秋ノ音堂(トキノネドウ)

mitokami

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001 あやかしの食卓 導き

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 刺激のある樟の木の匂いが虫を追い払い、蚊の多い季節でも安心して近付ける生け垣が作る木陰。生け垣を通る風が吹くと薫る匂いと、生け垣で冷まされた心地よい清涼感のある風が、鬱積した気持ちを払拭してくれた。

 そんな某所にて…、この物語の主人公[阿部アベ泰親ヤスチカ]は、晴れ渡る青空を見上げ…大きく深呼吸をする……。
昨日、意を決し、ずっと片想いをしていた幼馴染みを呼び出し、ファストファッションブランド店の全身コーデをマネキン買いして挑んだ告白は、「良い友達でいられると思っていたのに…」と言われて呆気なく玉砕。翌日からは、その情報を携帯アプリで拡散、共有された御様子で…、楽しげにプ~、クス、クスっと陰口を聞こえるか聞こえないかの距離で叩かれ…、「キモイ」「ダサイ」クス、クス、プ~っと、今まで仲良く交流していたメンバー全員の笑いの種にされる始末……。
大学生である彼は、表情を覆い隠す眼鏡と長い前髪の下で、言い知れぬ後悔と、絶望に打ち拉がれ、授業が始まる直前、受けておかねば不味い講義を受けぬままに教室を飛び出し、今も現実を受け入れられず、告白した相手からの仕打ちを受け入れられぬまま、学校の外まで逃げ出して来てしまっていたのだ。

 まぁ~例え、告白された側にとって、告白が迷惑極まりないテロ攻撃に他ならなくても、告白への断りの返事に追加する追い打ちが[集団でのイジメ]では、告白された側の自主的な自衛の域を軽く飛び越えているであろう。
でも、この現代、それを咎と判断する者は多く存在しない。それで告白した者が友達関係や居場所の引っ越しをすれば問題無し…暫く[集団でのイジメた者達]が、そのネタで楽しい時間を過ごすだけ…、もしも、イジメをする者の手の届く範囲から逃げず、イジメをする者との関係を切れず、その場所やそれに準ずる近くに存在し続ければ、イジメを受け入れているとみなされ、イジメが酷くなるのが当たり前…、その延長線上で、告白した者が自殺でもすれば、責任は皆でそれぞれ擦り付け合い…誰かが生け贄に成るか?成らないか?ってのが、選択肢に有ったり無かったりするけど…、近年、大概の場合、虐めた獲物が死んで喜ぶ者も数多く存在するのが現実……。世知辛い世の中に成ったものだ。
流石、加害者の人権保護が過剰で、被害者の保護と支援の少ない日本。人殺しでも金とコネさえ充実していれば、裁判に勝って、[当時、心神耗弱で責任能力無し]と言う判定で[無罪]と[昔と変わらない日常]を勝ち取れてしまう世界。金とコネ、弁護士の地位が正義を左右する世の中。

 泰親は目を閉じ樟の生け垣に凭れ掛かり、更に、その香りを大きく吸い込み…、携帯アプリから送られてくる友人と思っていた者達が信じて疑わない事柄、自分の幼馴染みが大袈裟に語って拡散させたであろう嘘の様な物語を知り、自分が告白してしまった幼馴染みの女性に対する幻想を一つ一つ、幻であったと理解し実感し…、告白を実行に移してしまった行動は、後からではどうする事もできないけれど…、今更ながら己の愚かさに溜息を吐く…、「告白なんてするんじゃ無かった」口から零れた[この言葉]が正し過ぎて、切なくて、辛過ぎる……。
そこに打ち込まれる追い打ち。[謝れ][謝罪しろ]を含む、友人だと思っていた者達からの面白半分での攻撃。携帯電話スマホが…、皆を纏めて一緒に繋ぐアプリが…、追尾機能を発揮して、泰親を呵もうとしていた……。

 そんな時に突然、聞こえる耳覚えの無い女性らしき者の声。
「あらやだw一瞬、保名ヤスナが居るのかと思っちゃったww」
泰親ヤスチカが目を開けると至近距離に、目鼻立ちのハッキリした美女の顔。狼狽える泰親に対して色彩豊かなパンジャビドレスを華麗に着こなす美女は優しく微笑み「私の店に何か用?」と言う。

「店?」と不思議に思いながら呟き、泰親が周囲を見渡すと、奥に朱色に塗られた門構えが聳え立ち、門には『秋ノ音堂』と描かれた金縁の看板。現在、泰親が凭れ掛かっていた生け垣の木陰がある場所は、そんな華美で豪華な看板を掲げた門にのみ、向かって伸びる私道と成っており、明らか何処かの敷地内であった。
それに気付いて「勝手に入り込んでゴメンナサイ」と慌てふためく泰親に対し、美女は笑いながら「あははwきっと、この出会いは必然ね!店に招待してあげるww御茶でも飲んで行きなさい!御馳走してあげるわwww」と言って泰親の腕を取り、泰親を門の中へと強引に連れ込んだ。

 門から緩く蛇行しながら続く砂利道。砂利道に埋め込まれた敷石には、守護梵字が1字づつ彫り込まれている。砂利道の途中には、池を囲む各1本のイロハモミジと山桜の大木。砂利道の先には、樟が生い茂る林の中に存在する中華風(?)の大きく豪華な建造物。『秋ノ音堂』の看板を掲げた大きな店。
店の前には、長めの髪を後ろで縛り、掃除をする者の姿。近付くにつれ見えてきた特徴。眉毛や髭が外向きに力強く流れ、鋭い目付きをした20代~30歳程の男性。真っ白い手袋。ボタンを3つ程外したスタンドカラーの半袖シャツにポーラー・タイ、濃い色合いのベストを着こなす雰囲気が、明らか堅気では無い空気を醸し出している。
ガッチガチに緊張する泰親。美女は「妖士アヤシ!御茶の時間にしてちょうだい」と男に話し掛け、怖くなって涙目に成ってしまった泰親を更に店内へと引っ張り込んだ。
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