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太陽より熱い焔
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流石にあの後。気分がそがれ喧嘩続行とはいかず、二つのグループは沈静化していた。
不満げなドゥーエリィは成りを潜め、ドウーエへと身体を明け渡していて。
イシュリーンは事が収まったのを察し、ノインとトレを迎えに行く。
そしてようやく、代表同士の話し合いが持たれた。
「俺はやらん、イシュリーンお前の方がこういうの適任だろうが」
「俺では務まりませんし、俺の上は貴方ですよレイ」
「あー、俺はどちらでもいいし…寧ろ二人一緒でも、な?」
と、ラルフの言葉により二人は顔を見合わせ、その場に座り胡坐をかく。と、言ってもそれほど使える部屋がある訳でも無く
重傷者以外は皆一同に広いこの部屋に居るのだが。
「見ての通り、うちは非戦闘員が多い…で、前々から噂に名高いキミ達と手を結びたいなぁと思っていたんだ」
「慣れあうつもりはねぇ金髪、組織になりやぁ守るもんも増える…お前らみたいにな?面倒見るのが増えんのは御免でね」
「まぁ、概ね意見は同じですよ俺も」
「…どうしても、かい?」
「逆に聞くがな、うちに何のメリットがある?」
「質問に質問で返されると答えにくいって言うか」
「…………」
レイが無言を貫こうとすると、イシュリーンが代わりに口を開く。
「先程の争いで俺達は貴方のグループに多少ではない被害を負わせたのです…それでも仲間になれるとでも?」
「その辺りはお互い様って事だし、うちのもキミらや他のグループに敵対していた。なら覚悟の上でだろう?」
「成程、確かに…でレイがそちらの仲間になれば武力が増す、と」
ガタ、とトレ・ノイン・ドウーエ・イシュリーンが反応する。リーダーでもあるレイを取られてなるものか、と。
これでも信頼が互いの間にあるのだ。
「ああ、勘違いしないで欲しい。キミ達と俺は言ったよ」
「たった五人に過大な評価だな、笑える」
「その五人組がこの辺りで最大級の火力を持っているのを知っている、としたら?」
す、とイシュリーンの眼が細められる。
「既に調べがついている、と」
「まぁね」
カラカラ笑うラルフの顔には悪意は見られなかった。だからと言ってすぐに信用できる程彼らを取り巻く世界は甘くない。
ふぅ、と一息吐き。
「闇、火、水、重力…そして風と雷の二つ属性持ち…キミ達の力は計り知れない」
「てめぇだって異能持ちだろうが」
「生憎、こちらは二人しかいないんだよ」
異能、何故かこの大陸で発生した能力で。持っているものは数少ない。
そして何も異能持ちが五人集まった訳じゃない。たまたま発生したのだ。
レイとイシュリーンは生まれつき、後の三人は後天的に。
「その前に苗字持ち金髪、てめぇの素性は何だ」
「やっぱり気付かれたか…うん、元貴族だよ、俺」
屈託の無い笑顔のラルフが「出てきていーよ」と後ろも見ずに声をかけると、一際上背のある少年がラルフの傍に歩みを進めた。
「さっき戻ったんだ彼の名は」
「シェン、だ…属性は土。そして久しぶりだなレイ」
「紹介いらなかった」
ラルフのけらけら笑う声をBGMに。
こうして、彼らは出会うべくして出会った。
◇◇◇
考える事を放棄し、レイはコンクリートの床の上に寝転がった。傍にはノイン、トレそしてドウーエが座り込んでいて。ドウーエはレイの身体を揺らしていた。
「どーするんだよ」
