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九十三、
しおりを挟む広隆は最初驚いた顔をしていたが、秘色の言葉を聞くと笑みを浮かべて秘色を抱きしめた。
その光景を見て、広也は広隆が完全に秘色を許しているのだと知った。
(兄さんらしいな)
二人の姿に暖かい気持ちになりながらも、自分だけ仲間外れにされているようで広也は少し複雑だった。
その時、広隆に抱きついたまま秘色が顔だけを広也に向けた。目が合って、内心を読みとられたかと思って広也は少しどきりとした。秘色は広也の顔をじっと見て、それから一度広隆の顔を覗き込むとようやく体を離した。そして、広隆に軽く背中を押されるようにして広也の前に歩み出た。
「ときわ——広也は一人でここまで来たのね。広也はちゃんと一人で歩けるのに、あたしはあなたのことを信じていなかったのね。あたしがすべきことは広隆を排除することではなく、あなたを信じて送り出すことだったのに」
そう言って、秘色は悲しそうに微笑んだ。
「今ならわかるわ。あたしはあなたにずっと必要とされていたかったの。あたしだけ一人で置いていかれたくなかったの。そのせいで、広隆にひどいことをしてしまったわ。本当にごめんなさい」
広也は目を伏せて地面を見た。広隆が突き落とされた時に感じた怒りはまだ自分の中にある。それはきっと簡単には消えないだろう。でも、秘色があんな行動を取った原因の一端は恐らく自分にもあったのだと広也は思う。自分が秘色に心配されてばかりで、信じて任せてもらえるような人間じゃなかったからだ。
広也は大きく息を吸って目を閉じた。
(何も出来ないなんて言って甘えていた僕を、秘色が信じられなかったのは無理もない)
広也は自嘲の笑みを浮かべて目を開け、目の前で不安そうな顔をしている秘色に片手を差し出した。
「僕の方こそごめん。君にひどいことを言った」
秘色のしたことは許せなくても、自分もまた許されないことを言ったのだ。秘色を傷付けた。人殺しと言われた時の彼女がどれほど深い絶望を味わったか、それを考えると胸が痛かった。
差し出された手を見て秘色は少し驚いていたが、やがてにっこり笑うとその手をぎゅっと握った。
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