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〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜
怪25
しおりを挟む覆面男はなんと誘拐犯だった。
平民の学校で、トイレに侵入し獲物がやってくるのを待ち、一人でトイレにきた子供を狙って犯行を繰り返した男は、貴族の子女を同じ方法でさらおうとしていたらしい。
「いやだわ……なんて恐ろしい」
教師からそれを聞かされたアメリアは眉をしかめた。
まさか、本当にトイレで獲物を待つ誘拐犯がいるだなんて。ハンナに適当に語った内容が真実になってしまった。
ハンナといえば、あの日、ユリアンとクラウスの背後から現れた彼女は、呆気にとられる男達を無視して即座にきびきびと働いた。固まる王太子に喝を入れて教師を呼びに行かせ、姉に駆け寄ろうとするユリアンに男を取り押さえるように命じ、アメリア達から事情を聞き出した。
アメリアと花子は「トイレの前を通りかかったら悲鳴が聞こえて、男がメルティを捕まえていたので助けようとした」と説明して誤魔化した。メルティは放心状態だったため、証言できる状態ではなかったのだ。
「それにしても、アメリア嬢は男の正体まで見破っていたんだって?」
「へ?」
教師の言葉に、アメリアは首を傾げた。
「犯人の男が人身売買組織『紅きチャンジャール公』の一員だと見抜いたそうだな。男は組織の正体を知られていたことに焦って口を封じようとしたらしい」
アメリアは目を瞬いた。
あの時、アメリアは個室に向かって「『赤いチャンチャンコ』さん」と呼びかけていた。それが男の耳には『紅きチャンジャール公』と聞こえたのか。
「そんな偶然があるなんて……」
「まあ、いいじゃない。『赤いチャンチャンコ』も捕まえたし!」
教師の前を辞して廊下を歩いていると、花子が姿を現した。
「花子さん。捕まえた時に「形を見たり」と言ったけれど、あれはどういう意味?」
アメリアはあの時のことを思い出して花子に尋ねた。
「怪異がいる場所は、必ず何か不自然なところがあるものなの。それに気付いた者の目には、怪異の正体が見えるわ。アメリアは赤い人型を見たんでしょ? それが『赤いチャンチャンコ』の本体よ」
花子はすいっと目を細めた。
「人に本体を見られた怪異は、動けなくなるのよ。何年間も力を溜め込むか、怪異仲間に助けられるかしない限り、自由には逃げられないわ」
「ええっ!?」
アメリアはうろたえた。
「そんな……動けなくなるだなんて……」
「大丈夫! 全部の都市伝説を集めたら、ちゃんと動けるようにするから! 今は逃げないようにアメリアの元に置いておいてほしいだけよ」
花子はアメリアを安心させるように言う。アメリアは知らぬ間に怪異を傍に置くことになってしまい、今さらぞっとした。
「花子さん。これからは……」
「見つけたぞアメリア!」
アメリアの台詞を遮って、クラウスが行く手を塞ぐ。
「貴様のせいでメルティが怖い目に遭っただろうが! 謝罪しろ!」
「クラウス~、私、怖かった~っぶっ」
メルティの顔面にすこーんっとトイレットロールがぶつかった。もちろんクラウスの顔面にもちゃんと着地する。それからトイレットロールは縦横無尽に飛び回り、王太子と男爵令嬢をぐるぐる巻きにする。
「まったく……今度近寄ったらアメリアの親父さんと同じく、「トイレに入ると毎回トイレットペーパーが微妙に足りない長さで切れる」ようにしてやるからね!」
「お父様にそんなことを……?」
悪質なイタズラを仕掛けられている父親を案じるアメリアだったが、花子は得意そうに胸を反らした。
「そういえば、「これからは」何て言いたかったの?」
花子に尋ねられて、アメリアは花子に向き合って真剣に懇願した。
「これからは、きちんと説明してくださいまし。お友達、なんですから」
花子はパチリと目を瞬き、それからニッと不敵に笑った。
「了解」
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