「俺は頭使うの苦手なんだ、そして揺らすな酔う」
「……相変わらずですねぇ」
「イシュリーンうるせぇ」
「なぁシェンって何者?」
「知らん、あんなゴリラ」
「ひどいですねぇ」
戦火で吹き飛ばされたのか、はたまた取り外され焚き火用にされたのか扉の無い部屋へとイシュリーンが入ってくる。手にはすり鉢、そして腕に水洗いされた布が掛けられて。
「彼らの手当ては終わりました、数名骨が折れていたようですが…まぁ、命にかかわる傷でもないでしょう」
随分とお優しい事で、と微笑むそれに「ああ?」と濁点交じりの声が返る。
勿論ノインの怪我も既に治療済みであった。
手加減、していたのだ。これでも。
レイ達五人が異能を使えば恐らく死人が出ていただろう事は子どもでも見当が付く。
あくまでも腕力、一人武器持ち出していたが、で片付けるつもりでいたのだ。
「確かに不公平ですよね…まぁ喧嘩にそれを持ち込まない時点でラルフあちらも甘いのでしょうが」
珍しくイシュリーンの機嫌が良いのに、一同顔を見合わせる。
「お前面白がってねぇ?」
「あ、分かります?」
はぁぁぁ、とゴロリと頭を抱えレイはため息を吐いた。
驚いた事にここには少ないが少女も数名居た。と言うより匿われていた。
レイ達と初対面の時に容姿が整っている五人に、見る見る間に顔を赤くしていたのは、余談であるが。
それはともかく。
「ラルフは相当惚れこんでいますねぇ、良かったですね。レイモテてますよ」
「野郎にモテても嬉しくねぇ」
「貴重で数少ない女性から言い寄られても顔顰めるクセに」
「町に居るのは明らかに下心ある奴らだぞ?何で俺が乗ってやらなきゃならねぇっ」
「別の意味で乗れますよ?」
「下ネタはいいっつーの」
意外にそう言った類の冗談を言うイシュリーンと、潔癖気味なレイに思わずノインが吹き出す。一旦身を起こすレイ。立ち上がりノインに近付く。
「や、悪い…痛っ!レイ俺怪我人っ」
ごつん、と頭に軽い衝撃が走りノインの抗議の声が上げる。
仲間が絡むと喋るが普段は無口なトレが呆れたように双子の兄に顔を向けた。
レイは再び寝転がり、あいつ戻っていたのか、とふと思い出した。
寡黙な馴染みの少年。シェン。
最後に会ったのはいつだったか。確か一年前?日数など数えてはいないがそれ位前だったような気がする。
レイに戦い方を教えてくれた相手。自分のは本当我流で、力押しに近かったそれを。誰相手にも通用する様に、そしてそこから応用しろと骨の髄まで叩き込まれた。
思えばラルフのそれに近いものを感じる。
「貴族って言ってたな、アイツ」
ぼそり、と呟き。身体を起こす。
「あ、起きた」
「寝てねぇ」
どうにも自分に懐きすぎな気がするドウーエに、苦笑いを返し。
「本当考えが読めねぇって言うか、腹黒さがねぇのが一番困る」
「向こうの考え隠さな過ぎて、逆に疑い深くなりましたか?」
「まぁな」
単なる火力だけなら分かる。それは向こう側も「そう」言っていたのだ。
「もう一度話してみては?グループ同士ではなく、個人で」
貴方、そちらなら得意でしょう。
イシュリーンから、そう突っ込まれ深い溜息を吐く。分かっているのだ、だだを捏ねているだけだと。
向こうに告げた、仲間が多くなるのは自分にとってデメリットだ。守れる者は限られている。どんなに強くなろうともだ。
現に向こうは人質を取られていた。
ああいうのはちょっと、な。
だけど、ラルフ…あいつはきっと違う。だからこそこの戦力不足の場所に居る。
あいつになにがそうまでさせる?
