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――当たり前過ぎて、貴方に伝えられなかった出会えた事への喜び。
最初に出会った時…、貴方は母親を知らぬ乳幼児で…、私は、貴方の母親の代用品として病院へと持ち込まれた機械仕掛けの乳母でした……。
[ヴィーゲンリート]として稼働し始めたプログラム。
貴方に安心を与える為に標準装備され、設定されていた音や振動、そしてバニラ系の匂いと人肌程度の温もり。
私の目に映る貴方のベストショットは、必ず一度、私に保存され、貴方の親や保護者に自動的に送信されています。
幾らでも取り替えの利く作り物の手で、腕で、体で、幼い貴方を抱き上げた時に撮影された最初の画像は、密かに今でも私の宝物の1ページ目を独占しています。――
一つの仕事が完全に終了すると、機体から総ての情報を抽出され、個人情報だけが消されて戻されます。
暫くは、[前の所有者のデータが保存されている][大切な思い出は残して貰えている]と機体が誤認していますが、秘密保持機能や、個人を特定しない情報化されたデータの御陰で、消されている事に気付かず。最終的に自ら予備のメモリー容量を確保する為、機械人形自らデータを確認して、残された個人情報が消された写真のデータを見ても、気付く事ができずに消してしまうのです。
そんな訳で、仕事を終えた[ヴィーゲンリート]や[シュヴェスター]のアルバムの写真は何時も、物の写真と背景しか残されていませんでした。人物は個人情報の為、消されてしまっているのです。
日付も消され、覚えているのは大まかな季節。勿論、名前や名称、住所等は消されているので、場所も曖昧です。不具合を防ぐ為に残されているのは…、個人情報と呼ぶには足りないエピソード記録と、強く残った気持ちだけでした……。
――遺族の意向で参列する事は勿論、近付く事をも許されぬ葬儀。「アナタは私に[忘れられたくない]と言っていましたね」と悲しげな表情。
「雀の寄って枝から落とされた桜の花を束ねたブーケ・貴方が河原で拾った綺麗な小石・新緑の緑に囲まれる蓮華畑で交換した花冠と四つ葉のクローバーの指輪・コバルトブルーの空の下、一緒に拾った貝殻・桜の押し花と紅葉した葉で作った栞」と綴られる思い出の品のリスト。
「貴方がくれた私にとっての宝物…貴方との思い出の品は取上げられ…、アナタの親族に提出されてしまって、もう私の手元に無いけれど…、私の記録の中…保管された画像として残っています……」
遠くの屋上から見送る機械人形は、送り出される霊柩車を見詰め、最後に子守歌を歌っていました。――
ヴィーゲンリートの場合…子供が成長し、本人が保護を必要としなくなった時…、シュヴェスターを含み、保護対象が死亡した時……。
契約終了時に機械人形に与えられた物は、総て取上げられ、財産として本人や家族の元へ、又は遺産として遺族に引き渡されるのが決まりなのだそうです。
だから、ヴィーゲンリートとシュヴェスターは必ず画像として、思い出を保存し、残そうとするのだと言います。
それなのに、手元に戻され…残されるのは…、場所や日付が分るモノ、指輪の内側に書かれた文字、大切な事が書かれていたであろう手紙も…読み取りが不可能な程に暈されてしまった残骸です……。これでは撮影の失敗と判断され、その内OSの端末メンテナンスの時にでも、不要と成った残留データとして処理され、ストレージの空き容量確保の為、切り刻まれた記録は少しづつ消されていく運命を辿る定めに逆らえない事でしょう。だから、アルバムの写真を見ても気付けないのです。
偶然とある機械人形が、その事に気付いてしまって、日記に[幾度となく、愛しいと言う感情に背を向けた事でしょうか?貴方の成長に気付く度、御別れの時が怖く、苦しく成りました。]と記載しました。
それを確認すると「初期化の時期が来た」と誰かが判断して、「不具合が出ましたので」と御客様から機械人形を預かる、若しくは返却して貰い新しい機械人形と交換します。
私は初期化前のとある機械人形に出会う事が出来ました。が、[貴方]を語るヴィーゲンリートの目は何処か虚ろで、個人情報が消される前までに出会えなかった事が酷く惜しまれます。
そんな機械人形には、強く拒絶し、必死に奪われぬよう頑張った結果なのか?個人の情報を削り取られてしまってもノイズ混じりに残された記録の残骸があり、時々、再生される事があるのだそうです。
