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002 あやかしの食卓 着席
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大きな硝子板を嵌め込んだ木製の引き戸を開けると、リリリリリンっと、引き戸の動きに合わせて音が鳴る。自転車のベル程に煩くは無いが、それに近いベルの音が周囲に鳴り響いた。きっと、レトロなゼンマイ式のドアベルが仕掛けられているのであろう。
引き戸を開け閉めすると音が鳴る事に驚く泰親が、美女に引っ張り込まれた店の店内は想像以上に広かった。
一つ、一つ、展示物の様に並べられた置物。仏像、銅像、鎧、大皿に大きな花瓶。若しくは種類毎に分類し、硝子ケースに入れられた商品。陶器や硝子のコップ、ナイフ、フォーク、スプーン等の食器、鏡や香炉、ペンや筆等、多種多様な物が並び…備え付けの棚には古そうなハードカバーの本やドールハウスに写真立て……。壁には額縁や絵、時計が幾つも掛けられている。
無駄に広い通路。店と言うより、強い光を避けた仄明るい美術館の様な店内。店を取り囲む樟の林から微かに香る樟の香り。見上げれば、鈍色軸の紅茶色したクリスタル硝子のシャンデリア。店の奥、祭壇の様な場所に、アンティークの類いであろうか?高そうなテーブルや椅子が、カフェスペースかの如く並べられている。
泰親には嫌な予感しかしなかった。(まさか、ココで茶を飲むとか?いやいや…、そんな事は無いよな?)泰親がオドオドしていると、美女が泰親を祭壇の様な場所へと誘う。泰親が(もしかしたら、この上に通路や階段があるのかも?)と思った所で、美女が「さぁ~、座ってw」と泰親に言ったのだ。(マジでか…)
目の前には、赤く塗られ金銀の装飾が成された円卓。中央に向かって集う4色の四神と円卓の周囲を囲む二十八宿の点と線で描かれた星座。明らかに高級そうな雰囲気のテーブルと椅子に、泰親の腰が引ける。だが、美女は泰親を強引に、テーブルに合わせて作られたであろう椅子に座らせ、自分は向かいの席に座り、小さく咳払いをして泰親に名前を尋ねた。泰親が緊張しながら「阿部泰親です」と答えると…、美女は突然に大笑いをし「あははwゴメンネww私は阿部葛葉って言うのw今から君は私の事を[葛葉]って呼びなさい!私が許すわww」と言った……。
そこへ、腕に大きく真っ白な布巾を掛け、片手で器用に大きなトレーを持ち、先程、店の前で葛葉に御茶の準備を任された妖士と呼ばれる男が何所からとも無く現れる。
彼は音も無く歩き…、カバーが掛けられたポットとお湯の入ったカップ、ソーサーにスプーン、ミルクピッチャーに砂糖壺と…、もう片方の手に、下からシュリンプ系の具とサラダ菜が見て取れるサンドイッチ、甘い香りを放つ焼き立ての焼き菓子、苺や美味しそうな木の実の飾られたケーキを載せた3段のケーキスタンドを持って…、表情を変える事無く無表情で階段を上ってやって来た……。
まず、テーブルの上に音も無く置かれるケーキスタンド。スタンドの横に並べられる砂糖壺とミルクピッチャー。続いてティーセットごとトレーをテーブルに置き、流れるような動作でポケットから懐中時計を出したまでは良いのだが、この後、発生する不思議現象。
妖士がポットからカバーを外し、指を鳴らすと湯気を残し消えるカップの中の湯。(え?ココで唐突に手品?!)泰親が目を見開き、この現象の仕掛けを探す内に、2つのカップへと最後の一滴まで注がれた濃い赤褐色の液体。泰親と葛葉に配膳されるティーカップ&ソーサー&スプーン。
