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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜
怪23
しおりを挟む(ど、どうなってんの……?)
メルティは外から聞こえる会話に混乱していた。
(ショーンだと思っていたあの男、ショーンじゃなかったの!? そういえば、確かに普段のショーンより頭二つ分ぐらい背が高いし、筋肉もすごいマッチョだと思ったわ。声も違ったし、そもそも、ショーンは今日は騎士団の訓練に参加するから学園には来ていないのよね。ていうことは、あの覆面男はショーンじゃないってことじゃない!)
むしろ何故ショーンだと思った? と、メルティの心の声を聞いている誰かがこの場にいれば突っ込んだであろうが、メルティはセルフ突っ込みはしないタイプのボケなので、判明した事実にただただ戦慄するだけだった。
(いったいどうなっているの……? アメリアは何やってんのかしら?)
メルティはそーっと戸を開けて外の様子を窺った。すぐそこに覆面男が立ち、彼と向かい合ってアメリアが立ち尽くしている。
覆面男の腕に捕まっているのは、十歳くらいの女の子だ。
(え? なんで子供がここに? そうか。子供を人質に取られているからアメリアは動けないのね。ど、どうしよう~……)
この場に隠れてやり過ごしたとして、もしも子供とアメリアが殺されたりして覆面男が逃げ去ったら。
(あたし、怪しまれない?)
人気のない女子トイレでアメリアを待ち伏せしていた、という、客観的に怪しい事実がある。そんなメルティが「覆面男がやった」なんて言ったとしても誰も信じてくれないかもしれない。
(でも、あたしには何も出来ないしー、か弱い乙女だしー、無理無理。ごっめーん。恨まないでね!)
わずかに開けた戸をそうっと閉めて息を殺しているつもりだったメルティの耳元で、不意にしわがれた声がした。
『赤いチャンチャンコいらんかね……』
「ひっ!?」
メルティは悲鳴を飲み込んで耳を押さえた。当たり前だが、個室の中には自分しかいない。
だが、その声は今度はトイレ中に響いた。
『赤いチャンチャンコいらんかねぇ~』
「な、なんだ!? 誰だっ!?」
男が辺りを見回し、左端の閉まっている個室に目を向けた。
「そこに、誰かいるのか!?」
男はアメリアを押しのけるようにして左端の個室の前に立った。
「出てきやがれ!!」
「うひいっ!!」
しかし、男の声に応えて開いたのは左端ではなく、真ん中の個室だった。
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