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〜メリーさんと義母のたしなみ〜
怪26
しおりを挟む紅きチャンジャール公。
その名を知っている者は少ないだろう。
古い建国神話の中で、王国の始祖が打ち倒したとされる多数の敵の中の一人で、「悪名高き紅きチャンジャール公は王によって打ち倒された。それにより解放された民は王に従った。」との一文があるだけだ。
その名を掲げる誘拐組織の一員が、『赤いチャンチャンコ』と聞き間違えて正体を現したのは幸運だったと言えよう。
「それにしても、この『赤いチャンチャンコ』さんはどのようにおもてなしすれば良いのかしら?」
持ち帰った『赤いチャンチャンコ』を手に、アメリアは途方に暮れた表情になる。
「その辺に放っておけばいいわよ」
「そういう訳には……」
とりあえず椅子に丁寧に掛けておくことにした。
『赤いチャンチャンコ』を掛けた椅子を真ん中に置いて、向かい合ってお茶を飲みながらアメリアは花子に尋ねた。
「花子さん。他にはどんな都市伝説様たちがいらっしゃるの?」
「んー、そうね。『口裂け女』とか」
「口が裂けておられるの!? すぐに医師に診ていただかなくては!」
アメリアは『口裂け女』のことが心配になった。
「すぐに探しに行きましょう! 大怪我をしているのに異世界に引っ越しされるだなんて無茶です! 日本に医師はいなかったのですか?」
「医者はたくさんいたけど、『口裂け女』は口が裂けてるのがアイデンティティだからー……」
「姉上? こんな夜中にどこに行くつもりです?」
先日から離れに住みだしたユリアンがアメリアを見咎めて問いただしてきた。
「わたくし、人を探しに行くの。構わないでちょうだい」
「そうはいきません。姉上がおかしな真似をすれば公爵家に迷惑がかかるのですよ! それに……」
ユリアンはちらりと花子を見た。
「いつまでこんな下賤な者を公爵家に置いておくつもりです?」
アメリアはむっと口を引き結んだ。
「花子さんを侮辱することは許しません。公爵家に迷惑は掛けないわ。もう放っておいて!」
アメリアが叫んだ途端、ユリアンの顔が青ざめた。
「う、うわああっ!」
突然、叫びだしたユリアンに、アメリアは目を白黒させた。
「く、来るなぁっ!!」
「ユリアン?」
背を向けて逃げていくユリアンに呆気にとられるアメリアの横で、花子がけらけら笑った。
「心配いらないわ。ちょっとだけ巨大な便器に襲われる幻を見せただけだから」
「幻……花子さんはそんなことも出来ますの」
「まあね。アメリアの親父さんには毎晩「トイレに行きたいのにトイレが永遠にみつからない」悪夢を見せてもいるわ」
「お父様にそんなことを……?」
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アメリアはそう祈ることしか出来なかった。
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