マヨヒガ

荒瀬ヤヒロ

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八十一、

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 まばゆい光に飲み込まれたと思ったので、ときわはしばらくの間目を開けるのをためらった。
 落下する感覚は止まり、海中を漂っているような心地よい感覚が全身を包んでいた。あの繭の中に少し似ていると考え、そういえばあの繭の欠片が白い光に変わったのだと思い出した。あれだけ脱出するのに苦労したくせに再び同じような状況に陥っていることに気付いて、ときわは自分の判断を少し危ぶんだ。

(ここはあの巨人のお腹の中なんだよな?)

 ときわはゆっくり目を開けてみた。予想していた通り、真っ白な空間が広がっていた。だが、心配していた目を刺すような眩しさはない。ときわは水を掻くように腕を動かして、体勢をまっすぐに立て直そうとした。といっても、どこまでもまっしろな空間ではどちらが上でどちらが下なのかも曖昧だったが。
 なにもない空間にぽつりと浮かんで、さてこれからどうしようと首を捻った時だった。

(ここにいるべきでないものがいる)

 頭の中に声が響いた。抑揚のない少年の声だった。

「誰?」

 辺りには白が広がっているだけで人の姿はない。だが、声は非難するような調子でときわの頭の中に響いた。

(ここはお前の来る場所ではない。出ていけ)

「出ていけって言われても……」

 ときわは白い空間を見つめながら問いかけた。

「君は誰?」

(誰でもない)

「どうしてここにいるの?」

(ここが私の居場所だからだ)

「ここはどこなの?」

(迷ひ家だ)

——迷ひ家。マヨヒガ。

 姿の見えない少年の声は不機嫌そうで取っつきにくかった。ときわの存在に苛立っているようだ。

「どうして僕はここにいちゃいけないの?ここはマヨヒガなんだろう?マヨヒガは迷い子のための場所だってきつねが言ってたよ」

(そうだ。迷ひ家は迷い子のための場所だ)

「だったら……」

 言いかけたときわの目の前の白い空間に、急に風景が浮かび上がった。真っ白な空間に突然出現した色の付いた景色にときわは驚いて口を開けた。

 それは平原の映像だった。真ん中に、誰かが倒れている。どこからともなく飛来した白い布がその誰かの上に被さった。



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