アメリア&花子〜婚約破棄された公爵令嬢は都市伝説をハントする〜

荒瀬ヤヒロ

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〜アメリアと花子さん〜

怪87

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「アメリア」

 呼びかけると、アメリアはぎこちなく花子を見上げた。

「花子さん……ユリアンが……ユリアンが……」
「大丈夫よ」

 花子はアメリアをぎゅっと抱き締めた。
 それから、ユリアンに向かって手をかざす。

「あたしは、人の口から生まれた怪異。人の言葉、人の想いが具現化した存在ーー怖いものが見たいっていう、人の願いの力」

 花子が呟く。かざした手のひらから、温かな光が発されて、ユリアンの体を包み込んだ。

「『花子さん』!? アンタ、何を……っ!」

『口裂け女』が驚愕の声を上げる。

「やめなさいっ! 本気で消えるつもり!? 弱体化しているアンタがそんなに力を使ったら、今すぐ消えてしまうわよ!」

 アメリアははっとして花子を見た。花子はうっすらとほほえみを浮かべて、ユリアンに手をかざし続けている。

「花子さん……」
「ごめんね、アメリア。約束破っちゃうわ」

 花子がそんなことを言い出した。

「約束?」
「日本に連れて行ってあげるって約束したのに」

 そういう花子の指の先が、すーっと透明になっていく。

「でも、今のあんたにはもう必要ないかな? 出会った時、あんたはひとりぼっちに見えたけど、今はもう、この世界にあんたを愛している人達がいて、あんたはこの世界に必要とされてる」

 花子の体がどんどん半透明になっていく。反対に、真っ白だったユリアンの顔に赤みがさし、冷たかった指先に温もりが戻ってくる。今にも途切れそうなほどかすかだった息が、すう、すう、と聞こえてくる。

「花子さんっ……」
「そんな顔しないでよ」

 もうほとんど全身が透けている花子が、アメリアを見てにっこり笑った。

「あたしに会いたくなったら、トイレの個室を三回ノックして、こう呼んで。『はーなこさん、遊びましょー』って」
「花子さん……遊びましょ……?」

 アメリアが繰り返すと、花子は嬉しそうに笑って応えた。

「『はぁーい』!」

 その返事を最後に、花子の姿は完全に消えてしまった。


「は……花子さん……」
「う……」

 花子の消えた空間をみつめるアメリアの耳に、小さな呻き声が届いた。

「ユリアン?」
「う、ん……あれ? 僕は……」

 ぽっかりと目を開けたユリアンが、不思議そうに目を瞬く。

「ユリアン……ユリアン!」
「え? アメリア?」

 ユリアンの体を強く抱き締めて、アメリアは声を上げて泣き出した。

 人声がして、大勢の人間が謁見の間へ向けて走ってくる足音が聞こえる。
 花子が消えた空間をじっとみつめていた『口裂け女』は、むっつりと黙り込んだまま人間達に背を向けた。

「待て」

 その背中に、ショーンが声をかける。

「俺達は、お前達と契約はしない。この国は俺達の国だ。俺達の力で、必ず平和を勝ち取ってみせる」
「ふん」

 小馬鹿にしたように鼻で笑って、『口裂け女』はふわりと宙に浮き上がった。

「勝手にすればいい。私達も勝手にさせてもらうわ。私達の存在を、皆が語るような世界にしてやるから」

 そう言うと、『口裂け女』はふっと姿を消した。『メリーさん』と『人面犬』も静かに消える。

 謁見の前に兵士がなだれ込んできて、口々に何かを怒鳴る。どうやら、城の周りを貴族達と反乱軍が囲んでいるらしい。

「陛下! これはいったい……」
「行くか。オットー」
「はい」

 国王と公爵が立ち上がって兵士に命じた。

「外の者達に伝えろ。代表者と話したいと」



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