そこが気になって仕方ない。好奇心が刺激されるのだ。
「……分かった」
勢いで立ち上がり、パンパンと服に着いた汚れを払う。
「行ってくる」
「はい」
相手をしてもらえず、ふてくされているドウーエと。やれやれと肩を竦めるイシュリーン。眠っているらしいノインの傍にいるトレの姿を一度眺め
部屋から出て、ラルフを探す。途中すれ違った少年に聞けば「多分井戸の辺りかと」との事。
礼を告げ、向かう。
「レイ」
此方に気付いたのか、笑顔で手を振るラルフの姿を見付けた。傍にはシェンも居る。
「よう」
「話決まった?」
「その前に聞きてぇ、シェンお前何でここに居る?」
「……ラルフとは昔からの知り合い、と言うか雇われていた」
「成程、ねぇ」
貴族と言う話だった。なら護衛か何かだろう、と行きつく考え。
「納得したなら話戻そうか、仲間になってくれるかい?」
「まだ、そこは決めてねぇ…先にお前の話聞いてからだ」
ああ、そこかと頷くラルフの言葉に耳を傾ける為近くにあった岩に腰かける。
「義務と権利って分かる?」
「小難しいこたぁ分からねぇ、なんせ学が無いんでな」
「ははは、簡単に言えば手に入れて当然の物…つまり生きていくために必要な物は等しく与えられるってのが権利かな?当然対価は必要だけど、で義務ってのが対価…支払う労力や金銭だね」
教師よろしく講釈を垂れるラルフの顔を見るが、どこか悲しげでもある。
「貴族は生まれた時からそれを教え込まれるんだ。なにせ税金で生活させて貰っている。だからと言ってなにもしない訳じゃない、民を守らないとならなからね」
「だから、守ろうって訳か?」
頭に浮かぶは幼い子らの姿。
「まぁ、そんなとこ。でもキミの言う通りさ、一人じゃ守れる者は限られてくる。互いに支え合って生きていく……それは頑張ればどうにか出来るかもしれない。だけど弱い者は」
「死ぬ、奪われてな。あるいは掌から零れ堕ちる…気付かねぇ内に」
それは、環境であり。他者からの物だったりである。
「キミが、仲間を守っているのは知っている。それはシェンから聞いた」
「あいつらは弱くねぇ」
「知ってるよ、異能持ちは生存率が高い。それゆえ、仲間に引き込もうとする人間も大勢いる」
「シェン、もか?」
「俺は、自分から売り込んだ……」
まぁ、こいつなら言うと思った。元々世話好きでもある。同じ方向性なら手を組むのは道理だ。
だけど。
「そうやって、全員助けるつもりか?お貴族様」
「全員は無理だねぇ」
だろうな、と薄く笑う。
「ちまちまと、救助活動してもこの瞬間誰かの命が消えている……それが堪らなく辛い」
「ご立派な事で」
嫌味で返すが、気にする事も無いとラルフは言葉を続けて。
「今戦乱でこの大陸はごたついている…多分今が好機だと思うんだよね」
「何の?」
「国、作るのにさ」
「は!?」
こいつ何て言った?国を作る?阿呆か、とレイは目を見開く。
「貴族の義務だからか?」
「いや?俺がやりたいからだよ」
やっぱり阿呆だ、と聞くだけ無駄と腰を上げかけ
「盗賊が国興してもおかしくないだろう?」
動きが止まる。
「貴族と言っても、元だし俺。家も家族もバラバラ……確かに教え込まれたよ、弱い者を守れって」
でも
「ただ守り与えるだけじゃ、人は弱る。誰かに縋りついて生きてしかいけなくなり結局は死ぬ」
その言葉はすんなりと頭に入ってきた。
いまの現状の在り方。
何もラルフだけではなかった。自分たちを取り込もうとするグループは。
ただ、気に入らない。それだけで拒否してきただけなのだから。
「まず、学校を作る…生活を安定させるための住む家と共にね」
「金、あんのかよ。つーか誰が作るんだ?作ったところで奪われるがオチだろ」
「当てはある。ただ力が足らない、勢力を強化しないとね……キミ、他の集団からかなり目を付けられているだろう?」
「だから?」
「まーた質問に質問で返す…まぁ、今はいいよ。だけど相手も異能持ちだったら、いずれキミは負ける…勿論仲間も全員異能持ちだから簡単にはいかないだろうけど。いない訳じゃないんだよ、この世界に異能持ちはまだまだ居る」
「そりゃそうだろ」
「知らないだけで、それを集めている集団が居るとしたら?」
無い話では無かった。
「うま味がありゃあ、つるむ奴らもいるだろうて」
再び腰を下ろし、会話を再開させた。
「ただ。二つ属性持ちは貴重なんだよ……キミみたいな人はね」
「二つってのは語弊あんだがなぁ、手の内明かすつもりはねぇよ」
「ははは信用されてないね、でもそれは読める」
「は?強がるもの……」
「風と雷は同じ属性だからね、風を利用して放電を起こす…違うかい?」
「学があるってのはこういう事かよ」
最初はたまたまだった。飛ばす風の刃だけでは足りないので。
風の強度を上げる為あれこれ試行錯誤を繰り返している内に空気中で放電が起きた。操るのには時間がかかったが。
「火を操れるのは温度に干渉しているから逆に温度を下げる事も出来る、水はやはり風…空気と相性が良くてそこから水を集めている、勿論水源があればそちらの方が早いけど、重量もだ…異能は権利、対価が義務…対価を払って俺達は異能を使っている」
知っていたかい?
