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第8話:真昏帯人
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翌日、蒼空は大学へ来ていた。今日は授業が無いので本来なら行く必要は無かったのだが、ある人物に会うため、わざわざ大学へ赴いたのだ。
その人物には昨夜の段階で会う約束は取り付けており、その人物も蒼空の話に興味津々のようだった。
蒼空は待ち合わせ場所のE号館に向かう。E号館の中に入ると丁度授業終わりのタイミングだったのか、廊下で会話している学生や、もう今日受講する講義が終わったらしく大学を後にしようとする学生達とすれ違う。
入学してからもう一年ほど経つが、授業のある日以外は大学に来ないので、未だに大学のキャンパス内に何があるのか全く把握していない。今いるE号館ですら、どこの学部が使っているのかも分からない。
少なくともここにいる学生に見知った顔の者はいないので、きっと自分の学部とは関係ないところが使っているのだろうと蒼空は思った。
「おーい、ソラー」
不意に後ろから蒼空を呼ぶ声が聞こえたような気がした。蒼空が後ろを振り向くと青色のシャツを着た青年がこちらに手を振りながら歩いてきた。
「あっ、オビト」
蒼空に話しかけてきたのは蒼空の数少ない高校時代からの友人で、学科は違うものの大学の同級生でもある真昏帯人だった。オビトは茶髪ベリショートの髪型をしていた。
だが彼は髪を染めているわけではなく、地毛とのことだった。なんでも母親が外国の生まれらしく、自分はそこまで遺伝しなかったが、双子の妹が日本人ばなれした外見をしていると彼は以前言っていた。
「オビトは授業終わり?」
「まぁ、そんなとこかな。それより、ソラはどうしたんだ? ソラの学科はこの棟じゃ授業ないだろ?」
「授業じゃなくて、ちょっと部長に用事があってさ」
蒼空がそう答えると、オビトは顔を青ざめた。
「また、部長は何か企んでるのか……」
「いや、今日は違うよ。ちょっと僕個人で芹沢部長に聞きたいことがあってさ。頼んで時間作ってもらったんだ」
「頼まなくても、部長はいっつも部室にいないか?」
「まぁ、それはそうだけど」
オビトと蒼空は同じサークルに入っていた。と言っても二人共自分の意志で入ったのではなく、半ば無理矢理入部させられたような形ではあるが。
「でも、ソラが部長に頼み事なんて珍しいな。俺達どちらかっていうと、いつもあの人に振り回される側だろ?」
オビトの言う通り、入部させられてから件の先輩には蒼空とオビトは散々振り回されてきた。
この前など、夜中に唐突にメッセージアプリで『山の近くにある廃墟探検しよ♡』という謎の文章が送られ、蒼空とオビトを含めた部員は深夜にも関わらず、そのまま部長により廃墟に強制的に連行された。
「この前の廃墟探検なんて正気の沙汰じゃないよほんと……」
オビトはよほど思い出したくないのか、顔を手で抑えながら大きくため息をつく。蒼空もそれを見て苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、今からソラは部室に行くのか?」
「うん、そろそろ約束の時間だしね」
「じゃあ、オレもついていっていいか? 一応オレも部員だし顔は出しとこうかなって。あっ、聞かれたくない話だったら全然断ってくれて構わないぞ」
「別に聞かれて困るような話でもないしいいよ」
蒼空から見ても、オビトは気遣いが出来るすごく良い友人だと思っている。本人曰く、自分以外に男がいない環境で育ったので、いつの間にか察する能力が鍛えられたと苦笑いしていた。
蒼空とオビトは部室のある7階を目指す。階段の近くにあるエレベーターを使おうとも考えたのだが、授業終わりのため人がエレベーター付近に学生が密集しており、とてもではないが使用できそうになかった。
「今から階段7階分登らないといけないのか……どっちが先に着くか競争でもするか?」
オビトが笑いながら冗談めかして言う。
「勘弁してよ……僕が運動苦手なのオビトも知っているでしょ?」
そんな他愛もない冗談を言い合いながらオビトと歩いていると、すれ違った女子生徒の鞄についていた兎のストラップが地面に落ちた。
蒼空はストラップをしゃがんで拾い、落とした女子生徒に声をかける。
「あの、これ落としましたよ」
蒼空に声をかけられた女子生徒が振り向く。その女子生徒は明るい髪色の髪を肩まで伸ばし、顔もそれなりに整った顔立ちをしていた。蒼空は彼女をどこかで見たような気がしたが、どこで会ったのか思い出せなかった。
「あぁ、ごめんなさ……ッ……!」
女子生徒はストラップを受け取ろうとしゃがんだが、蒼空の顔を見て、ハッと何かに気づいたような顔をしてその手を止めた。
「…………あなた小鳥遊蒼空よね」
「えっ? はい、そうですけど……あれ? もしかして御堂さん……?」
尋ねられた蒼空は、そのとき彼女の顔をまじまじと見て、ようやく彼女の名前を思い出した。彼女の名前は御堂瑠璃子。蒼空の小、中学校のときの同級生だった。
しかし、あまり喋ったこともなく顔を知っている程度で、何なら同じ大学に通っていることも今日始めて知ったくらいだった。
