アメリア&花子〜婚約破棄された公爵令嬢は都市伝説をハントする〜

荒瀬ヤヒロ

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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜

怪24

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「何この声ーっ! やだやだやだ~っ!!」

 メルティは半狂乱で個室から飛び出した。得体の知れない声への恐怖に耐えられなかったのだ。
 メルティの登場に、男は一瞬気を取られた。
 その隙を見逃さず、花子が男の股間を蹴り上げた。

「ぐうっ!?」

 男が呻き声を上げる。

「花子さん!」
「アメリア! 個室の中を見て!」

 花子は左端の個室の戸に手を触れた。すると、がちゃりと鍵の開く音が響いた。

「目には見えなくても、何か違和感があるはず! そこをよく見て! そして「形を見たり」と言うの!」
「このガキ……っ、殺してやる!」

 怒り狂った男が花子に向かってナイフを振り上げた。だが、花子が手を振ると、どこからともなく飛んできたトイレットペーパーが男の手にからみついて締め上げる。

「な、なんだ!?」
「ちょっと、黙っててくれる?」

 花子はトイレットペーパーを巻き取ると、それを男の口に突っ込んだ。

「アメリア! 早く! 逃げられちゃう!」
「わ、わかったわ!」

 花子に応えて、アメリアは左端の個室の戸に手をかけた。すると、戸は何の抵抗もなく開いた。
 中には誰もいない。便器があるだけだ。

(また逃げられた……いや)

 花子の言葉を思い出し、アメリアは目を凝らして個室の中をみつめた。

(違和感……何かあるはず)

 便器にも壁にもおかしなところはない。床も普通だ。日の光に照らされて白いタイルが光っている。
 日の光——?

(もう、日暮れのはず……っ)

 それに気付いた瞬間、目の前の空間が揺らぎ、赤い何かが見えた。

「形を、見たり!」

 咄嗟に叫んだ。
 すると、空間の揺らぎが止まり、そこに赤いガウンのようなものが現れて、「ちぇっ」と舌打ちが聞こえた。

『花子さんめ……人間と手を組むとは……まあ、見つかっちまったら仕方がない』

 赤いガウンが、ばさっと便器の蓋の上に落ちた。
 おそるおそる手を伸ばして、アメリアはその赤いガウンを手に取った。

「姉上! ここにいるんですか?」

 突如、トイレの扉が激しく叩かれ、ユリアンの声が響いた。アメリアははっとして振り向いた。
 花子はトイレットペーパーで男をぐるぐる巻きにしており、メルティはその横で腰を抜かしていた。

「姉上っ! ……これはいったい?」

 痺れを切らして扉を開けたユリアンは、そこに広がっていた光景に目を丸くした。



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