも私が言われたなぁ~、意味分かって言ってんのか?私が阿婆擦れなら、阿婆擦れ原因に御嬢さんが特に気にしているファレーズとチュテレールも入っちゃいますが宜しくて?って感じだよ。て、よぉ~考えたら、アレやよなぁ~…、ヒロインの敵である悪役令嬢が、ファレーズ談の様な、そないかわいらしいイキモノであるわけねぇ~のよな、うん、見誤ってた……。
好きな相手に気付かれんよう行動し、陰湿な嫌がらせしつつ、嫉妬を向けた相手を一人で来させ、集団に成って嫉妬心剥き出しでキャンキャン喚き散らすのが、悪役令嬢の特徴だよな、知識的のは知ってたけど、今まで思い浮かばんかったわ。

 それより何より、コリーヌが口にした言葉に反論したい。
え?それは何か?私が乙女ゲームのヒロインの如く、王子と宰相の息子だけでなく、自分の婚約者のファレーズと、自分の従弟であるチュテレールを攻略して侍らせているとでも?冗談でも笑えないんだけど?ファレーズとチュテレールの2人とは頻繁に一緒に居るんは辺境騎士として3人組んで仕事してる事もあるしで認めるが、クラスメイトのグラースと仲良くなった積りは無いし、ヴォルカン王子に至っては押し掛けられて迷惑している。王子と宰相の息子の2人を侍らせてるて言われるんは、とっても心外だぞ…マジ気に……。冗談でも笑えへんよ?な、フラグ発動案件が少し続くみたいです。
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