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第四話「五月雨に濡れるなかれ」

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***



 自室で雑誌を読んでいると、携帯がメッセージの受信を告げた。

『明日、学校終わったら俺ん家集合。石森には内緒で』

 大透から届いたそれに、文司は首を傾げた。

『なんで石森に内緒なんだ?』と送ると、『明日話す』と返ってくる。不思議に思いつつも、文司はそれ以上尋ねなかった。
 土曜日は半日授業だ。石森が部活に行くのを見送った文司が稔と大透の元にやってくる。

「うっし。じゃあ行くか」

 大透が鞄を持って立ち上がり、三人はまっすぐ大透の家に向かった。
 二十人ぐらい座れそうな長いテーブルのある部屋で喫茶店でお目にかかるようなオムライスをご馳走になった後で、大透の部屋に集まり本題に入る。

「土砂降り男は空手部のコーチだと思う」

 大透の言葉に文司はぱちりと目を瞬いたものの、異を唱えることはなかった。

「でも、動機がまったくわからん」

 大透がずるずると椅子にもたれ掛かって溜め息を吐く。
 理由もなく誰かれ構わず殴りたがる異常者だという可能性もあるが、それにしては「土砂降りの日」にしか犯行を行わず「傘を差していない相手」しか襲わないというのは妙な話だ。

 人を殴ることに快感を覚える快楽目的の犯行なら雨の日だろうと晴れの日だろうと他人を殴りたくなるはずだし、復讐が目的の怨恨が動機なら文司には殴られる心当たりがない。

「訳がわかんないんだよなあ。殺されたって言ってる妹はたぶん事故死っぽいし」

 昨日の女性と町山の会話も文司に話して聞かせた。
 それを聞いて、文司も首を捻る。

「なんなんだろうな」
「学年一の秀才にわからないんじゃあ俺らにもわからん」

 大透はお手上げだというように両腕を上げた。

「師匠はどう思います?」
「いや、わからんって」

 あいにく生きている人間の犯罪は専門外だ。いや、心霊現象が専門な訳ではないけれど。

 文司は口元に手を当てて、考える素振りを見せた。
 ややあって、ぽつりと口を開いた。

「……囮捜査してみますか」
「囮捜査?」

 突拍子のない言葉に、稔と大透は目を丸くして文司を見た。

「土砂降りの日に、コーチの前で傘を差さずに歩いてみるんですよ」
「何言ってんだ?」

 稔は呆れた。そんな危ない真似をさせられる訳がない。ただでさえ霊障やら怪我やらで入学早々出席日数がやばい癖に、これ以上休んだら本格的に病弱な美少年認定されてしまうだろう。

「樫塚は一回被害者になってるじゃん。やるなら俺がやるよ」

 大透は自分が囮になると挙手した。稔が馬鹿なことを言うなと窘めるより先に、文司が残念そうに眉を下げて苦笑いを浮かべた。

「たぶん、宮城じゃ駄目だなあ……」
「は?なんでだよ」
「足りないと思う」

 文司はふっと目を逸らした。


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