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十五、
しおりを挟む一瞬、体がずしんっ、と重くなった。驚いて立ち止まると、途端に目の前の白い霧が晴れて視界が広がった。
「うわあ、すごい。本当に現れたのね」
甲高い声がして、驚くほど近くに立っていた少女が、ひょいと広也の顔を覗き込んだ。
「うわっ」
面食らってのけぞった広也は、後ろの壁に思いきり頭をぶつけた。
「いってえ……」
「大丈夫? 岩なのに、痛いんだ?」
後頭部を押さえて呻く広也の顔を、その少女はしげしげとみつめ、何を思ったのか、手を伸ばして彼の頬に触った。広也は驚いて身を引いたが、少女はうれしそうに声をあげて笑った。
「すごぉい。ちゃんとやわらかくなってる」
齢は広也と同じぐらいだろう。巫女装束のようなものを着ていて、紺色の袴の腰元に青い大きな鈴をつけている。肩口で切りそろえられた髪は黒というより袴と同じ紺色に見えた。
少女はくりっとした大きな目で広也を見据え、こう言った。
「よろしくね。ときわ」
広也は訳がわからずに辺りを見回し——驚愕した。
そこは神社のようにただっ広い板の間の空間で、立派な丹塗りの柱が立ち、その壁に沿って大きな祭壇が設けられている。そして、その祭壇の上に乗っているのが、他でもない広也自身だった。
「な、なんだ、ここ」
「ここ? ここは晴の里の神殿よ。ときわを奉っている場所だもの。他のどこでもあるはずがないじゃない」
「晴の里? 」
一瞬、遠野にそんな名の場所があったかと考えてみたが、さっきまで山で迷っていたことを思い出して広也は頭を振った。
「晴の里ってどこだい? 僕はなんでこんなところに?」
「晴の里は晴の里よ。あなたはここへやって来たのよ。トハノスメラミコトを探すために」
「とはのすめらみこと? 」
「そうよ。それがときわの役目だもの」
(ときわ? )
聞き覚えのない言葉の羅列に、広也は眉をひそめた。
「ときわって、何? 」
「あなたのことよ」
少女はごく当然という顔で広也を見下ろした。訳がわからないまま、広也はとりあえず否定する。
「僕はときわじゃないよ。僕の名前は広也だ」
少女は不思議そうな顔をして、
「いいえ、あなたはときわよ。間違いないわ」
断定的に言いきった。
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