葛葉は、妖士に寄って配膳されたカップを見詰めて真剣にトリックを探していた泰親に対し「冷めるわよ」とクスクス笑い「アッサムはコクの有る強い味わいだからミルクティー向けなのw試してみてww」と言う。泰親は一瞬だけ照れくさそうにハニカミ、砂糖壺やミルクピッチャーに手を伸ばし、葛葉に言われた通り紅茶をミルクティーにして飲み始めた。
暫くすると、また、泰親を呵む為に携帯電話の着信音が泰親を呼び始める。
この着信の元凶である泰親の幼馴染みや、その取り巻き達が、アプリ上で既読が付かない画面表示に業を煮やしたのかも知れない。既読無視されても怒るだろうに、面倒臭い生き物達だ。
葛葉に「電話に出ても良いのよ」と促され、泰親は携帯電話の画面を見て暗い表情を浮かべる。対する葛葉は、含みのある微笑みを浮かべていた。
静かな室内に響くバイブレーション。繰り返し泰親を呼び続ける短い着信音。葛葉は放心状態となった泰親の背後に軽い足取りで移動し、移り行く画面表示に映し出されるアプリに送られたコメントを覗き見る。アプリの設定で出来る既読表示無し既読状態。
葛葉はニヤリと笑い、携帯電話画面を指し示し、泰親の耳元で「この先、私の店で働くなら、この問題を解決に導いてあげるわ」と囁いた。
泰親は不安半分で「どうにか出来るのなら、御願いしたいですけど…(でも、どうやったら、こう言うのって収まるのだろうか?)」と藁にでも縋ってみる程度の気持ちで葛葉の手を借りる事にしてしまう。
葛葉に「貸してちょうだい」と言われ、泰親から差し出される携帯電話。葛葉に勧められ促され、泰親が口にしてしまったデザートと焼き菓子付きの軽食。今日、樟の生け垣に凭れ掛かり葛葉と出会った事、『秋ノ音堂』に迎え入れられた事から総てが、この物語の始り。
簡単な口約束の後、口にした軽食に入れられた[とある食材]の所為で強固に結ばれた雇用契約。本当は既に見えていた泰親の現世から幽世を見る事が出来る目、重なる世界のブレを修正され、次第に広がる視界。
この物語の主人公[阿部泰親]は今日、この時より、秋ノ音堂の従業員と成る事を己が気付かぬまま契約し、後に人外の世界を垣間見る事と成る。
引き戸を開け閉めすると音が鳴る事に驚く泰親が、美女に引っ張り込まれた店の店内は想像以上に広かった。
一つ、一つ、展示物の様に並べられた置物。仏像、銅像、鎧、大皿に大きな花瓶。若しくは種類毎に分類し、硝子ケースに入れられた商品。陶器や硝子のコップ、ナイフ、フォーク、スプーン等の食器、鏡や香炉、ペンや筆等、多種多様な物が並び…備え付けの棚には古そうなハードカバーの本やドールハウスに写真立て……。壁には額縁や絵、時計が幾つも掛けられている。
無駄に広い通路。店と言うより、強い光を避けた仄明るい美術館の様な店内。店を取り囲む樟の林から微かに香る樟の香り。見上げれば、鈍色軸の紅茶色したクリスタル硝子のシャンデリア。店の奥、祭壇の様な場所に、アンティークの類いであろうか?高そうなテーブルや椅子が、カフェスペースかの如く並べられている。
泰親には嫌な予感しかしなかった。(まさか、ココで茶を飲むとか?いやいや…、そんな事は無いよな?)泰親がオドオドしていると、美女が泰親を祭壇の様な場所へと誘う。泰親が(もしかしたら、この上に通路や階段があるのかも?)と思った所で、美女が「さぁ~、座ってw」と泰親に言ったのだ。(マジでか…)
目の前には、赤く塗られ金銀の装飾が成された円卓。中央に向かって集う4色の四神と円卓の周囲を囲む二十八宿の点と線で描かれた星座。明らかに高級そうな雰囲気のテーブルと椅子に、泰親の腰が引ける。だが、美女は泰親を強引に、テーブルに合わせて作られたであろう椅子に座らせ、自分は向かいの席に座り、小さく咳払いをして泰親に名前を尋ねた。泰親が緊張しながら「阿部泰親です」と答えると…、美女は突然に大笑いをし「あははwゴメンネww私は阿部葛葉って言うのw今から君は私の事を[葛葉]って呼びなさい!私が許すわww」と言った……。
