アメリア&花子〜婚約破棄された公爵令嬢は都市伝説をハントする〜

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
25 / 88
〜赤いチャンチャンコと弟の歪んだ愛情〜

怪25

しおりを挟む




 覆面男はなんと誘拐犯だった。

 平民の学校で、トイレに侵入し獲物がやってくるのを待ち、一人でトイレにきた子供を狙って犯行を繰り返した男は、貴族の子女を同じ方法でさらおうとしていたらしい。

「いやだわ……なんて恐ろしい」

 教師からそれを聞かされたアメリアは眉をしかめた。
 まさか、本当にトイレで獲物を待つ誘拐犯がいるだなんて。ハンナに適当に語った内容が真実になってしまった。

 ハンナといえば、あの日、ユリアンとクラウスの背後から現れた彼女は、呆気にとられる男達を無視して即座にきびきびと働いた。固まる王太子に喝を入れて教師を呼びに行かせ、姉に駆け寄ろうとするユリアンに男を取り押さえるように命じ、アメリア達から事情を聞き出した。

 アメリアと花子は「トイレの前を通りかかったら悲鳴が聞こえて、男がメルティを捕まえていたので助けようとした」と説明して誤魔化した。メルティは放心状態だったため、証言できる状態ではなかったのだ。

「それにしても、アメリア嬢は男の正体まで見破っていたんだって?」
「へ?」

 教師の言葉に、アメリアは首を傾げた。

「犯人の男が人身売買組織『紅きチャンジャール公』の一員だと見抜いたそうだな。男は組織の正体を知られていたことに焦って口を封じようとしたらしい」

 アメリアは目を瞬いた。
 あの時、アメリアは個室に向かって「『赤いチャンチャンコ』さん」と呼びかけていた。それが男の耳には『紅きチャンジャール公』と聞こえたのか。

「そんな偶然があるなんて……」
「まあ、いいじゃない。『赤いチャンチャンコ』も捕まえたし!」

 教師の前を辞して廊下を歩いていると、花子が姿を現した。

「花子さん。捕まえた時に「形を見たり」と言ったけれど、あれはどういう意味?」

 アメリアはあの時のことを思い出して花子に尋ねた。

「怪異がいる場所は、必ず何か不自然なところがあるものなの。それに気付いた者の目には、怪異の正体が見えるわ。アメリアは赤い人型を見たんでしょ? それが『赤いチャンチャンコ』の本体よ」

 花子はすいっと目を細めた。

「人に本体を見られた怪異は、動けなくなるのよ。何年間も力を溜め込むか、怪異仲間に助けられるかしない限り、自由には逃げられないわ」
「ええっ!?」

 アメリアはうろたえた。

「そんな……動けなくなるだなんて……」
「大丈夫! 全部の都市伝説を集めたら、ちゃんと動けるようにするから! 今は逃げないようにアメリアの元に置いておいてほしいだけよ」

 花子はアメリアを安心させるように言う。アメリアは知らぬ間に怪異を傍に置くことになってしまい、今さらぞっとした。

「花子さん。これからは……」
「見つけたぞアメリア!」

 アメリアの台詞を遮って、クラウスが行く手を塞ぐ。

「貴様のせいでメルティが怖い目に遭っただろうが! 謝罪しろ!」
「クラウス~、私、怖かった~っぶっ」

 メルティの顔面にすこーんっとトイレットロールがぶつかった。もちろんクラウスの顔面にもちゃんと着地する。それからトイレットロールは縦横無尽に飛び回り、王太子と男爵令嬢をぐるぐる巻きにする。

「まったく……今度近寄ったらアメリアの親父さんと同じく、「トイレに入ると毎回トイレットペーパーが微妙に足りない長さで切れる」ようにしてやるからね!」
「お父様にそんなことを……?」

 悪質なイタズラを仕掛けられている父親を案じるアメリアだったが、花子は得意そうに胸を反らした。

「そういえば、「これからは」何て言いたかったの?」

 花子に尋ねられて、アメリアは花子に向き合って真剣に懇願した。

「これからは、きちんと説明してくださいまし。お友達、なんですから」

 花子はパチリと目を瞬き、それからニッと不敵に笑った。

「了解」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...