すると、御堂は立ち上がり、蒼空を思い切り睨みつけ、しゃがんだままストラップを持った蒼空の手の方を思い切り蹴り上げた。
その人物には昨夜の段階で会う約束は取り付けており、その人物も蒼空の話に興味津々のようだった。
蒼空は待ち合わせ場所のE号館に向かう。E号館の中に入ると丁度授業終わりのタイミングだったのか、廊下で会話している学生や、もう今日受講する講義が終わったらしく大学を後にしようとする学生達とすれ違う。
入学してからもう一年ほど経つが、授業のある日以外は大学に来ないので、未だに大学のキャンパス内に何があるのか全く把握していない。今いるE号館ですら、どこの学部が使っているのかも分からない。
少なくともここにいる学生に見知った顔の者はいないので、きっと自分の学部とは関係ないところが使っているのだろうと蒼空は思った。
「おーい、ソラー」
不意に後ろから蒼空を呼ぶ声が聞こえたような気がした。蒼空が後ろを振り向くと青色のシャツを着た青年がこちらに手を振りながら歩いてきた。
「あっ、オビト」
蒼空に話しかけてきたのは蒼空の数少ない高校時代からの友人で、学科は違うものの大学の同級生でもある真昏帯人だった。オビトは茶髪ベリショートの髪型をしていた。
だが彼は髪を染めているわけではなく、地毛とのことだった。なんでも母親が外国の生まれらしく、自分はそこまで遺伝しなかったが、双子の妹が日本人ばなれした外見をしていると彼は以前言っていた。
「オビトは授業終わり?」
「まぁ、そんなとこかな。それより、ソラはどうしたんだ? ソラの学科はこの棟じゃ授業ないだろ?」
「授業じゃなくて、ちょっと部長に用事があってさ」
蒼空がそう答えると、オビトは顔を青ざめた。
「また、部長は何か企んでるのか……」
「いや、今日は違うよ。ちょっと僕個人で芹沢部長に聞きたいことがあってさ。頼んで時間作ってもらったんだ」
「頼まなくても、部長はいっつも部室にいないか?」
「まぁ、それはそうだけど」
オビトと蒼空は同じサークルに入っていた。と言っても二人共自分の意志で入ったのではなく、半ば無理矢理入部させられたような形ではあるが。
「でも、ソラが部長に頼み事なんて珍しいな。俺達どちらかっていうと、いつもあの人に振り回される側だろ?」
オビトの言う通り、入部させられてから件の先輩には蒼空とオビトは散々振り回されてきた。
この前など、夜中に唐突にメッセージアプリで『山の近くにある廃墟探検しよ♡』という謎の文章が送られ、蒼空とオビトを含めた部員は深夜にも関わらず、そのまま部長により廃墟に強制的に連行された。
「この前の廃墟探検なんて正気の沙汰じゃないよほんと……」
オビトはよほど思い出したくないのか、顔を手で抑えながら大きくため息をつく。蒼空もそれを見て苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、今からソラは部室に行くのか?」
「うん、そろそろ約束の時間だしね」
「じゃあ、オレもついていっていいか? 一応オレも部員だし顔は出しとこうかなって。あっ、聞かれたくない話だったら全然断ってくれて構わないぞ」
「別に聞かれて困るような話でもないしいいよ」
蒼空から見ても、オビトは気遣いが出来るすごく良い友人だと思っている。本人曰く、自分以外に男がいない環境で育ったので、いつの間にか察する能力が鍛えられたと苦笑いしていた。
蒼空とオビトは部室のある7階を目指す。階段の近くにあるエレベーターを使おうとも考えたのだが、授業終わりのため人がエレベーター付近に学生が密集しており、とてもではないが使用できそうになかった。
「今から階段7階分登らないといけないのか……どっちが先に着くか競争でもするか?」
オビトが笑いながら冗談めかして言う。
「勘弁してよ……僕が運動苦手なのオビトも知っているでしょ?」
そんな他愛もない冗談を言い合いながらオビトと歩いていると、すれ違った女子生徒の鞄についていた兎のストラップが地面に落ちた。
蒼空はストラップをしゃがんで拾い、落とした女子生徒に声をかける。
「あの、これ落としましたよ」
蒼空に声をかけられた女子生徒が振り向く。その女子生徒は明るい髪色の髪を肩まで伸ばし、顔もそれなりに整った顔立ちをしていた。蒼空は彼女をどこかで見たような気がしたが、どこで会ったのか思い出せなかった。
「あぁ、ごめんなさ……ッ……!」
女子生徒はストラップを受け取ろうとしゃがんだが、蒼空の顔を見て、ハッと何かに気づいたような顔をしてその手を止めた。
「…………あなた小鳥遊蒼空よね」
「えっ? はい、そうですけど……あれ? もしかして御堂さん……?」
尋ねられた蒼空は、そのとき彼女の顔をまじまじと見て、ようやく彼女の名前を思い出した。彼女の名前は御堂瑠璃子。蒼空の小、中学校のときの同級生だった。
しかし、あまり喋ったこともなく顔を知っている程度で、何なら同じ大学に通っていることも今日始めて知ったくらいだった。
すると、御堂は立ち上がり、蒼空を思い切り睨みつけ、しゃがんだままストラップを持った蒼空の手の方を思い切り蹴り上げた。
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