「異能は、対価を支払う事で自分の命を削っている事も」
は、と口をあんぐりと開き言われた事を反芻する。
「んだよ、それ」
「ああ、普通に使う分にはそれ程差は無いよ。寧ろ抗争で落とす命の方が圧倒的に多いのだから」
「………」
「全員を救うなんて綺麗事とは分かっているんだ俺もね、だけど何かをせずにはいられない…まるで呪いの様だろう?貴族の矜持って奴は…どうしたって逃れられないんだ」
勿論自分の為に使うヤツだっているけど
「結局はデメリットも自分に返ってくる」
レイは黙ったままラルフの言葉に耳を傾けていた。聞き心地の良いそれは『カリスマ性』によるものか、はたまた詐欺師のものか。
どちらにしても似たようなものだと、思う。
「レイ、キミに手伝って欲しいんだ」
貴族なんて
「肩書はこの世界に通用しない、通用するのは力と人を惹きつけるものだけ」
ああ、ほら。
逃げ出すものを絡めとろうとする太陽。
その光の前には全てをさらけ出す事になるのだ。
「見返りは、義務を果たした後の自由。何にも縛られる事も縛る事も無い自由。その為の力」
眩さに目を閉じる。
「……本当に出来ると思ってんのか」
「出来るかどうかじゃない、やるんだ」
こいつに『賭ける』だけのものはある。
あとは俺の覚悟だけ。すぅ、と一つ深呼吸。
「分かった」
「今日から仲間だね」
レイの言葉に、ラルフは少しだけ表情を引き締め
右手を差し出した。
不満げなドゥーエリィは成りを潜め、ドウーエへと身体を明け渡していて。
イシュリーンは事が収まったのを察し、ノインとトレを迎えに行く。
そしてようやく、代表同士の話し合いが持たれた。
「俺はやらん、イシュリーンお前の方がこういうの適任だろうが」
「俺では務まりませんし、俺の上は貴方ですよレイ」
「あー、俺はどちらでもいいし…寧ろ二人一緒でも、な?」
と、ラルフの言葉により二人は顔を見合わせ、その場に座り胡坐をかく。と、言ってもそれほど使える部屋がある訳でも無く
重傷者以外は皆一同に広いこの部屋に居るのだが。
「見ての通り、うちは非戦闘員が多い…で、前々から噂に名高いキミ達と手を結びたいなぁと思っていたんだ」
「慣れあうつもりはねぇ金髪、組織になりやぁ守るもんも増える…お前らみたいにな?面倒見るのが増えんのは御免でね」
「まぁ、概ね意見は同じですよ俺も」
「…どうしても、かい?」
「逆に聞くがな、うちに何のメリットがある?」
「質問に質問で返されると答えにくいって言うか」
「…………」
レイが無言を貫こうとすると、イシュリーンが代わりに口を開く。
「先程の争いで俺達は貴方のグループに多少ではない被害を負わせたのです…それでも仲間になれるとでも?」
「その辺りはお互い様って事だし、うちのもキミらや他のグループに敵対していた。なら覚悟の上でだろう?」
「成程、確かに…でレイがそちらの仲間になれば武力が増す、と」
ガタ、とトレ・ノイン・ドウーエ・イシュリーンが反応する。リーダーでもあるレイを取られてなるものか、と。
これでも信頼が互いの間にあるのだ。
「ああ、勘違いしないで欲しい。キミ達と俺は言ったよ」
「たった五人に過大な評価だな、笑える」
「その五人組がこの辺りで最大級の火力を持っているのを知っている、としたら?」
す、とイシュリーンの眼が細められる。
「既に調べがついている、と」
「まぁね」
カラカラ笑うラルフの顔には悪意は見られなかった。だからと言ってすぐに信用できる程彼らを取り巻く世界は甘くない。
ふぅ、と一息吐き。
「闇、火、水、重力…そして風と雷の二つ属性持ち…キミ達の力は計り知れない」
「てめぇだって異能持ちだろうが」
「生憎、こちらは二人しかいないんだよ」
異能、何故かこの大陸で発生した能力で。持っているものは数少ない。
そして何も異能持ちが五人集まった訳じゃない。たまたま発生したのだ。
レイとイシュリーンは生まれつき、後の三人は後天的に。
「その前に苗字持ち金髪、てめぇの素性は何だ」
「やっぱり気付かれたか…うん、元貴族だよ、俺」
