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 次期国王候補を辞退して、血筋の良いヴォルカン・ファス・シュッドゥを増長させて物語の基盤を作った第一王子[エリュプシオン・デルニエール・シュッドゥ]は魔法生物オタクで、人間的には悪いヤツでは無い。が、しかし、騎士として必要な騎獣に、運悪く魔法生物スライムをテイムしてしまっている私にとっては、ウザくて鬱陶しくて面倒臭い男だった。

 そう、エリュプシオン王子と魔法祭で出会って(?)と言うか、シングがオーブに警備用として貸し出した黒いスライムの触手攻撃からエリュプシオン王子を救出(?)してからずっと、ホント、ずっと私はエリュプシオン王子に付き纏われているのだ。ホンマ、辛い。気付けば背後にエリュプシオン王子が居て怖いし、逃げても先回りされているみたいでキモイ。シングとオーブ達に無理やりドレスアップさせられて参加した魔法祭の打ち上げと言う名の夜会でも、褒めちぎってきやるし(←注意・・! 貴族女性を無駄に褒めるのは、貴族男性の暗黙的な礼儀作法)だけでなく、断っても何度もダンスに誘ってきよるし!(←注意・・! これも貴族男性の暗黙的な礼儀作法、更にガルディアは社交ダンスが嫌いな上、ガルディアは低身長、この世界のイケメン男共は無駄に高身長で、身長差があり過ぎてダンスが難しいから、ガルディアはダンスを前よりも、もっと嫌いに成った)
翌朝からは教室や図書室にも出没するし、寮の部屋に帰ったら第一王子だしオーブの兄だしで、エリュプシオン王子が部屋まで押し掛けて来てて、私を見ると申し訳なさそうにするオーブと御茶してて逃げ場がない。部屋のあちこちに覗き窓が増築されてるし!ホンマ嫌や!アカン、耐えられへん。

 まず、何が堪えきれへんて、エリュプシオン王子からの会話がくどい。
「ガルディア譲!ジェリービーンズみたいで愛らしいですね」(←スライムシングに対しての御話です)
「・・・(それ、満面の笑みで言う事か?つか、この世界にもゼリービーンズってあるんやね)・・・」(←注意・・! ガルディアは外面モードにて笑顔で対応中)
「知っていましたか?ガルディア譲!触手を器用に手の様にして使っていますよ!」
「・・・(知ってるし、それにしても何故に、こんな報告受けなアカンねやろな?)・・・」(←注意・・! 外面モード発動中)
「素晴らしい!何も誰にも命令されずに掃除婦の仕事を熟していますよ!誰に御教授されたのでしょうか?聞いていますか?ガルディア譲!」
「・・・(知らんがな)・・・」(←注意・・! 笑顔で対応中)←以下略
「パーラーメイドとしてのスキルも取得済みとは…」(←机を拭いて御茶を出しただけですよ?)
「・・・(パーラーメイドって何や?)・・・」(←客間女中、給仕・来客取次等を担当する接客担当のメイドの事です)
「もしや、メイド・オブ・オール・ワーク?トゥイーニーなのですか?」
「・・・(で、トゥイーニーって何?)・・・」(←ハウスメイドとキッチンメイドを兼任するメイドですよ)
「大変です!絵です!!絵画レベルの絵ですよ!ガルディア譲!!芸術の域に達した絵を描いていますよ!」
「・・・(薄い透ける和紙に背景?あぁ~、手書きメンドイしスクリーントーン欲しいって言ったから、今回も色々と作ってくれてんやろな、遣り過ぎやけどwまぁえっかwww)・・・」(←普通のスクリーントーンやグラデーション、デザイン系のも色々と普段からシングが作ってくれています)
「何と言う事でしょう!文字です!!文字を書いていますよ!ガルディア譲は御存じでしたか?」
「・・・(シング?エリュプシオンに大袈裟に驚かれんの楽しんでたりせぇ~へんか?)・・・」
「他にどんな事が出来るのでしょうか?」
「・・・(もう、えぇ~って)・・・」
「それにしても、ガルディア譲!ジェリービーンズみたいで愛らしいですね」(←先程と同じスライムシングに対しての御話です)
・・・以下、ほぼほぼほぼほぼ同じ様な似た様な御話の繰り返し略・・・

 ホント、正確には、私自身にではなくスライムシングに付き纏ってんやけども、シングは常に私と一緒に居るし、エリュプシオンは事ある毎に私に話掛けて来るしで鬱陶しい。
それに流石に、王子の前でB達どうしのLの鑑賞を嗜めへんし…、発散供給不足(少し悩んだけど、ヴォルカン×グラース、グラース×ヴォルカンネタをヴォルカンの兄の目の前で描いたり読んだり書いたりできなかった)で…耐えきれんくて…、オーブも「ごめんなさいね、シオン御兄様って、私の力ではどうする事も出来ないのです」って言うし…、エリュプシオン王子が壁に小窓を勝手に増築、無遠慮に寝てる所まで見て来る所為で寝れなくて…、私、ストーカーされて3日目の朝にスライムシングを自分でも良く解らない空間に収納、エリュプシオン王子がスライムシングの気配を追ってやってくるのを恐れて、そこから出て来るのを禁止して、脱兎の如く逃げ出しました……。

