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しおりを挟む「ルイゼルっ!!」
「おはようございます。アクセル王子殿下」
声が震えないように挨拶すると、アクセルが傷ついたように顔を歪めた。その表情を見て、ルイゼルはむっとする。何で挨拶しただけで被害者面をされなければならないのだ。
関わりたくないのでそのまま通り過ぎようとすると、がしっと手を掴まれた。
「待ってくれ! 話があるんだ!」
「……王子殿下。手を離してください。いかに王子殿下であろうと、同意なく淑女の手に触れるのは侮辱です」
じろっと睨みつけると、アクセルがびくっと身を震わせた。だから、お前が怯えるな。
「す、すまない。しかし、聞いて欲しいんだ。君が俺のために何度も繰り返して頑張ってくれていたのに、俺は君にひどいことを……」
「殿下。私は今後一切殿下にも殿下の周りの方にも関わるつもりはありませんので、安心してアイナ・ユーメリーさんとお付き合いください。そして、そちらも私に関わらないでください。彼女にもそうお伝えください」
言いたいことを言って、ルイゼルはアクセルに背を向けた。
「待っ……」
「おい。今聞いただろ。こいつはもう、関わって欲しくねえってさ」
追い縋ろうとしたアクセルを、カインが間に入って止めてくれた。
「ルイゼルっ!!」
呼ばれたが、ルイゼルは振り返らなかった。
「大丈夫か?」
隣に並んだカインが肩を抱いてくれて、初めて自分が震えていたことに気づいた。
「……大丈夫、じゃないけど、カインがいるから大丈夫、かな」
「ははっ。六回も魔獣を召還した男をそんなに信用するなよな」
そういえばそうだ。六回のカインの過ちよりも、一回のアクセルの過ちが怖くて許せない。どうしてだろう。
カインは学年が違うのに、教室まで送ってくれた。そこにはやはりアイナがいた。
「ルイゼルさん! また男の子の格好なんかしてカイン様を騙してるんですか!?」
ああ、変わらない。まったく変わっていないアイナを見て、ルイゼルはうんざりした。
「俺が誰に騙されるってんだ。ルイゼルに近寄るなクズ女」
「カイン様に何を吹き込んだんですかルイゼルさん!ひどいです!」
「ひどいのはどちらよ!」
ルイゼルに濡れ衣を着せようとするアイナを、ナディアとシーラが制止した。
最初の生で友人達だった令嬢だ。
「アイナさん、今回はルイゼルに近寄らないでちょうだい!」
「私達、もう貴女には騙されませんから!」
ナディアとシーラはいそいそとルイゼルに近寄ってくる。
「おはよう、ルイゼル。私達、貴女に謝らな……」
「セルディ侯爵令嬢、マディソン伯爵令嬢、おはようございます。私はユーメリー子爵令嬢に何も危害を加えるつもりはありませんので、安心してお過ごしください」
ルイゼルは遮って言った。
「謝罪などは必要ありません。その代わり、私に関わらないでください」
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