屈託の無い笑顔のラルフが「出てきていーよ」と後ろも見ずに声をかけると、一際上背のある少年がラルフの傍に歩みを進めた。
「さっき戻ったんだ彼の名は」
「シェン、だ…属性は土。そして久しぶりだなレイ」
「紹介いらなかった」
ラルフのけらけら笑う声をBGMに。
こうして、彼らは出会うべくして出会った。
◇◇◇
考える事を放棄し、レイはコンクリートの床の上に寝転がった。傍にはノイン、トレそしてドウーエが座り込んでいて。ドウーエはレイの身体を揺らしていた。
「どーするんだよ」
「俺は頭使うの苦手なんだ、そして揺らすな酔う」
「……相変わらずですねぇ」
「イシュリーンうるせぇ」
「なぁシェンって何者?」
「知らん、あんなゴリラ」
「ひどいですねぇ」
戦火で吹き飛ばされたのか、はたまた取り外され焚き火用にされたのか扉の無い部屋へとイシュリーンが入ってくる。手にはすり鉢、そして腕に水洗いされた布が掛けられて。
「彼らの手当ては終わりました、数名骨が折れていたようですが…まぁ、命にかかわる傷でもないでしょう」
随分とお優しい事で、と微笑むそれに「ああ?」と濁点交じりの声が返る。
勿論ノインの怪我も既に治療済みであった。
手加減、していたのだ。これでも。
レイ達五人が異能を使えば恐らく死人が出ていただろう事は子どもでも見当が付く。
あくまでも腕力、一人武器持ち出していたが、で片付けるつもりでいたのだ。
「確かに不公平ですよね…まぁ喧嘩にそれを持ち込まない時点でラルフあちらも甘いのでしょうが」
珍しくイシュリーンの機嫌が良いのに、一同顔を見合わせる。
「お前面白がってねぇ?」
「あ、分かります?」
はぁぁぁ、とゴロリと頭を抱えレイはため息を吐いた。
驚いた事にここには少ないが少女も数名居た。と言うより匿われていた。
レイ達と初対面の時に容姿が整っている五人に、見る見る間に顔を赤くしていたのは、余談であるが。
それはともかく。
「ラルフは相当惚れこんでいますねぇ、良かったですね。レイモテてますよ」
「野郎にモテても嬉しくねぇ」
「貴重で数少ない女性から言い寄られても顔顰めるクセに」
「町に居るのは明らかに下心ある奴らだぞ?何で俺が乗ってやらなきゃならねぇっ」
「別の意味で乗れますよ?」
「下ネタはいいっつーの」
意外にそう言った類の冗談を言うイシュリーンと、潔癖気味なレイに思わずノインが吹き出す。一旦身を起こすレイ。立ち上がりノインに近付く。
「や、悪い…痛っ!レイ俺怪我人っ」
ごつん、と頭に軽い衝撃が走りノインの抗議の声が上げる。
仲間が絡むと喋るが普段は無口なトレが呆れたように双子の兄に顔を向けた。
レイは再び寝転がり、あいつ戻っていたのか、とふと思い出した。
寡黙な馴染みの少年。シェン。
最後に会ったのはいつだったか。確か一年前?日数など数えてはいないがそれ位前だったような気がする。
レイに戦い方を教えてくれた相手。自分のは本当我流で、力押しに近かったそれを。誰相手にも通用する様に、そしてそこから応用しろと骨の髄まで叩き込まれた。
思えばラルフのそれに近いものを感じる。
「貴族って言ってたな、アイツ」
ぼそり、と呟き。身体を起こす。
「あ、起きた」
「寝てねぇ」
どうにも自分に懐きすぎな気がするドウーエに、苦笑いを返し。
「本当考えが読めねぇって言うか、腹黒さがねぇのが一番困る」
「向こうの考え隠さな過ぎて、逆に疑い深くなりましたか?」
「まぁな」
単なる火力だけなら分かる。それは向こう側も「そう」言っていたのだ。
「もう一度話してみては?グループ同士ではなく、個人で」
貴方、そちらなら得意でしょう。
イシュリーンから、そう突っ込まれ深い溜息を吐く。分かっているのだ、だだを捏ねているだけだと。
向こうに告げた、仲間が多くなるのは自分にとってデメリットだ。守れる者は限られている。どんなに強くなろうともだ。
現に向こうは人質を取られていた。
ああいうのはちょっと、な。
だけど、ラルフ…あいつはきっと違う。だからこそこの戦力不足の場所に居る。
あいつになにがそうまでさせる?
