上 下
16 / 29

012.5

しおりを挟む
 私、グラース・ウェストゥの知るガルディア・エストゥは、知識欲の権化。普段、学園内では図書室に寄生し、時に珍しいモノの発見情報が入ればその場に直行、子犬の様にはしゃぎ回り「脳内ライブラリーの図鑑を埋めるのは楽しい」と意味不明な事を口にする東の辺境伯領出身の御令嬢。
我が家が支持する王子[ヴォルカン・ファス・シュッドゥ]の同じ年齢で腹違いの姉(自分を崇拝する者達だけを傍に侍らせている)オーブ・ファス・シュッドゥの取り巻きの一人で、オーブの子飼いには珍しくオーブを崇拝していない風変わりな女生徒だ。(←注意・・! 崇拝する事が前提で、評価が既にオカシイのは何故だろう?)
後、オーブ王女に続いて主席卒業を目指す私の2枚の壁の一つと言う認識が、去年度の入学当初からの私のガルディアに対する印象である。

 因みにオーブ王女とは、ヴォルカン王子同様に私にとっては幼馴染の様な存在、なのでオーブ王女の生態は嫌でも認識している。あの可愛いモノ大好き、女の子は女の子ってだけで可愛い(守備範囲は全年齢、心が女性なら男でも受け入れられる)と豪語する変わり者だ。

 そのオーブ王女が、嫉妬如きで女生徒をイジメる事を容認する訳がない。(←注意・・! グラースは幼少期より、オーブ王女の指定範囲の女性を基本的に大事にするように調教されています)
但し、オーブ王女の独断と偏見で選ばれた可愛いモノに対し…イジメを行使した者は別で…、更に女装してたり見た目の可愛い男は別枠…[男の]と称され愛情をもってイジメられる謎の現実…何故そんな事をされるのか?は分からない……。(←注意・・! これは、彼自身の体験談です)と言う訳で、回復魔法が使えるとかで貴族の養女と成った男爵令嬢のアンジュが唐突に言い出した[ファレーズ先輩と話しているのを見られて嫉妬され、ファレーズ先輩の婚約者のガルディアに意地悪をされた]と言う主張が到底信じられなかったし、オーブも見た目が好みのタイプであろうアンジュに対しドライな対応を取っている事から、アンジュ譲の性別を疑ったのは言うまでもないだろう。(まさか、こんな事で、高価な魅了アイテムを装備した状態で曲がり角で遭遇するようタイミングを計り、後ろから体当たりし、落書きされ切り裂かれた教科書を落とし拾って貰うイベントを成功させた努力が水の泡の様に消え去るなんて、当事者であるアンジュは思いもしなかったと思われる)
そして「ガルディアさんにイジメられたのです」とアンジュに言われれば言われる程に不信感が募り、アンジュの言葉が胡散臭く聞こえる様に成って行く。(グラースにしても、春に見栄えたばかりの淡い恋心が夏にもならない早い段階で消え去るとか、まだ若いのに自分に女運が無い事を実感させられるって御可哀想に、幼馴染のオーブとの事もあるしで、女性不信に陥るのでは?と心配する声も周囲にあったりなかったり)

 あぁ~、どうせなら、王子の婚約者のブリュレ譲に王子自身が「嫉妬し、意地悪をしたそうだな?」と言いに行く前、せめて私の婚約者スウルス譲に王子主動で同じ事を言いに行ってしまう前に気付かせて欲しかった。(それに同行していた為、グラースも王子と同様、同罪判定です)
今はオーブが、王子と私の婚約者を囲って、婚約破棄に動かぬようにしてくれている御様子だけれども、「浮気心を持って婚約者以外と仲良くした時点で婚約破棄されても仕方が無い事ですわよね?」と言うオーブの御言葉通り、許しは簡単に貰えない状況であり、既に私や王子の婚約者達との関係は拗れ、修復が難しい段階ではないか?と思われる。(←注意・・! 多分、グラースが思っている拗れ方とは違う拗れ方をしているけど、知らぬが仏かもしれない)

 御蔭で、最初に報告したアンジュ譲への評価を破り捨てたく成る程の、真っ当な報告書を宰相である父に提出が出来ているのだが、汚名を濯ぐにはまだ、洗いが足りそうになさそうだ。
今も普通に人目をはばからず、腕を組み歩くヴォルカン王子と男爵令嬢のアンジュさんを冷静な目で観察しつつ「ヴォル…幼馴染で無きゃ見捨ててる所ですよ?」と呟きながら、ヴォルカン王子の政略結婚前提の婚約者、王家に連なる公爵に属するブリュレ・シュドゥ譲の家との契約の落とし処を模索している。それが、今の私の仕事だ。

