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⑮スイの要求

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 ああやはり戦闘開始の合図より前にスイが力技に出たことが気に入らなかったのだろう。それとも魔王が自分より小さな存在だったことに迷いが出たのか。ただの条件反射なのか。
 けれど、思っていたのと違ったのは、魔王が自身を抱きとめた男の顔をまじまじと見つめたことだった。

「ブルーノ……」

 ブルーノはバツが悪そうに、けれど腕の中の魔王を抱きしめたまま、魔王から顔だけを逸らした。

「ブルーノ王子は魔王退治に来たのではなく、魔王を倒す我々の邪魔をしに来たのでしょう」
「……おうじ?」
「王子が魔王に恋をしたから、まだ何もしていない魔王を殺そうと、国王が躍起になったのでしょう」
「王子が魔王に恋?」

 スイの言葉がまったく頭に入ってこない。ブルーノが王子で、王子が魔王に恋?
 たしかに国がやけに早く動いた気がしていた。それは王子のことを隠すためだったというのか。

「さて、我々は馬に蹴られて死にたくはありませんので、王子を魔王に献上しようと思います」
「どういうつもりだ」
「貴方に人間を襲う理由はないみたいですし、ここで勇者に倒されたことにして平和に暮らしませんか?」

 ユウキのことだけ置いてけぼりで話が進んでいく。たしかに、魔王が人間を襲っていないのに倒す気にはなれない。というかユウキには魔王を倒す力なんて無いので、スイに魔王を倒す気がなければ無理な話なのだ。

「俺はそんなもの望んでない」
「ラルス、私は貴方と居られれば国などどうでもいい」
「だから、俺はそんなものは――」

 ラルスと呼ばれた魔王がブルーノの腕から逃れようとするが、ぎゅうぎゅうと抱きしめられていて動けずにいる。何だか小動物を見ているようで愛らしい。

「いいじゃないですか。魔王は倒され、王子は家出したまま帰らない。国王は疑うかもしれませんが、勇者の言葉を疑うことなどできない」
「す、スイ……」
「でも俺達ももう面倒事には巻き込まれたくないので、代わりにこの城に住まわせてください」

 そうしてスイはとんでもないことを要求したのだった。
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