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第十四話 贈り物と少女
しおりを挟む心を開かせて魂を入れ換える。
そのためには、皇太子のがちがちに固まった女子への警戒心と自信の無さをなんとかしなければならない。
「男を融かす仕草……大丈夫、私ならやれる。海千山千の愛人連中をずっと見てきたのだもの!」
自分を鼓舞しつつ、鏡の前で愛人を参考に悩殺ポーズを取ってみる。腰を少し落として、両腕で胸を挟むようにするポーズ。胸のないリートがやると、なんだか前かがみでおしっこを我慢しているようにしか見えない。
「ふう……」
おしっこ我慢ポーズは自分に向いていないと、リートは早々に見切りをつけた。
胸を使った色仕掛けは不可能だ。
「大丈夫。胸なんかなくても、ジェラルドはアモルテス様とは違って純情なんだから」
不特定多数の愛人を侍らせているクズ男とは違うのだ。ジェラルドはリートに手を握られただけでも気絶してしまうぐらい女性に態勢がないのだから。
「ジェラルドが気絶しない程度にべたべたしなきゃ……加減が難しそうだなぁ」
寝台に寝転がってうんうん唸っていると、アリーテがやってきた。
「リート様!皇太子から贈り物です!」
きゃあきゃあとはしゃぐアリーテが綺麗な包みと手紙を差し出してくる。リートは寝台から起き上がってそれを受け取った。
まず手紙を開くと、少し震えた字で「リートに会えてうれしい。これから少しずつお互いのことを知っていきたい」という内容が短い言葉で書かれていた。そこに滲み出る誠実さに、リートは思わず微笑んだ。
(理由もなく女に嫌われるという理不尽な目にあって育ったというのに、いい子に育ったなぁ)
うんうんと頷きながら、リートは包みを解いた。
青い花が刺繍された、美しいハンカチが現れて、リートは小さく「わぁ」と漏らした。
「さすがリート様!皇太子はもうリート様に夢中ですね!」
「いや、そんなことはないけれど……」
アリーテは盛り上がっているが、リートはふるふると首を横に振った。これはただの挨拶代りの贈り物だ。そんなに深い意味はないだろう。
でも、ジェラルドはちゃんとリートと仲良くなりたいと思っているのだ。そう考えるとリートは口の端がむずむずした。
アリーテが部屋から出ていった後で、リートはハンカチを胸に抱いて寝台に転がった。
「うふふ……」
なんだか胸があたたかい気がする。
「こんなの貰ったの初めてだ」
アモルテスからは服とかアクセサリーとか送られてきたことがあるが、あれは愛人への贈り物を買う時についでに注文されたものだ。愛人にかまけて仕事をサボるアモルテスが弟子にお目こぼしをしてもらう目的で贈る賄賂である。
このハンカチは、それとは全然違う。純粋に、ジェラルドがリートと仲良くなりたくて贈ってきたものなのだ。
「いけないいけない。私は天界の者なんだから、下界の人間から貰って物で心をかき乱されるだなんてあってはいけないことだわ」
リートは自分に言い聞かせた。
「私は魂を司る創天宮の天主の後継者。下界の人間なんか、一時的に関わるだけなんだから」
リートは天界人の矜持を胸に、ハンカチを机の上に置いて、包みを綺麗に折りたたんで手紙と共に引出しにしまった。
ハンカチは明日、忘れずに持っていこう。そして、ジェラルドにちゃんとお礼を言わなくては。
「綺麗なハンカチ、ありがとうございます、うれしいです……もっと、すごく喜んでいるって感じで言った方がいいよね。素敵です、センスいいですね……うーん。なんて言おう……」
眠りにつくまで、リートは寝台の中でぶつぶつジェラルドへのお礼の言葉を考えていたのだった。
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