アナタに取っての[幸せな最期]と成った時に、御迎えに上がります。

mitokami

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 王子様が下級兵士としての仕事に少しだけ慣れて、周囲も王族でなくなった元王子様の存在に慣れた頃の御話。

 罰として課せられた兵役で支払われる給料の少なさも考えず。私が家計を支える為に働きに出ている事も気にせずに、王子様は王族の金銭感覚で渡された平民として生きる為の準備金に手を出し、自分勝手な散財をしていた。
但し、御金の力で暫く王子様は友人を得たけれど、王子様が無駄遣いをし過ぎて金欠と成ったとたんに、金の切れ目が縁の切れ目、王子様の身の回りから殆どの人間が一斉に居なく成ってしまった。

 標準装備の高飛車の上に、挑発されたら御高いプライドの所為で直ぐに怒る性格。自分が間違っていても王族だったから、簡単には謝罪しない習性。地位が無かったら、ただの屑かもしれないのだけども、私はそんな我が儘な王子様も好きなのだ。
それに最近では、私も他の者と同じように離れていくのではないか?と不安に成る事があるらしく、私を追い掛けて来てもくれるし、時々、凄く私にだけ優しい。私は王子様がどんなにダメ男でも、手を上げられても、暴力の標的にされても、王子様と別れる事は出来なく成っていた。

 私が攻略した側近達の方は、見返りも無しに時々様子を見に来たり「王子には内緒で」と、少ない乍らも生活費の援助をしてくれている。彼等も王子様無しで攻略した時、浮気をして私を顧みなかったけど、今回は、私の事を見てくれていた。
不思議な話だ。王子様を攻略しないで攻略した時に…そうであれば…、あの時の私は幸せだっただろうに…、今、彼等が私に心を砕いてくれているのは…、今回の繰り返し・・・・・・だから、と言う事を私は知っている…、もう一度の繰り返しを促進させる為、今、これから命を絶つ気は起きない…、これからも起きないだろう……。

 次の繰り返しで彼等だけを攻略しても、今回の様に彼等は私に対して気に掛ける事が無い事を私が先に経験して知っているからだ。私は今、私だけを見てくれる事がある今の王子様以外を愛する事は出来ないと実感していた。

 そんな生活の先に、王子様との間に子供が生まれた。王子様に似た色合いを受け継いだ整った顔立ちの可愛らしい女の子だ。私が嫉妬する程に綺麗な女の子だ。
父親に成った王子様は、私の妊娠を最初は喜ばず。私が暫し働けなく成り、家計が苦しく成る事に憤り、周囲の話を耳にして意思を変え、孫を見せれば国王様が態度を変えるかもしれないと期待して態度を変えたらしい。その為、暫く王子様は優しかったけど、娘が生まれた後にも連絡し、時が経とうとも国王様に取り合って貰えなかった事で「オマエが娘を生んだ所為だ」と言い出し態度は戻ってしまった。
私が攻略した側近達の方は、王子様と打って変わり娘を溺愛し続け、娘の成長と共により一層、私が産んだ娘の為に我が家へ援助してくれる様に成った。王子様以外の他の攻略対象達はもう、私より私の娘の優先順位の方が上らしい。

 結局、どんな気持ちであったとしても、私に一番強く心を向けてくれる攻略対象者は、王子様だけだったみたいだ。当時の私はそれだけで満足だった。

 娘を育て、体裁を取り繕う日々。兵役の給料は日払い制。王子様は金が尽きるまで飲み歩き、真直ぐ家に帰っては来ない。娘がいる為に働きに出られない私が出来る仕事は少なく、糸を紡いでも売り物に刺繍を刺しても大金には成らず。周囲からの援助で何とか持ちこたえてはいたが生活は何時も困窮していた。

 そんなある日、王子様の憤りが突然、前置きも無く娘に向いた。私はとっさに庇い。何時もより・・・・・酷い怪我を負う。

 何時の間にか気付けば、王子様の気持ちを多く占めるのは、幸せに成った王子様の元婚約者の悪役令嬢への嫉妬と、息子ではなく娘として生まれて来た自分の子供への憤りだけに成っていた。今まで私へ向けてきた感情は何処へ行ってしまったのだろうか?凄く不安に陥る。
ココで王子様の気持ちに寄り添って、娘を虐げて王子様と心を通わせられたと錯覚できたのなら、そう言う道もあっただろう。だが、王子様の身近な人間、側近への態度を見続けてきた私には、錯覚する事すらできず。王子様の中での自分の存在価値、存在の意義が下げられた事だけが突き付けられた結果と成る。

