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第十三話 側近候補達の願い
しおりを挟む「ありえない」
ジェラルドは頭を抱えて呻いた。
真紅のベルベッドの椅子に腰掛け俯く主を、アレスとオスカーは何も言えずに見下ろした。
「ありえないだろ……可愛すぎる」
さっきからこれだ。アレスとオスカーは目を見合わせた。
「小さくて可愛い。笑顔が可愛い。小首を傾げる癖が可愛い。俺の婚約者が可愛い」
学園から帰ってきてからずっと、ジェラルドはリートが可愛いとしか喋っていない。他のことは考えられないらしい。
「なあ、俺は夢を見ているのかな?入学式からずっと、長い夢を見ているんじゃあ……」
「落ち着け。俺達もにわかには信じがたいが、まぎれもなく現実だ」
幼い頃からジェラルドのモテないぶりをつぶさに見てきた二人にも、リート・クーヴィットの存在は信じがたいものだ。
しかし、リート本人にもクーヴィット伯爵家にも、今のところなんら悪い評判も悪質な企みも感じ取れない。
「ゆ、夢じゃないなら、どうしたらいいんだ……?」
ジェラルドは喜びよりもむしろ恐怖を感じているような表情で呟いた。
「まあ、とりあえずは普通に接すればいいだろう」
「普通にってどうすればいいんだよ?俺は俺に近寄られても怯えない話しかけられても泣かない触れられても吐かない女子なんて初めて出会ったんだよ!!」
つくづく不幸な男である。アレスとオスカーはその言葉にいっさいの誇張がないと知っているからこそ遠い目になった。
帝国の皇太子であり、優れた容姿と有り余る才能を持ち合わせながら、呪われているとしか思えないほど女子から毛嫌いされているジェラルドを見てきたのだ。二人だって、出来ればリートがジェラルドに寄り添って幸せにしてくれればいいと思っている。
「婚約者になったことだし、手紙を書いて贈り物をしておけばいいんじゃないか?」
「俺からの手紙なんて女子にとっては不幸の手紙だぞ!?」
「リート嬢なら喜んで受け取ってくれるかもしれないだろ」
二人がかりで説得して、ジェラルドになんとかペンを握らせた。
「リ……リート……はあーっ……クーヴィット……はあはあ、伯爵令嬢へ……はあーっはあーっ」
「ちょっと落ち着いてくれ!俺はそんな荒い息遣いで書かれた手紙を令嬢の手に渡したくない!」
これからよろしく、というだけの内容を描くのに文字通り息も絶え絶えになりながら、完成させた手紙に美しい刺繍のハンカチを付けて伯爵へ送った。
「やっぱり止めた方がよかったかなあ……ハンカチを贈るだなんて、俺が贈ったハンカチなんて、気持ち悪くてポケットに入れられないんじゃあ……」
後ろ向きなことをぶつぶつ呟くジェラルドに、アレスとオスカーは呆れながらも彼が素直に婚約者の喜ぶ顔を想像できる日が来るといいなと願った。
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