吉原柄の法被と銀狐

mitokami

文字の大きさ
24 / 37
03 吉原柄の法被と銀狐

023 次なる仕事

しおりを挟む
 実父[鉄男]が、吉原に帰って来られなくなったから…とかで…、揚屋町の裏長屋にある部屋生まれ故郷を失いかけたが…、有益な者を幾重にも恩で縛る茜様が「ウチの子見世の所有物になるんやったら」とハル兄に契約を持ち掛け、作業場として部屋を残して貰え…、その代わり春男ハル兄も自ら、秋之丞アキノ兄さん寄子養子に成って、一緒に見世に住む事に成った……。

 その為、見世の遊女の姿を覗き見たいハル兄の仕事上の友人等が、早朝、見世の裏の土間の方にまでハル兄を迎えにやって来る事が増えて気付いた事がある。
アキノ兄さんとか、花魁道中に参加する見目を重視して集められた若い衆の方とばかり、交流が多くて気付けなかったのだが、一般の若い衆や、その辺の男と比べたら、我が兄[春男]も捨てたモノじゃ無い。男芸者の様に顔立ちが綺麗な幼馴染みの孝造が何時もハル兄の横に居た事も見劣りの原因だろうが、地味な兄が、見目重視の若い衆の中に混ざっても、見劣りしなかったのだ。コレ、私にとって本気で衝撃の事実だった。

 その上で、初心うぶ我が兄ハル兄が、遊女に大受け…、恥ずかしそうに顔を背けたり、頬を染め無愛想に対応する姿が、彼女等的に愛おしく成るらしい……。確かに、何気ない顔で胸や尻をガン見するヤツや、こっそり視漢し、バレてないと思っている若い衆を見てると、そう言うモノかもしれないと思える。ハル兄、あなどり難し。

 そんな事を思う卯の刻。日の出の前、東の空が明るくなって行く明け六つ。
泊まり客を取った遊女は、見世の正面から客を大門まで見送る為の時間「後朝きぬぎぬの別れ」って仕事の仕込みに掛かり…、見世の女中等にも遊女に対するのと同じ反応をして人気者と成ったハル兄は、女中達から「私はコレを作った」「アレを作った」「感想を聞かせてねw」と言われ「職人の皆さんでどうぞ」と弁当を持たされ、迎えに来た仕事上の友人等と仕事に出掛けて行った……。

 私は見世で、手始めに客用の傷んだ備品の簡単な修理をする。大掛りな修理が必要な物は他の職人へ回す支度。修理不能な物は他の物へ作り直す為、材料として払い下げる用に仕分けして、備品管理の担当者に話を付け、笠を被り、塗りの道具が詰った手持ちの箱を持ち、他の見世を何時も通り巡回して、見世でやったのと同じ仕事をしながら余所の見世で話されている会話に耳を傾け、茜様に報告できる話を物色する。
気になる話があれば訊ね、そうでない何気ない話でも一応、場所と日時を書き留め置いておく。それが何も無い時の日常。場に馴染み、潜伏し、情報を集め…、それが本当の事なのか?を調べる為の情報を集め…、事と次第によって、おとりと成るのも私の仕事の内だ……。

 そして今日は、当たりを引いたらしい。気になる話を耳にし、商家の方にまで「何か塗りの直しとかの仕事ないかな?」と言いつつ聞き込みをしていたら、後を付けられていた。
私はおもむろに龍笛を箱から取り出し、客入りの少ない居酒屋の店員に声を掛け「笛で客引きに成功したら、何か食べさせてくれないか?今日、仕事少なくて困ってるんだよねw」と交渉して、龍笛を吹き鳴らし同じ見世の者が通るのを待つ。コレが私達のやり方だ。目立てば基本、相手は手を出し辛いし、助けを待つに比較的安全。
運が良ければ、何か美味しい物を食べさせて貰え、笠を反して足下に置いておけば小銭も稼げる。一石二鳥・一箭双雕…と思ったのだが…、店の人に焼き鳥を貰って一口食べ…、(おやぁ~?古くなったこうとかみたいな匂いと、それっぽい味がするぞwさて、どうしよう?)と思った所で、運良く御迎えが来てくれて助かった……。
私は来てくれた事を心の中で感謝し、その場に居た者達の視線が私を迎えに来た者に向いたチャンスを逃さず。口にしたモノを吐き出し足下に捨ててから「何故に孝造…、どうせなら、アキノ兄さんに迎えに来て欲しかったなぁ~」とか言いつつ、手荷物と食べ掛けの焼き鳥の串を持って立ち上がり「焼き鳥ありがとうw縁があったら、また小銭稼がせてねww」と、その場から離れる事に成功した。

 それから私は足早に歩く、ハル兄の親友で幼馴染みの孝造が「折角、迎えに来て遣ったのに…」とか「その焼き鳥、食わないのなら寄こせ」と言って追い掛けて来るのを面倒臭そうに「感謝はしてる。でも、コレは食べちゃ駄目なヤツだ」と苛立ちを隠せず答え、私はその食べちゃ駄目な理由を実体験していた。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

処理中です...