 その宰相様父親から与えられた仕事も、最初は如何したら良いのか分からず。オーブに相談し、[壁の花の集い]と言う名の芸術的な集まりにて、デッサンモデルをする約束をさせられ、ガルディア・エストゥに行き着いた。彼女は私に対して「何でアカンのか知らんかったら、アカンのとちゃうん?」と子馬鹿にした態度は取ったが、色々と説明はしてくれた。

 図書室で図書委員として職権乱用しているガルディア譲曰く、そもそも、互いの家の血族を残す事が前提の契約で、政略結婚前から浮気相手を寵愛してしまっているのが不味いらしい。
ガルディアは、この国にもある程度は根付いている長子に後を継がせる文化には理由があり、跡目争いで内部抗争が起きぬようにする狙いがあると言う。その為、愛人や妾を持ちたいなら先に本妻との間に後継ぎを作っておく事が重要と成って来るのだそうだ。
「第一王子が王太子に成ってはらへんので分からんかな?どんな人なんかは知らんけど、医療記録から見て、王妃様の子じゃないからって理由で、色々遭ったぽいよ?」と閲覧室にて、機密文書の写しを開示してくれた。(珍しい毒物と、その解毒治療に関する医療的な資料として配布されているらしい)
その王子が継承権辞退する前と、した後の毒殺未遂の数を見て、背筋が凍る思いをしたのは言うまでも無いだろう。

 こんな結果を生まない為に、万が一でも先に浮気相手アンジュとの子ができてしまう可能性があっては駄目なのだ。結婚前に、その疑いがあるだけでも、互いの家の血族を残す契約を蔑ろにした事に寄る契約違反の疑いが掛けられるのは当然の事なのだ。(ガルディアが自らの断罪回避の為に毒殺未遂の資料を見付けて国王に報告、結婚前からの浮気も然る事乍ら、政略結婚に置いての子を産ませる順序の大切さを説き、序に他の高位貴族様方にも浮気相手との子が家督を継ぐ可能性と、互いの血族を残す契約[政略結婚]の破綻、浮気相手に家督を乗っ取られ殺される?妾や愛人に殺されるかも?と言う不安を煽って、新しい考え方を導入させてみました!)

 私自身も、短い期間ではあるがアンジュ譲へ好意を寄せていた時期に、婚約者では無くオーブに「政略結婚の仮契約の段階で、婚約者より友人とやらを優先するのは不誠実ではありませんか?」と言われたが、その時は「イジメた方が悪いのだ」「イジメられた方を護る事の何が悪い」と言う主張を通していた。今なら私の返答に、オーブが呆れた様子で溜息を吐いた訳が理解できる。

 被害者側からだけの言葉と被害者が所持する一方的な証拠だけで、勝手に善悪を判断しては駄目だったのだ。イジメを本当に受けたのか?受けていないか?受けたとするとイジメの内容は?と言うのを周囲の目や第三者の目を通して確認するのも大事だし、何故にそう言う事に成ったのか?と言うイジメに至る原因の情報(何となくで、理由すらない場合もあるけれど)を確認する事が不可欠だった。(冤罪は、絶対に駄目なのだ!)

 今回の事だとオーブ曰く「イジメられたか否かは問題ではあいません!婚約者持ちの癖に浮気した男が一番悪いのです!」との事だ。確かに、婚約者持ちと知りながら手を出したヤツだけが悪く、その婚約者持ちの浮気した方は悪く無いなんて事は無い。イジメ関係無く、浮気したら浮気したヤツ等が悪いのだ。

 あぁ~ぁ気が重い(一時だとしても、自分だってアンジュの言葉を鵜呑みにして婚約者に酷い事を言ったから)、政略結婚前提の婚約の意味を理解していないヴォルカン王子の気持ちも理解できる部分があるだけに、気が重い。今教えても、御花畑に成っている頭で理解する事なんてできない事が、自分の経験で分かっているだけに、気が重過ぎる。

 ・・・・・・こうしてグラースが思い悩んだ結果、勉強と学園の魔法祭での展示の事で多忙を極め、オーブやガルディアの悪巧みに気付かず。腐女子の腐女子の為の祭典への生贄に成っていたのが、この後の祭りな物語りである。・・・・・・
しおりを挟む

処理中です...