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第一話「白い手」

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 稔は懸命に頭を巡らせた。赤い本を触ろうとすると死んだ生徒の霊が出る。死んだ生徒とは竹原のことか。だが、竹原自身が赤い本の被害者だ。
 だとすると、竹原は警告のために姿を現していたのではないか。その本に触ってはいけないと言うために。

「ほら、中学生はそろそろ帰れよ」

 無言で考え込む稔に、里舘が帰宅を促した、

「あの」
「ん?」
「えっと……その、寄贈された本って、誰が寄贈したのか調べる方法ってありませんか?」

 里舘は怪訝な表情で稔を見下ろした。変なことを訊いている自覚があるだけに稔はどぎまぎした。

「なんでそんなもん知りたいんだ?」
「えっと……」

 答えようがない。その本のせいで人が死ぬので調べている、なんて言ったら頭のおかしい奴だと思われる。

 里舘にじろじろ見下ろされて、稔は縮こまって俯いてしまった。こういう時、大透ならば口八丁手八丁で聞き出せるのだろうか。後藤と相対していた大透の姿を思い出して、その愛想の良さが羨ましくなった。
 入学以来、大透と普通に会話出来ていたから忘れていたが、稔自身は元々人付き合いが不得手なのだった。上手く喋れない。

 黙り込んでしまった稔をじっと眺めて、里舘が尋ねた。

「お前、何組だ?名前は?」
「柳組の倉井です……」

 里舘はふむ、と唸って眉根を寄せた。
 居たたまれなくなった稔が適当に誤魔化して逃げようと口を開く直前に、里舘が「生徒手帳を見せろ」と要求してきた。
 逆らう訳にもいかず、稔はのろのろと生徒手帳を出して里舘に渡した。

「倉井稔か……」

 生徒手帳を確認した里舘は、稔をその場に残して貸し出しカウンターの中に入った。備え付けられているパソコンを立ち上げて何か操作しているのを稔はドキドキしながら見守った。
 やがて、里舘が稔を手招きして言った。

「それで、どの本の寄贈者が知りたいんだ?」
「え?」

 稔は驚いて顔を上げた。
 里舘は「内緒だぞ」と人差し指を立てて言った。

「悪いことしそうな奴には見えねぇし、特別に教えてやる。平成15年以降に寄贈された本ならデータベースに入力されてるからな。流石にリストを見せる訳にはいかねぇけど」

 稔は面食らってぽかんと口を開けた。

「おら、俺の気が変わらないうちに早くしろ」

 里舘に促されて、稔は慌てて机の上の本を取りに走った。

「これなんですけど……」

 稔が抱えて戻ってきた数冊の本のタイトルを確認して、里舘がキーボードを叩いた。

「なんだ。全部同じ寄贈者じゃねぇか」

 里舘が漏らした言葉に、稔は「やっぱり……」と呟いた。

「寄贈者は渡辺和子。住所は……なんだ、学校の近くじゃん」
「住所もわかるんですか?」
「んー、わかるけど、流石にそこまでは教えてやれねぇよ。個人情報にうるさい時代だからな。それに、八年前じゃ引っ越してるかもしれないし」
「そう……ですよね」

 もっともな言い分に、稔ははーっと息を吐いた。
 だいたい、聞いてどうするつもりなのだ。これ以上、深入りする覚悟もないくせに。

「ありがとうございました」

 稔は丁寧に礼を述べて、本を元の位置に戻してから帰ろうと踵を返しかけた。
 しかし、背後から伸びてきた里舘の手にがっしと肩を掴まれて引き留められた。
 肩越しに振り向くと、里舘はにっこりと満面の笑顔を浮かべて言った。

「タダじゃねぇぞ?」
「へ?」



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