そこが気になって仕方ない。好奇心が刺激されるのだ。
「……分かった」
勢いで立ち上がり、パンパンと服に着いた汚れを払う。
「行ってくる」
「はい」
相手をしてもらえず、ふてくされているドウーエと。やれやれと肩を竦めるイシュリーン。眠っているらしいノインの傍にいるトレの姿を一度眺め
部屋から出て、ラルフを探す。途中すれ違った少年に聞けば「多分井戸の辺りかと」との事。
礼を告げ、向かう。
「レイ」
此方に気付いたのか、笑顔で手を振るラルフの姿を見付けた。傍にはシェンも居る。
「よう」
「話決まった?」
「その前に聞きてぇ、シェンお前何でここに居る?」
「……ラルフとは昔からの知り合い、と言うか雇われていた」
「成程、ねぇ」
貴族と言う話だった。なら護衛か何かだろう、と行きつく考え。
「納得したなら話戻そうか、仲間になってくれるかい?」
「まだ、そこは決めてねぇ…先にお前の話聞いてからだ」
ああ、そこかと頷くラルフの言葉に耳を傾ける為近くにあった岩に腰かける。
「義務と権利って分かる?」
「小難しいこたぁ分からねぇ、なんせ学が無いんでな」
「ははは、簡単に言えば手に入れて当然の物…つまり生きていくために必要な物は等しく与えられるってのが権利かな?当然対価は必要だけど、で義務ってのが対価…支払う労力や金銭だね」
教師よろしく講釈を垂れるラルフの顔を見るが、どこか悲しげでもある。
「貴族は生まれた時からそれを教え込まれるんだ。なにせ税金で生活させて貰っている。だからと言ってなにもしない訳じゃない、民を守らないとならなからね」
「だから、守ろうって訳か?」
頭に浮かぶは幼い子らの姿。
「まぁ、そんなとこ。でもキミの言う通りさ、一人じゃ守れる者は限られてくる。互いに支え合って生きていく……それは頑張ればどうにか出来るかもしれない。だけど弱い者は」
「死ぬ、奪われてな。あるいは掌から零れ堕ちる…気付かねぇ内に」
それは、環境であり。他者からの物だったりである。
「キミが、仲間を守っているのは知っている。それはシェンから聞いた」
「あいつらは弱くねぇ」
「知ってるよ、異能持ちは生存率が高い。それゆえ、仲間に引き込もうとする人間も大勢いる」
「シェン、もか?」
「俺は、自分から売り込んだ……」
まぁ、こいつなら言うと思った。元々世話好きでもある。同じ方向性なら手を組むのは道理だ。
だけど。
「そうやって、全員助けるつもりか?お貴族様」
「全員は無理だねぇ」
だろうな、と薄く笑う。
「ちまちまと、救助活動してもこの瞬間誰かの命が消えている……それが堪らなく辛い」
「ご立派な事で」
嫌味で返すが、気にする事も無いとラルフは言葉を続けて。
「今戦乱でこの大陸はごたついている…多分今が好機だと思うんだよね」
「何の?」
「国、作るのにさ」
「は!?」
こいつ何て言った?国を作る?阿呆か、とレイは目を見開く。
「貴族の義務だからか?」
「いや?俺がやりたいからだよ」
やっぱり阿呆だ、と聞くだけ無駄と腰を上げかけ
「盗賊が国興してもおかしくないだろう?」
動きが止まる。
「貴族と言っても、元だし俺。家も家族もバラバラ……確かに教え込まれたよ、弱い者を守れって」
でも
「ただ守り与えるだけじゃ、人は弱る。誰かに縋りついて生きてしかいけなくなり結局は死ぬ」
その言葉はすんなりと頭に入ってきた。
いまの現状の在り方。
何もラルフだけではなかった。自分たちを取り込もうとするグループは。
