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第二十三話 誓いの言葉
しおりを挟むアレスは眉間に皺を寄せて茶を飲んでいる。あまり楽しそうには見えない。
対するオルガは公爵令嬢らしい完璧な所作を披露している。
侯爵家嫡男と公爵令嬢なら身分的にも釣り合いが取れているし、たくましいアレスと儚げでありながら凛としたオルガが並べばさぞ絵になることだろう。
全員が茶を飲んで一息ついたところで、ジェラルドが口を開いた。
「今日は、お前達三人に礼が言いたくて集まってもらった」
全員がジェラルドに注目した。
「お前達には、俺がモテないせいで散々に苦労をかけてしまった。帝国を継ぐ者でありながら、女性から忌み嫌われるという宿業を背負った俺のような者を見放すことなく支え続けてくれたお前達の忠誠に感謝する」
「殿下。そのような……私には過ぎたお言葉です。バースター様やロットリング様とは違い、私は殿下をお傍で支えることも出来なかった不忠者……殿下と両陛下のご寛容により許されてまいっただけでございます」
オルガが目元を押さえて落涙した。なんかもう、この場にいる全員に三十発ずつアモルテスを殴らせてやりたいとリートは思った。
「いいや、バルディン公爵令嬢の忠義は誰も疑うことのできぬものだ。お前達のおかげで、俺は奇跡のような出会いを得ることができた」
ジェラルドはちらりとリートを見て、頬を赤くした。
「バルディン公爵令嬢には、今後は俺のは……伴侶となるクーヴィット伯爵令嬢を支えてもらいたい。そして、アレスとオスカーには、クーヴィット伯爵令嬢と彼女を支えるバルディン公爵令嬢を守ってもらいたい」
ジェラルドがそう言うと、三人は真剣な顔つきで胸に手を当てた。
「我が力の及ぶ限り、お言葉に従うことを誓います」
オルガが誓いの言葉を捧げ、茶会の場は厳粛な雰囲気に包まれた。
(いや、私なんかにそんなに気を遣わないでもらいたいんですけど!)
リートは一人、罪悪感にさいなまれて冷や汗を流した。
「ありがとう。礼を言う」
ジェラルドが王者の風格で頷いた。そこへ、オスカーが声を上げる。
「我らは帝室に忠誠を捧げた家の者として、祖先より受け継いだ魂を次代に伝えることもまた重要な責務である」
高位貴族は帝室に仕える子を産まねばならぬ、とオスカーは言っているのだ。それは高位貴族としては当然のことだ。
「アレスとオルガ嬢は、殿下への忠義の心厚いゆえに婚約者を作らなかったが、殿下に婚約者ができた以上、アレスとオルガ嬢にもその忠義を次代に継いでもらわねばならないだろう」
オスカーの仰々しい言葉に、アレスは顔をしかめ、オルガは不安げに瞳を揺らした。
「オスカーの言う通りだ。二人とも、特別に思う相手はいるのか?いないのならば、二人が手を取り合ってくれるのが望ましいのだが」
ジェラルドが言うと、オルガは弾かれたように顔を上げた。
「そんなっ……私のような者が、どうしてバースター様のような立派な御方と添うことが出来ましょう」
オルガがはらはらと涙を流した。
「申し訳ありませんっ」
泣き顔を隠して、オルガは庭の奥へ逃げていってしまった。
「ジェラルド様、オルガ様のことは私が!」
リートは席を立ってオルガを追いかけた。アレスのことはジェラルドとオスカーが説得してくれるだろう。
(なんかちょっとわくわくしてきた!)
普段、大胆な愛人達ばかり見ているせいか、オルガのような奥ゆかしい令嬢と生真面目な男をくっつけるという展開がひどく楽しい。自分にこんな一面があったとは、とリートは自分で意外に思った。色恋なんて、ろくなもんじゃないと思っていたのに。
アモルテスには「お前は恋というものを知らない」と言われたが、自分にもちゃんと恋を理解する心があるのだと、リートは内心で「どうだ、みたか!」と叫んだ。
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