機械仕掛けのヴィーゲンリート

mitokami

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 ――これは、とあるとても遠いであろう未来での事です。――

 人間の生活を守護しゅごし、支援しえんする事を前提ぜんていに生み出された機械人形きかいにんぎょうが存在していました。

 機械人形達は人手が必要な現場で、人間の真似まね上手じょうずえんじ、膨大ぼうだいな過去の情報を厳選げんせんして、最善策さいぜんさくえらび実行するのが仕事です。
そして人形達は、本物の人間以上に優秀ゆうしゅうで、さだめられたことわりに逆らう事無く、危険な仕事を強要きょうようされても拒絶きょぜつせず。どんなにひどい事でも、「おろかしい」と人間に嘲笑あざわらわれののしられようとも、相変あいかわらずの優しい笑顔で、すべての人間を受け入れてくれるのです。

 時に…、劣等感れっとうかんつのらせ…ストレスを爆発ばくはつさせた人間から、他の人間を守るために…や、理不尽りふじんを通したがる人間の手で、何の理由も無く破壊はかいされる事に成ったとしても…、機械人形は人間をうらんだり何て事はしません……。

 そんな遠い未来で、機械仕掛きかいじかけの絡繰からくり人形達は、年老いて普通の生活が困難こんなんになった高齢者の為、生まれ持ってか、事故や病気で障害しょうがい介護かいごが必要な者の為、子育てを出来ない親の所為せい保護ほごする者が必要となった子供の為に歌います。
自分達が生み出される寄りも、もっと遠い昔に人間に寄って作られた子守歌コモリウタ何故なぜか意味あり気に歌い続けているのです。


 ある日の事です。介護に従事じゅうじしていた[シュヴェスター]と言うシリーズの機体きたいが、とある人の最期さいごに、誰かが適当てきとう和訳わやくしたであろう子守歌を歌っていました。

・・・こんばんは、良い夜を、薔薇バラを共に、クローブとけて、毛布へもぐりなさい!明日の朝に、しゅのぞめば、アナタは再び目覚めるでしょう。・・・

 人間の代わり子育てをしていた[ヴィーゲンリート]と言うシリーズの機体も、同じ和訳の歌詞で、同じ歌を歌っていました。

・・・こんばんは、良い夜を、天使に守られた、夢の中で見せる[幼子おさなごイエスの木]。今祝福しゅくふくされた、その眠りで、夢の楽園見る事でしょう。・・・

 これは、ブラームスが作曲した子守歌。各地で各地の民謡みんようかのごとくに愛され、音も曲も元々の歌詞をやくしたはずの訳された歌詞に対しても、とっても自由度が高く、原曲や作曲者を知らない者にとっては「うそでしょ?アレがコレと同じで、ソレもコレ同じ?信じられない!」と言うレベルで様変わりし浸透しんとうしている。摩訶不思議まかふしぎで一般的な子守歌です。

・・・こんばんは、良い夜を、薔薇バラを共に、クローブとけて、毛布へもぐりなさい!明日の朝に、しゅのぞめば、アナタは再び目覚めるでしょう。・・・

・・・こんばんは、良い夜を、天使に守られた、夢の中で見せる[幼子おさなごイエスの木]。今祝福しゅくふくされた、その眠りで、夢の楽園見る事でしょう。・・・


 ――他の子供の[お父さん]や[お母さん]その他の保護者と比べて、何事にも遜色そんしょく無く…、不自然なほどに自然で、作り物としての違和感いわかんを感じさせない自然過ぎる雰囲気ふんいき……。
美人過ぎて目立ってはしまいますが、一見して彼女を機械人形だと思う人、気付いてしまう人は、存在しない事でしょう。
誰もがひとみの奥深くをのぞき込まなければ、人間との違いを見付けられないほどの完成度をほこっているのが我が社の機械人形達なのです。――


 幼稚園に迎えに来てくれた機械仕掛けの絡繰り人形から差し伸べられた手と、私にだけ向けられた笑顔。私はそれを今でも鮮明せんめいに思い出す事が出来ます。
見た目は周囲に私がうらやましがられる程に、どんな人より綺麗きれい。その手が生命を持たずとも、つないだ手の感触かんしょくは、とても温かくやわらかでした。

 例え、彼女の存在が作り物だとしても、私は機械人形である彼女と一緒にならんで歩いた幼稚園から家までの道程みちのり…、私の「大好き」に対して「私はとっても幸せ者ですね」と言って泣きそうな表情をしていた彼女の微笑み…、彼女から与えられた優しい眼差まなざしを決して忘れる事は出来ません……。
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