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第9話:呪いの子
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「ッ……!?」
鈍い痛みが右手に広がり、蒼空は苦痛に顔を歪める。さらに追撃とでも言わんばかりに、彼女は蒼空の手を勢いよく踏みつけた。先程よりも激しい痛みが蒼空を襲い、思わずうめき声をあげてしまう。
「おいっ! 何やってんだよお前!」
オビトは御堂に対し、怒鳴りながら軽く突き飛ばす。彼女を突き飛ばしたことによって踏みつけられていた蒼空の手が開放される。
「大丈夫か、ソラ!? 」
オビトが蒼空に駆け寄ってくる。踏みつけられた蒼空の手は、何箇所も出血しており赤く腫れがあっていた。
「おい、お前なんでこんなことするんだよ!」
オビトは御堂に対し鬼のような形相で激しく怒鳴りつける。しかし、御動は我関せずといった感じで、櫛を使い髪を整えていた。
「そいつがアタシに触ろうとしたのがいけないんでしょ。正当防衛よ正当防衛」
「これのどこが正当防衛なんだ!? 蒼空はアンタの落としたストラップを拾っただけだろ! 何も悪いことはしていない!」
オビトが叫ぶと、御動はふんと鼻で笑った。
「あんた友達なのに知らないの? なら教えてあげる。そいつ小学校の頃から”呪いの子”って呼ばれてるの」
”呪いの子”という単語を聞いた途端、オビトの顔が鬼気迫るものへと変わる。大学に進学してから蒼空も久々に聞いたが、当然その言葉にいい思い出などあるはずもなかった。
「そいつのしたことは死んで当然なのよ。実際、そいつのせいで一体何人の――」
「そんなのとっくに知ってるさ! 」
オビトは御動の言葉を遮るように叫ぶ。
「お前にソラの何が分かるんだよ! ソラは呪われてなんかじゃない……すごくいいヤツなんだ! それをアンタらみたいな心無い人達のせいで……一体どれだけソラが苦しんできたか分からないのか!?」
「オビト……」
御動はオビトの勢いに気圧されたかのように苦虫を噛み潰したような表情をして後ろに下がる。
すると、そこに割って入る声がした。
「はーい、そこまでー」
声がした方を向くと、よれよれの白衣を着た小柄な体格の気だるげな雰囲気の女子生徒がいつの間にか蒼空の横にいた。
彼女のくせっ毛の長髪はボサボサで、黒縁のメガネを頭の上にかけており、白衣は袖が長すぎて袖に覆われていた。
彼女の名前は芹沢琥珀。蒼空が今日会う予定の人物で、彼女は蒼空とオビトの所属する超常現象解明研究会という長ったらしい名前のサークルの部長を務めていた。琥珀はオビトの方を見ると、はぁ……とため息を付いた。
「マグレ君ここ廊下だよ? 遠くからでも君の声が聞こえてうるさいったらありゃしない。でも、君の演説は中々に素晴らしいものだった。ぜひ、後でもう一度聞かせてもらおう」
そう言った後、琥珀はオビトに微笑んだ。周囲を見ると多くの学生が集っており、中には動画を撮っている者さえいた。蒼空達は今、この場にいる学生の注目の的になっているようだった。琥珀は御動の方に向き直って朗らかな笑みを浮かべた。
「さて、お嬢さん……曲がりなりにも、うちの可愛い可愛い部員に手を出したんだ。それ相応の覚悟はできているんだろうね?」
琥珀は笑っていたが、その笑みは相手に得体のしれない恐怖を与えるようなものだった。見ているこちらも背筋が凍るような感覚を覚えた。
「なんなのよアンタ達……」
御動は琥珀に対し恐怖に引きつったような表情を浮かべ、そのまま出口の方に勢いよく走っていった。
「おい、逃げるのか!」
オビトは御堂を追いかけようとするが、琥珀はそれを手で静止する。
「待て、マグレ君。彼女を追いかける必要はないよ。幸いにも撮影してくれてる人もいるみたいだし、これを証拠として貰っておこう。兎にも角にも、まずはタカナシ君の手当の方が先だ」
「……分かりました。ぼく、スマホで撮ってた人に動画貰ってきます」
「頼んだよ」
オビトは未だガヤガヤとしている聴衆の方に走っていった。
「さてと……にしてもタカナシ君は隨分手ひどく痛めつけられたようだねぇ。まぁ幸いにも部室には応急処置用のものは揃っているし、当初の目的と違うけど部室へ行こうか」
そう言うと、琥珀はオビトの方に手を差し出す。
「立てるかい?」
蒼空は蹴られていない方の手で琥珀の手を掴んだ。
「撮ってた人から動画貰ってきました」
オビトがこちらに戻ってきた。
「ご苦労さま。……さて、部室へ行こうか」
そう言って、琥珀は歩き出した。
「ソラ、ホントに大丈夫か?」
オビトは蒼空の腕をチラリと見た後、心配そうに蒼空の顔色を伺った。
「うん。大丈夫だよ」
「なら良かったよ。傷が悪化するといけないし早く部長に手当してもらおう」
そう言って、オビトも部長に続いて部室へ向かおうとする。
「オビト」
蒼空が琥珀の後を追うオビトを呼び止めると、オビトは不思議そうに蒼空を見た。
「さっきはありがとう。僕のために怒ってくれて、すごく嬉しかった」
蒼空がそう言うと、オビトはキョトンとした顔をした後、へへっと照れくさそうに笑った。
「友達だからな、当たり前だよ。さぁ、早く部長のとこ行こうぜ」