そこへ、腕に大きく真っ白な布巾を掛け、片手で器用に大きなトレーを持ち、先程、店の前で葛葉に御茶の準備を任された妖士と呼ばれる男が何所からとも無く現れる。
彼は音も無く歩き…、カバーが掛けられたポットとお湯の入ったカップ、ソーサーにスプーン、ミルクピッチャーに砂糖壺と…、もう片方の手に、下からシュリンプ系の具とサラダ菜が見て取れるサンドイッチ、甘い香りを放つ焼き立ての焼き菓子、苺や美味しそうな木の実の飾られたケーキを載せた3段のケーキスタンドを持って…、表情を変える事無く無表情で階段を上ってやって来た……。
まず、テーブルの上に音も無く置かれるケーキスタンド。スタンドの横に並べられる砂糖壺とミルクピッチャー。続いてティーセットごとトレーをテーブルに置き、流れるような動作でポケットから懐中時計を出したまでは良いのだが、この後、発生する不思議現象。
妖士がポットからカバーを外し、指を鳴らすと湯気を残し消えるカップの中の湯。(え?ココで唐突に手品?!)泰親が目を見開き、この現象の仕掛けを探す内に、2つのカップへと最後の一滴まで注がれた濃い赤褐色の液体。泰親と葛葉に配膳されるティーカップ&ソーサー&スプーン。
葛葉は、妖士に寄って配膳されたカップを見詰めて真剣にトリックを探していた泰親に対し「冷めるわよ」とクスクス笑い「アッサムはコクの有る強い味わいだからミルクティー向けなのw試してみてww」と言う。泰親は一瞬だけ照れくさそうにハニカミ、砂糖壺やミルクピッチャーに手を伸ばし、葛葉に言われた通り紅茶をミルクティーにして飲み始めた。
暫くすると、また、泰親を呵む為に携帯電話の着信音が泰親を呼び始める。
この着信の元凶である泰親の幼馴染みや、その取り巻き達が、アプリ上で既読が付かない画面表示に業を煮やしたのかも知れない。既読無視されても怒るだろうに、面倒臭い生き物達だ。
葛葉に「電話に出ても良いのよ」と促され、泰親は携帯電話の画面を見て暗い表情を浮かべる。対する葛葉は、含みのある微笑みを浮かべていた。
静かな室内に響くバイブレーション。繰り返し泰親を呼び続ける短い着信音。葛葉は放心状態となった泰親の背後に軽い足取りで移動し、移り行く画面表示に映し出されるアプリに送られたコメントを覗き見る。アプリの設定で出来る既読表示無し既読状態。
葛葉はニヤリと笑い、携帯電話画面を指し示し、泰親の耳元で「この先、私の店で働くなら、この問題を解決に導いてあげるわ」と囁いた。
泰親は不安半分で「どうにか出来るのなら、御願いしたいですけど…(でも、どうやったら、こう言うのって収まるのだろうか?)」と藁にでも縋ってみる程度の気持ちで葛葉の手を借りる事にしてしまう。
葛葉に「貸してちょうだい」と言われ、泰親から差し出される携帯電話。葛葉に勧められ促され、泰親が口にしてしまったデザートと焼き菓子付きの軽食。今日、樟の生け垣に凭れ掛かり葛葉と出会った事、『秋ノ音堂』に迎え入れられた事から総てが、この物語の始り。
簡単な口約束の後、口にした軽食に入れられた[とある食材]の所為で強固に結ばれた雇用契約。本当は既に見えていた泰親の現世から幽世を見る事が出来る目、重なる世界のブレを修正され、次第に広がる視界。
この物語の主人公[阿部泰親]は今日、この時より、秋ノ音堂の従業員と成る事を己が気付かぬまま契約し、後に人外の世界を垣間見る事と成る。
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