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第四十一話 魂を得た者
しおりを挟む「私に逆らうか……」
怒りに満ちた声が、辺りを包む。アモルテスを中心に空気がうねっているようだった。
「こんな世界など、今すぐ潰してしまってもかまわないのだぞ?」
リートの肩がびくりと震えた。
アモルテスの本気の怒りに、足がすくんでしまう。だけど、リートはもうジェラルドから離れるつもりはなかった。
「お怒りならば、私一人を殺してください。この世界には、ジェラルドには手を出さないでください」
「リート!?」
ジェラルドが目を見開く。
「私には魂がない。ならば、いっそ器を壊してください。こんな器だけの私でも、ジェラルドに恋をすることが出来た。だからこのまま、幸せなまま壊してください。記憶を奪われるぐらいなら、この記憶を抱えたまま壊してほしい」
リートがそう言って胸に手を当てて微笑んだ。すると、そこからまたほろほろと白い光がこぼれたのが、ジェラルドには見えた。
「リート。いい加減に……」
「無駄無駄! 諦めろよ!」
アモルテスが何か言い募ろうとしたのを遮って、ひどく明るい調子の声が響いた。
白金の髪を揺らす美しい男とは対照的に暗い色の短い髪をぼさぼさと遊ばせた、若い男が天井付近に浮かんでいた。
「見えるだろう? リートに、魂が生まれた」
新たに現れた男——ザルジュラックは、リートの胸を指さして言った。
「ごく稀に、神が創ったのではなく、自然に発生する魂が現れることがある」
リートは自分の胸を見下ろした。そこから、ほろほろと白い光がこぼれている。
「生き物に大切に大切に愛された物に、魂が生まれることがある。お前のお人形には、あの小僧が愛したせいで魂が生まれちまったよ。もう、お前のものじゃない」
アモルテスはザルジュラックを睨みつけた。
だが、意に介することなくザルジュラックは続ける。
「神が創ったのではない魂に、神は手出ししてはならない。それが天界の掟だ。リートはこの世界で魂を得た。この世界で生きなければならぬ。死んで、他の魂と一緒に浄天宮へ運ばれる時まで」
アモルテスは唇を噛み、リートをみつめた。その胸の中に、確かに小さな白い魂が在る。アモルテスが与えなかった魂が。
それを、彼女に与えたのは、彼女を抱くちっぽけな人間の小僧だ。
「……リート、私の元へ戻れ」
アモルテスはリートへ向かって手を伸ばした。
「愛している」
リートは一度目を閉じて、それから、再び目を開けるとまっすぐにアモルテスを見据えた。
「アモルテス様」
震えることのない声で、リートは言った。
「お慕いしておりました。創天宮の主としての貴方様を」
魂が在ろうとなかろうと、それは変わらない。
「でも、私はこの世界で、ジェラルドのそばで生きたいのです」
はっきりと告げるその顔は、設定された通りに動く人形ではなく、恋を知った少女の顔だった。
「アモルテス様、未練がましい男は見苦しいですわ」
いつの間にか、ライリンがアモルテスの傍らに移動していた。
「人形なんて、また創ればいいではありませんの」
少し拗ねたように、くりっと小首を傾げる。
「あんな出来損ないの失敗作、この世界に捨てておしまいなさい。神にはふさわしくありません」
ライリンはそう言ってアモルテスにそっと抱きつく。
「……」
アモルテスは顔を歪めてリートを見ていた。
だが、やがてふいっと顔を逸らすと、その姿がふっとかき消えた。ライリンやザルジュラックとともに。
「……あ?」
「う……なんだ?」
「なにをしていたんだ、我々は……」
惚けていた貴族達が、我に返って動き始める。
「ジェラルド、リート嬢、何かあったのか?」
皇帝が二人に尋ねた。
リートはジェラルドと目を見合わせた。
「ジェラルド、私は……」
「いいんだ」
リートの言葉を、ジェラルドが遮った。
「いいんだ。リートが何者でも」
ジェラルドは力強く言って、微笑んだ。
「私を選んでくれたから、それでいいんだ」
リートは瞳を潤ませ、ジェラルドに抱きついた。何が起きたのか首を傾げる貴族達の真ん中で、二人は強く抱きしめあった。
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