ただ、気に入らない。それだけで拒否してきただけなのだから。
「まず、学校を作る…生活を安定させるための住む家と共にね」
「金、あんのかよ。つーか誰が作るんだ?作ったところで奪われるがオチだろ」
「当てはある。ただ力が足らない、勢力を強化しないとね……キミ、他の集団からかなり目を付けられているだろう?」
「だから?」
「まーた質問に質問で返す…まぁ、今はいいよ。だけど相手も異能持ちだったら、いずれキミは負ける…勿論仲間も全員異能持ちだから簡単にはいかないだろうけど。いない訳じゃないんだよ、この世界に異能持ちはまだまだ居る」
「そりゃそうだろ」
「知らないだけで、それを集めている集団が居るとしたら?」
無い話では無かった。
「うま味がありゃあ、つるむ奴らもいるだろうて」
再び腰を下ろし、会話を再開させた。
「ただ。二つ属性持ちは貴重なんだよ……キミみたいな人はね」
「二つってのは語弊あんだがなぁ、手の内明かすつもりはねぇよ」
「ははは信用されてないね、でもそれは読める」
「は?強がるもの……」
「風と雷は同じ属性だからね、風を利用して放電を起こす…違うかい?」
「学があるってのはこういう事かよ」
最初はたまたまだった。飛ばす風の刃だけでは足りないので。
風の強度を上げる為あれこれ試行錯誤を繰り返している内に空気中で放電が起きた。操るのには時間がかかったが。
「火を操れるのは温度に干渉しているから逆に温度を下げる事も出来る、水はやはり風…空気と相性が良くてそこから水を集めている、勿論水源があればそちらの方が早いけど、重量もだ…異能は権利、対価が義務…対価を払って俺達は異能を使っている」
知っていたかい?
「異能は、対価を支払う事で自分の命を削っている事も」
は、と口をあんぐりと開き言われた事を反芻する。
「んだよ、それ」
「ああ、普通に使う分にはそれ程差は無いよ。寧ろ抗争で落とす命の方が圧倒的に多いのだから」
「………」
「全員を救うなんて綺麗事とは分かっているんだ俺もね、だけど何かをせずにはいられない…まるで呪いの様だろう?貴族の矜持って奴は…どうしたって逃れられないんだ」
勿論自分の為に使うヤツだっているけど
「結局はデメリットも自分に返ってくる」
レイは黙ったままラルフの言葉に耳を傾けていた。聞き心地の良いそれは『カリスマ性』によるものか、はたまた詐欺師のものか。
どちらにしても似たようなものだと、思う。
「レイ、キミに手伝って欲しいんだ」
貴族なんて
「肩書はこの世界に通用しない、通用するのは力と人を惹きつけるものだけ」
ああ、ほら。
逃げ出すものを絡めとろうとする太陽。
その光の前には全てをさらけ出す事になるのだ。
「見返りは、義務を果たした後の自由。何にも縛られる事も縛る事も無い自由。その為の力」
眩さに目を閉じる。
「……本当に出来ると思ってんのか」
「出来るかどうかじゃない、やるんだ」
こいつに『賭ける』だけのものはある。
あとは俺の覚悟だけ。すぅ、と一つ深呼吸。
「分かった」
「今日から仲間だね」
レイの言葉に、ラルフは少しだけ表情を引き締め
右手を差し出した。
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そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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