 そうです。「何処へ行かれるんですか?」と言いながら付いて来るエリュプシオン王子の追尾(エリュプシオン王子の研究者としての粘り強さと、冒険者としての機動力は強敵でした)から全力出して逃げ切り、必要最低限の着替えと趣味の備品を持って大回りしてやって来たは男子寮!同い年の従弟チュテレールと、一学年上の婚約者のファレーズが住んでる学園内の男子寮の裏庭に早朝から御邪魔しました。
理由は単純明快、夜遅くまでスライムシングの観察をしているエリュプシオン王子は朝に弱く、午後より動きが鈍いからです。(←前日に発覚した事項)更に逃げる先、私が助けを求める相手の従弟も婚約者も辺境伯領の騎士団員、確実に騎士団の先輩等と早朝訓練で庭に居るんよな。と、言う事で「チューさん、ファーさん!助けたって」と二人に泣き付きました。
目尻の涙は欠伸が出て滲んだだけですけども、二人は勿論、騎士団の先輩等も凄く驚いた様子で受け入れてくれましたよ。普段、泣かないキャラでも涙滲ませてたら過保護に匿って貰えるんやね、涙は女の武器や言うけど私にも使えるとは思わんかったよ、小さい子供みたくに抱き上げられるんはおもんないけども、今度また、何かの時にでもつこ~たろ。

 で、ファレーズに子供見たく抱っこされて辿り着いたのは、男子寮にあるファレーズの寮室の個室です。
最初はチュテレールが一緒に育ったよしみで部屋を貸してくれようとしたのですが、ファレーズが対外的に婚約者以外の男の部屋に出入りするのは宜しくないと主張して、ファレーズが自分のベットを貸してくれるとの事です。その上、おっきな盥に湯を張ってくれ、湯浴みの準備もしてくれました。ファレーズの半分しかない身長の私なら湯舟として浸かれるサイズの盥です。有難い。これで他家から借りたとか言う介添えの女性の使用人の手配が無ければもっと良かったんに…、脱がされるんも洗われるんも着せられるんも…苦手や…、全部自分でさせて欲しかった……。
そして何故に、オマエまで私の世話を焼きたがるし!何処かで風呂(?)に入って来たっぽいファレーズが私と同じ石鹸の香りさせて「後は俺がやるから…」と借りた使用人達を帰らせ「剥製の毛と違って触り心地が良いな」と言いながら嬉しそうに私の髪を梳かしてやがります。私の事、多分きっと小動物の代わりにしているのでしょう。

 何せファレーズの寮室って始めて来て入ったけど、見た目が可愛い小動物の剥製・・だらけでちょっと怖い事に成っとりますもん。「剥製の毛をブラッシングしていると同室のクラスメイトが嫌な顔する」と前々からファレーズは言っていたけど、それってさ、ブラッシングの所為じゃ無くね?絶対に配置しとう剥製が大量な所為やと思うで!と言うのが今の心境です。
何せ、個室は勿論、寮室の共用部分にも所狭しと剥製が配置され…仄かに獣臭と死臭がする気ぃする…、(←気の所為です、室内は剥製に詰められた大鋸屑おがくずの御蔭で、檜の芳香剤ぽい良い匂いがしています)気の所為かもしれんけど、何処向いても剥製…(←これは気の所為ではありません)何処見ても剥製と目が合う気ぃするし…殺された小動物の怨念を仄かに感じるような?ってこれは、気の所為であって欲しい…、でも、剥製の出来が良過ぎるのと手入れが行き届き過ぎてて、何だか色々な意味で狂気を感じるよ……。北の辺境伯邸のファレーズの自室でさえ、こんなに無かった気いするんやけど気の所為かな?って、コレ、ちゃうな!気の所為とちゃう!絶対!!
伯邸のファレーズの自室には手触りの良い縫い包みやクッションもあって居心地よかったし!って、あれ?若しかして、若しかすると今迄、家族が制止してはった?で、寮には制止するもんおれへんから寮生活で暴走しはったん?まぁ、知らんけど!いや、知らんけどで放置したら不味い?もし万が一、自分がファレーズと普通に結婚しぃて、そのままファレーズが北の辺境伯を就任しぃたら、北の辺境伯邸や北の砦が見た目が可愛い小動物の剥製だらけん成りはる?え゙?それ、ヤバない?ちょっとアカンでコレ!この数は正直、怖いんやけど!

 …と、思とったら…心強い見方が隣に居てはりました……。
未婚の貴族子女が婚約者と言えど二人きりで個室に入るのは外聞が悪いと、私達と一緒に行動してたチュテレールも確実に私と同意見ぽく、ファレーズの寮室の共用部分に足を踏み入れた時点で「コレは駄目だろ!」続いてファレーズの個室部分を目にし「片付けろ!!いや、処分しろ!この数は不味い!!こんな場所で生活してたら体に悪いに決まってる!」と言ってくれてた。正直、私も思った。(精神衛生的にも)これは、ヤバイ。剥製にする時に使う防腐剤的なアレが体に有害なら、肉体的にもアカンかもしれん。と、心情的に危機感を覚えた。ファレーズの寝室のベットの上にての御話w
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