最初に出会った時…、貴方は母親を知らぬ乳幼児で…、私は、貴方の母親の代用品として病院へと持ち込まれた機械仕掛けの乳母でした……。
[ヴィーゲンリート]として稼働し始めたプログラム。
貴方に安心を与える為に標準装備され、設定されていた音や振動、そしてバニラ系の匂いと人肌程度の温もり。
私の目に映る貴方のベストショットは、必ず一度、私に保存され、貴方の親や保護者に自動的に送信されています。
幾らでも取り替えの利く作り物の手で、腕で、体で、幼い貴方を抱き上げた時に撮影された最初の画像は、密かに今でも私の宝物の1ページ目を独占しています。――
一つの仕事が完全に終了すると、機体から総ての情報を抽出され、個人情報だけが消されて戻されます。
暫くは、[前の所有者のデータが保存されている][大切な思い出は残して貰えている]と機体が誤認していますが、秘密保持機能や、個人を特定しない情報化されたデータの御陰で、消されている事に気付かず。最終的に自ら予備のメモリー容量を確保する為、機械人形自らデータを確認して、残された個人情報が消された写真のデータを見ても、気付く事ができずに消してしまうのです。
そんな訳で、仕事を終えた[ヴィーゲンリート]や[シュヴェスター]のアルバムの写真は何時も、物の写真と背景しか残されていませんでした。人物は個人情報の為、消されてしまっているのです。
日付も消され、覚えているのは大まかな季節。勿論、名前や名称、住所等は消されているので、場所も曖昧です。不具合を防ぐ為に残されているのは…、個人情報と呼ぶには足りないエピソード記録と、強く残った気持ちだけでした……。
――遺族の意向で参列する事は勿論、近付く事をも許されぬ葬儀。「アナタは私に[忘れられたくない]と言っていましたね」と悲しげな表情。
「雀の寄って枝から落とされた桜の花を束ねたブーケ・貴方が河原で拾った綺麗な小石・新緑の緑に囲まれる蓮華畑で交換した花冠と四つ葉のクローバーの指輪・コバルトブルーの空の下、一緒に拾った貝殻・桜の押し花と紅葉した葉で作った栞」と綴られる思い出の品のリスト。
「貴方がくれた私にとっての宝物…貴方との思い出の品は取上げられ…、アナタの親族に提出されてしまって、もう私の手元に無いけれど…、私の記録の中…保管された画像として残っています……」
遠くの屋上から見送る機械人形は、送り出される霊柩車を見詰め、最後に子守歌を歌っていました。――
ヴィーゲンリートの場合…子供が成長し、本人が保護を必要としなくなった時…、シュヴェスターを含み、保護対象が死亡した時……。
契約終了時に機械人形に与えられた物は、総て取上げられ、財産として本人や家族の元へ、又は遺産として遺族に引き渡されるのが決まりなのだそうです。
だから、ヴィーゲンリートとシュヴェスターは必ず画像として、思い出を保存し、残そうとするのだと言います。
それなのに、手元に戻され…残されるのは…、場所や日付が分るモノ、指輪の内側に書かれた文字、大切な事が書かれていたであろう手紙も…読み取りが不可能な程に暈されてしまった残骸です……。これでは撮影の失敗と判断され、その内OSの端末メンテナンスの時にでも、不要と成った残留データとして処理され、ストレージの空き容量確保の為、切り刻まれた記録は少しづつ消されていく運命を辿る定めに逆らえない事でしょう。だから、アルバムの写真を見ても気付けないのです。
偶然とある機械人形が、その事に気付いてしまって、日記に[幾度となく、愛しいと言う感情に背を向けた事でしょうか?貴方の成長に気付く度、御別れの時が怖く、苦しく成りました。]と記載しました。
それを確認すると「初期化の時期が来た」と誰かが判断して、「不具合が出ましたので」と御客様から機械人形を預かる、若しくは返却して貰い新しい機械人形と交換します。
私は初期化前のとある機械人形に出会う事が出来ました。が、[貴方]を語るヴィーゲンリートの目は何処か虚ろで、個人情報が消される前までに出会えなかった事が酷く惜しまれます。
そんな機械人形には、強く拒絶し、必死に奪われぬよう頑張った結果なのか?個人の情報を削り取られてしまってもノイズ混じりに残された記録の残骸があり、時々、再生される事があるのだそうです。
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