 私が王子様に倣って自分の娘を虐げても、王子様は今までの様に私へ強い気持ちを向けてくれる事は無いだろう事を繰り返しの中で気付いてしまっているからだ。王子様は自己中心的な性格で、側近が自分の意見に共感しても当然だと思い、その共感に共感して喜ぶ質ではない。

 そして何時しか、王子様は自分の元側近が王子自分の娘へ貢いだ贈り物を自分が酒を飲む為、自分の気晴らしの為、自分に使う金に換える為に持ち出す様に成ってしまったのだ。
私はその時、私に対する挑戦状他所の女からのマーキングに気付き、王子様の不貞を詰り、王子様に突き放された後に、そんな光景を不要な物の様に床の上に転がらされ乍ら眺め、ある事を決意する。

 娘は私を母親として求め愛してくれるけど、私が欲しいのはそんなのではない。だから私は、娘と違える事しかできない約束・・・・・・・・・・・・を交わし、娘を王子様以外の攻略対象達に預ける・・・と言う名目で押し付ける事にする。彼等は「大切な用事があるので御願いしたい」と言ったら快く引き受けてくれた。

 私はその足で場末の訳アリ品を取り扱う道具屋へ立ち寄り、今までどんな事があろうとも手放す事の無かった王子様から貰った指輪思い入れの強い品を下取りに出し、小さな小瓶と金銭を手に入れた。
手元に残った金を全部つぎ込み、食材と蠟燭、平民に取って少し高めのワインを手に入れる。家に帰ったら、綺麗に掃除をして、料理を作り、粗末なテーブルにテーブルクロスの代わりに布を被せ、料理と高級なワインの瓶に詰め直したワインを配置し、ワイングラスは無いから木製のワイン用の杯を2つ準備して王子様の帰りを今一番キレイな服に着替え化粧をして待った。

 案の定、王子様は夕飯時、微かに花の香り他の女からのマーキング臭させ付け少し酒を飲んで帰って来た。
私が「今日は特別な日なの、二人だけで御祝いしましょ」と満面の笑みを湛えて言うと、王子様は訳も分からず小瓶の中身とワインの入った杯を受け取ってくれる。王子様はテーブルの上のワインの瓶を見て驚き、私が「開けられないから先に開けて置いて貰ったの」「今日帰って来てくれなかったら、折角の準備が台無しに成ってしまう所だったんだわ」と言うと、訳も分からずワインの出所を訊いて来て「瓶を見て分からない?王様からよ」と私が言うと何かしら誤解をして喜んでくれた。
勿論、私は噓吐いていない。そのワインの瓶は…、嘗て王子様が廃嫡された日に王様から餞別として渡されたワイン…の瓶である……。王子様が廃嫡され、平民として住む場所に連れて来られたその日の内に王子様が自棄酒の餌食にしてしまったワインの瓶でもある。

 もう、高級な酒の臭いも分からなくなってしまったのだろう。王子様はワインの香りを楽しみ、蘊蓄を語り出す。私が笑みを浮かべ見守る中、王子様は子供の様に燥いでいた。王侯貴族の作法は何処へ消えてしまったのだろうか?私は「乾杯しましょ」と言って王子様を着席させ、祝杯を挙げさせた。

 乾杯の合図で一気に飲み干すのが癖に成っている御蔭で王子様は自らの合図で残さず毒入りのワインを飲んでくれた。のだけど、続いて口元を押さえ溢れ出て滴ったのはワインだろうか?鮮血だろうか?
私は杯を片手に席を立ち、王子様に歩み寄る。息荒く苦しむ王子様は、椅子から崩れ落ち、床の上、驚き・困惑・怒りを含んだ目で、久し振りに私だけを見詰めてくれていた。そう言えば、こんなにも王子様との会話が成立したのも久し振りの事だった気がする。
それだけ私は、今まで王子様に蔑ろにされていた。と言う事だ。

 王子様の近くにしゃがみ込むと私の方に王子様が手を伸ばしてくれる。殴る・叩く・掴みかかる以外で手を伸ばされたのは何時位振りだっただろうか?私は杯を置き、王子様の手を取った。力無く握り返して来た手から力が抜けるまで私は王子様の手を握っていた。

 最初に欲しかったモノとは違うけど、最後の最期に王子様は私だけを思い、私だけモノに成ってくれた。私は最期に王子様へ御休みのキスをしてワインを飲んで眠りに付く事にした。これできっと…、終わりに出来るから……。

 それにしても私はあの時、如何言う者に異世界転生させられたのだろうか?物思いに耽りながら、私も杯の中のワインを飲み干し、迎えを待った。
最期に手を伸ばして貰った余韻を感じる為に抱き締めた王子様の手。もう、表情を変える事の無い整った王子様の顔。落ちた杯から、王子様から、私から零れ滴り床を染め行く赤。

 そして…、私が…最後の最期に目にしたのは……。
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