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 ディアンヌが立っていた場所には、一人の青年が立っていた。

 ディアンヌと同じ亜麻色の髪、緑色の瞳。顔立ちも、ディアンヌに似ている。
 いや、まさかそんな……

「ディ、ディアンヌ……?」
「すまない、アデル。私の本当の名はディアンヌではなくて、——ディートリフという」

 ディートリフ……?

「ディートリフ第二王子だ」
「……え?」
「説明をさせて欲しい。カレンス家の娘が王子に掛けた呪いは、死ぬのではなく、性別を変える呪いだったんだ」
「え……?」

 私はぱちぱちと目を瞬かせた。

「呪いを掛けられた王子は、だいたい十歳くらいで性別が変わってしまうんだ」

 ディアンヌ——ディートリフ殿下——はそう言った。
 嘘でしょう。

 じゃあ、ディアンヌがディートリフ殿下だったっていうの?

「どうして……」
「性別が変わってしまった王子は、十八歳になるまではカレンス家で女として暮らさなければ元に戻れない。そういう呪いなんだ」
「そんな」

 私は絶句した。

「それでも、最初は男児はことごとく呪いにかかっていたようだけれど、だんだんと呪いが出ない王子も生まれるようになってきた。私の兄上も呪いはかからなかった。私は久々に呪われた王子だったんだ」

 ディアンヌ——ディートリフ殿下は、気まずそうに頭を掻いた。

「本当は……男に戻ってから貴女に会いに行くつもりだったんだ。だけど、あの夜、貴女を見かけて放っておけなくて……」
「え?」

 私に会いに?

「どうして?」
「……私に呪いが現れた十歳の頃。初めてカレンス邸へ入った日のことだ。私は、突然変わってしまった性別に戸惑って、これから十八歳まで女として暮らさなきゃいけないと知って、死にたくなった。それで、カレンス邸から逃げ出そうとした。
 その時に、うずくまって泣いている女の子を見かけて、思わず声をかけていた。
 女の子の話を聞くと、すごく辛い想いをしていて、ひどい家で暮らしているんだと思った。でも、女の子は自分で涙を拭って、「あんな家、大人になったら絶対に出て行ってやる!」って啖呵を切ったんだ。
 その女の子が大人になるまで耐えるというなら、私も耐えてみせようと思った。それで、大人になったら、この子を迎えにいこうと決めた」

 ディートリフ殿下の話す内容に、私は驚くばかりで声が出てこなかった。

『大人になったら迎えに行って、そんな家から連れ出してやる。だから、待っていろ』

 昔、男の子に言われた言葉が脳裏に蘇る。
 男の格好をしていたから男の子だと思ったけれど、じゃあ、あれは性別が変わったばかりのディートリフ殿下だったの?

 ディアンヌが男で、殿下で、記憶の中の子供だったというだけでももの凄い衝撃なのに、ディートリフ殿下はさらに私を混乱させることを言った。

「アデル。どうか、私と婚約して欲しい」


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