蒼空もオビトと一緒に琥珀の後を追いかけた。
鈍い痛みが右手に広がり、蒼空は苦痛に顔を歪める。さらに追撃とでも言わんばかりに、彼女は蒼空の手を勢いよく踏みつけた。先程よりも激しい痛みが蒼空を襲い、思わずうめき声をあげてしまう。
「おいっ! 何やってんだよお前!」
オビトは御堂に対し、怒鳴りながら軽く突き飛ばす。彼女を突き飛ばしたことによって踏みつけられていた蒼空の手が開放される。
「大丈夫か、ソラ!? 」
オビトが蒼空に駆け寄ってくる。踏みつけられた蒼空の手は、何箇所も出血しており赤く腫れがあっていた。
「おい、お前なんでこんなことするんだよ!」
オビトは御堂に対し鬼のような形相で激しく怒鳴りつける。しかし、御動は我関せずといった感じで、櫛を使い髪を整えていた。
「そいつがアタシに触ろうとしたのがいけないんでしょ。正当防衛よ正当防衛」
「これのどこが正当防衛なんだ!? 蒼空はアンタの落としたストラップを拾っただけだろ! 何も悪いことはしていない!」
オビトが叫ぶと、御動はふんと鼻で笑った。
「あんた友達なのに知らないの? なら教えてあげる。そいつ小学校の頃から”呪いの子”って呼ばれてるの」
”呪いの子”という単語を聞いた途端、オビトの顔が鬼気迫るものへと変わる。大学に進学してから蒼空も久々に聞いたが、当然その言葉にいい思い出などあるはずもなかった。
「そいつのしたことは死んで当然なのよ。実際、そいつのせいで一体何人の――」
「そんなのとっくに知ってるさ! 」
オビトは御動の言葉を遮るように叫ぶ。
「お前にソラの何が分かるんだよ! ソラは呪われてなんかじゃない……すごくいいヤツなんだ! それをアンタらみたいな心無い人達のせいで……一体どれだけソラが苦しんできたか分からないのか!?」
「オビト……」
御動はオビトの勢いに気圧されたかのように苦虫を噛み潰したような表情をして後ろに下がる。
すると、そこに割って入る声がした。
「はーい、そこまでー」
声がした方を向くと、よれよれの白衣を着た小柄な体格の気だるげな雰囲気の女子生徒がいつの間にか蒼空の横にいた。
彼女のくせっ毛の長髪はボサボサで、黒縁のメガネを頭の上にかけており、白衣は袖が長すぎて袖に覆われていた。
彼女の名前は芹沢琥珀。蒼空が今日会う予定の人物で、彼女は蒼空とオビトの所属する超常現象解明研究会という長ったらしい名前のサークルの部長を務めていた。琥珀はオビトの方を見ると、はぁ……とため息を付いた。
「マグレ君ここ廊下だよ? 遠くからでも君の声が聞こえてうるさいったらありゃしない。でも、君の演説は中々に素晴らしいものだった。ぜひ、後でもう一度聞かせてもらおう」
そう言った後、琥珀はオビトに微笑んだ。周囲を見ると多くの学生が集っており、中には動画を撮っている者さえいた。蒼空達は今、この場にいる学生の注目の的になっているようだった。琥珀は御動の方に向き直って朗らかな笑みを浮かべた。
「さて、お嬢さん……曲がりなりにも、うちの可愛い可愛い部員に手を出したんだ。それ相応の覚悟はできているんだろうね?」
琥珀は笑っていたが、その笑みは相手に得体のしれない恐怖を与えるようなものだった。見ているこちらも背筋が凍るような感覚を覚えた。
「なんなのよアンタ達……」
御動は琥珀に対し恐怖に引きつったような表情を浮かべ、そのまま出口の方に勢いよく走っていった。
「おい、逃げるのか!」
オビトは御堂を追いかけようとするが、琥珀はそれを手で静止する。
「待て、マグレ君。彼女を追いかける必要はないよ。幸いにも撮影してくれてる人もいるみたいだし、これを証拠として貰っておこう。兎にも角にも、まずはタカナシ君の手当の方が先だ」
「……分かりました。ぼく、スマホで撮ってた人に動画貰ってきます」
「頼んだよ」
オビトは未だガヤガヤとしている聴衆の方に走っていった。
「さてと……にしてもタカナシ君は隨分手ひどく痛めつけられたようだねぇ。まぁ幸いにも部室には応急処置用のものは揃っているし、当初の目的と違うけど部室へ行こうか」
そう言うと、琥珀はオビトの方に手を差し出す。
「立てるかい?」
蒼空は蹴られていない方の手で琥珀の手を掴んだ。
「撮ってた人から動画貰ってきました」
オビトがこちらに戻ってきた。
「ご苦労さま。……さて、部室へ行こうか」
そう言って、琥珀は歩き出した。
「ソラ、ホントに大丈夫か?」
オビトは蒼空の腕をチラリと見た後、心配そうに蒼空の顔色を伺った。
「うん。大丈夫だよ」
「なら良かったよ。傷が悪化するといけないし早く部長に手当してもらおう」
そう言って、オビトも部長に続いて部室へ向かおうとする。
「オビト」
蒼空が琥珀の後を追うオビトを呼び止めると、オビトは不思議そうに蒼空を見た。
「さっきはありがとう。僕のために怒ってくれて、すごく嬉しかった」
蒼空がそう言うと、オビトはキョトンとした顔をした後、へへっと照れくさそうに笑った。
「友達だからな、当たり前だよ。さぁ、早く部長のとこ行こうぜ」
蒼空もオビトと一緒に琥珀の後を追いかけた。
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